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東京都台東区/上野・国立科学博物館「貝類展:人はなぜ貝に魅せられるのか」で自然の美をドップリ堪能!

デヤブロウ街歩きWebライター(東京都台東区)

 台東区・上野公園の国立科学博物館では2025年3月2日(日)まで、企画展「貝類展:人はなぜ貝に魅せられるのか」を開催しています。
 貝類は食料として身近である一方、貝殻が道具や装飾品の素材として、もしくは貝自体がコレクション価値のあるものとして、人類の文化や生活と共に歩んできました。その貝類の個性・魅力・多様性を一挙紹介するのが今回の企画展。何気なく食べている貝に「こんな顔があったのか!」と驚かされますよ!

◆科博の貝類コレクションを一挙展示

画像提供:国立科学博物館
画像提供:国立科学博物館

 国立科学博物館に収蔵されている500万点以上の資料のうち、動物に関するものは234万点以上。その中には、実業家・河村良介氏(1898-1993)や鉱物学者の櫻井欽一氏(1910-1993)によるコレクションを中心に、非常に膨大な量の貝類コレクションも含まれます。

 本展ではその貝類資料の一部をピックアップし、生物学的な特性や多様性の奥深さ、人類との関連、現状と今後についてを紹介していきます。貝に詳しくない人でも、大人でも子どもでも楽しめる内容ですよ。

◆序章の目玉は巨大な貝でなく「イカ」!?

 今回の展示は国立科学博物館・日本館1階の中央ホールと企画展示室を使用して開催されています。科博で貝類関係の前回企画展を行ったのは1983年で、実に41年ぶりとのこと。今回の企画展は貝類自体の自然史や生態よりも、人類との関わりがメインになっているのが特徴です。

画像提供:国立科学博物館
画像提供:国立科学博物館

 企画展の冒頭にあたる序章「貝類の世界」では広々とした日本館1階中央ホールを使用して、貝類の概要と進化過程、サイズごとの種類を紹介。一般でいう「貝類」とは炭酸カルシウムの殻をもった軟体動物(無脊椎動物の一群)のことですが、広義には貝殻を持たない貝類もおり、極小〜極大までさまざまな種類の標本などを、ホールの広さを活かして展示しています。

 ホールで真っ先に目につくのは、パーティション上に乗っかっている、何ともでかくて迫力あるダイオウイカの実物大模型!「なんで貝類展なのにイカ?」と思うかも知れませんが、実はイカやタコなどの軟体動物(頭足綱)も、広義には貝類の一種となっているのです。

 目線を下すと、ホールの中央には貝類の進化過程を説明する扇状の展示物があり、その上に化石標本やプラスティネーション標本が置かれています。扇の真ん中から進化がスタートし、周縁へと枝分かれが広がるに連れて現在の生物に近づいていく構成です。

 一般に想像される以上に、貝類はグループによって見た目や生態の違いが大きい生き物。そうした中でもいくつか貝類共通の特徴があり、その一つが「歯舌(しぜつ)」です。このギザギザな構造が口の中に並んでいて、餌をヤスリのように削り取って食べるのですね。(※二枚貝綱では水中プランクトンを漉し取る食事に適応したため退化)

 序章では大きな貝と小さな貝もあちこちに配置されています。こちらは世界最大級の貝類として知られるシャコガイ(オオジャコ)の貝殻です。

 一方、こちらの「ミジンワダチガイ」は殻径0.5mm程度。世界でもっとも小さい貝の一種です。サイズだけ見ても非常にバラエティ豊かですが、ここから先にはさらに奥深い貝類ワールドが広がっています。

◆貝は種類によって形・色・生態と千差万別

 企画展示室の第1章「貝類の多様性の成り立ち」では、軟体動物の全体像とともに多様性の奥深さをご紹介。軟体動物の種類は地球上でなんと10万種類以上!これだけの種類があると、体の構造や生息環境、貝殻の形は非常にバラエティ豊かになります。

画像提供:国立科学博物館
画像提供:国立科学博物館

 1章以降のインテリアやパーティションは、きれいな貝殻を思わせる乳白一色。企画展の内装は子ども向けにカラフルになることも多いのですが、今回は格調高く知的な雰囲気です。

 ここでは270種類の貝類標本が、軟体動物の8グループ(綱)に分けて展示されています。標本は腹足綱(巻き貝など)の割合が多く、そのほかの綱はワンコーナーにまとめられています。

 貝殻の標本はそれぞれ一番美しく見える構図・ポージングで展示されているとのことで、単なる学問的な説明だけでなく、ビジュアル的な魅力でも鑑賞者に楽しんでもらおうという、科博のこだわりと気遣いが見られます。また、微小な標本には見やすいよう拡大写真も添えてあります。

 貝類は大きさ、形状、色合い、生態など千差万別です。例えば、こちらのメオトヤドリニナはフィリピンの近海に生息する寄生腹足貝で、ヒトデの表面などに寄生して生きています。このようにヒトデやナマコなどに寄生する貝類は少なくなく、寄生先の体内に定着すると貝殻を喪失してしまうものもいるそうです。

 マボロシハマグリハリナガリンボウなど、殻にトゲを生やした貝類も数多く存在します。これらは強靭なハサミを持つカニ類など捕食者から身を守る用途のほか、海底の砂・泥の上で転倒や沈み込みを防ぐ安定化の用途もあるとか。

 貝殻を持っていないウミウシも、立派な貝の一種。ウミウシといえば不気味さやサイケデリックさ、あるいはカッコ良さを感じさせる極彩色の模様が特徴ですが、本展ではその色を保ったまま保存されている、貴重な標本が展示されています。

 陸上で生活するカタツムリは巻き貝の一種で、その貝部分が退化したのがナメクジですが、この二者は生物学的な線引きがかなり曖昧とのこと。見た目のかわいいカタツムリは食用にされることもありますが(サイゼ◯ヤのメニューで定番ですね)、ナメクジの方は食用されることもなく、ジットリした見た目が嫌悪されることもしばしば。同じ巻き貝なのに…

 なんとも色とりどりで華やかな貝殻も展示されていました。その道の愛好家でなくても、机や棚に飾っておきたくなる美しさ!

 色味だけでなく模様の細かさ、精密さも貝類の見所です。

 美しい外観と、それに反して「毒針持ち」という攻撃性の2点で有名なイモガイ類は、模様が綺麗な貝の代表格。しかしこの模様、イモガイが生きているうちは貝殻表面が膜に覆われてるために見えないそうです。生前は直接見えない部分になぜこんな綺麗な模様が?という理由は今も研究中だとか。

 イカやタコなど、貝殻を退化させる方向に進化した貝類も説明がありました。スルメイカの中にある細く固い骨のような部分は、彼らがまだ貝類らしい特徴を持っていた頃の名残りだそうです。

 その一方、進化の過程で元々の貝殻と全く別の部位が硬くなり、さながら新しい貝殻のようになるタコの仲間もいるようで、生物というのは環境次第で何がどう変化するか分からないものです。

◆古代〜現代と続く人と貝の関わり

 第2章「人類と貝類の長い関わり ー 先史時代〜現代」では、人類にとって貝類の存在がどれだけ大切で貴重なものかを、歴史にそって説明していきます。貝類は古来より人類の食料となっていた一方、貝殻も道具やアクセサリーに加工されるように。やがては宗教や文化にも関わるようになっていきます。

 展示のトップバッターは「貝輪」。これは縄文時代〜弥生時代の古代日本で使われた装身具で、当時の支配階級の象徴でもあったそうです。後には青銅や碧玉で貝輪に似せた装身具が作られるなど、古代日本のファッションの礎となりました。

 貝輪は奄美〜沖縄で採取・加工されたものが九州北部で出土する例もあり、古代から日本での海洋取引ルート「西の貝の道」が存在した証拠にもなっています。また、弥生時代の地層の発掘調査によって伊豆諸島や三浦半島などでも貝輪が見つかることもあり、これは「東の貝の道」を調査する手掛かりとなっています。

 平安時代から江戸時代にかけては、「貝合わせ」という日本独自のテーブルゲームも発達。金箔などを使って雅(みやび)な絵が描かれたハマグリの貝殻を、左右のペアで組み合わせていく遊びです。明治維新より以前では、貝合わせ用のハマグリが上流階級の嫁入り道具にも用いられていました。

 そのほか、日向灘(ひゅうがなだ)のチョウセンハマグリは最高級の碁石の材料にもなっています。

 淡い虹色の色彩が美しい螺鈿(らでん)細工も貝類が素材。上野エリアでは「東京国立博物館」などで、何とも壮麗で繊細な螺鈿細工の傑作が展示されています

 貝類を使った工芸品といえば真珠は外せません。かつて真珠は自然採取されたものが中心で大変な貴重品でしたが、近代日本で養殖技術が確立されると、一気に大衆化が進みました。

 その他にも法螺貝(ほらがい)や貝ボタンの素材となったり、伝統工芸と貝殻は深い関係にあります。

 近代〜現代にかけては、食用としての貝類需要と、そのパッケージング技術も発達。現在では貝類の缶詰は量販店ではお馴染みですね。

 もちろん寿司ネタでも貝類は人気。寿司ネタに用いられる貝類の名称と、寿司ネタの名称が異なるのも面白いポイントです。

 貝類は人間に恩恵をもたらすだけでなく、時には人間に害をなすことも。かつて日本国内で風土病として恐れられた日本住血吸虫症はミヤイリガイを媒介しており、その根絶に向けては多くの試行錯誤がありました。

 船に取り付いて穴を空けてしまうフナクイムシの展示も。人間と貝類の付き合い方は、明暗の両面を持っています。

◆美しい&貴重な貝類コレクションが次々登場

 第3章「人類と貝類の深い関わり ー 貝に魅せられた人たち」では、確かな熱意と知識をもって貝類を収集・研究し続けた先人達と、その成果たるコレクションをご紹介。こうした方々の尽力は、現在も科学博物館の活動を支えているのです。

 オランダの画家・レンブラントは明暗を巧みに使った人物・群衆の絵で有名ですが、彼が人生で唯一残した静物画の版画は、ナンヨウクロミナシという貝の美しい殻でした。貝殻というのは専門家や好事家でなくとも、アートや美に関わりある人々を惹きつけるような力を宿しているのかも知れません。

 日本の貝類研究家・収集家を紹介しているコーナーでは、説明パネルに合わせる形で、収集家から科博に寄贈された貝類コレクションが展示されています。

 JCBの創設者でもある河村良介氏のコレクションは一つひとつが紫色のクッションで守られ、さながら高級ジュエリーのごとく大切にされています。

 「麗人科学者」として知られた山村八重子氏(1899-1996)の貝類コレクションはフィリピンで採集されたもの。真珠のように丸く輝くタカラガイは南洋諸島などで貝貨(貝殻を用いた貨幣)としても用いられたことがあり、それが箱にぎっしりと詰め込まれている様子は、どことなくフィリピンの砂浜風景を連想させてくれます。

 長崎県博物学会のメンバーであった金子一狼氏(1872-1965)のコレクションは、ほぼ収集当時のままの姿。貴重なイモガイ類が綿で保護されながら木箱に収められています。このように、コレクションの種類や保管状態からも、コレクターごとの個性が見られるのが面白いですね。

 コーナーを進んだ先では、イギリスの貝類学者ピーター・ダンス

氏が「Rare Shells」で取り上げた50の貝殻を一挙展示。これは日本初のことです。

 コレクションの中には日本では滅多にお目にかかれないものもあるとか!

 その次では、コレクターから長年愛される貝類を種類ごとに展示しています。オキナエビスはドリルのように整った螺旋形と赤茶色の模様目が美しく、貝類コレクターにとっては定番とも言えるアイテム。1969年に台湾で採集されたリュウグウオキナエビスが1万ドル(当時レートで360万円相当)もの高値をつけたこともあるとか!

 イモガイ類は体内の鋭い毒モリにより危険生物として有名ながら、コレクター界隈では一転して垂涎の的となっています。美しさに相反する危険さというのは、かえってマニア心を惹きつけるのでしょうか。科博の中では地球館1階にもイモガイが常設展示されています。

 公的機関による深海調査などで採取される貝類標本は、コレクターでもほぼ入手不可能であり、極めて貴重なものばかり。「鉄で殻を作る貝」として一時期有名になったスケーリーフットも陳列されていました。

 収集された標本が下処理や加工を経て研究されるまでのコーナーも。こうした研究者目線の展示も国立科学博物館らしい内容で見応えがあります。

◆松尾芭蕉が愛した「貝のある風景」を守るために

 最後の第4章「貝類とこれからも長く関わり続けるために」では、環境問題や種の保存を絡めて貝類の現状と今後に踏み込んでいきます。地球上の多くの動植物と同様、貝類もまた種の減少や絶滅といった問題とは無縁でいられないのです。

 身近な例としてはハマグリが挙げられます。東京湾ではかつて江戸前の豊富な魚介類の漁獲があり、その中には大ぶりなハマグリも含まれていましたが、その伝統は東京湾の環境悪化と湾内ハマグリの絶滅で途絶えてしまいました。現在は東京湾で再びハマグリが増えていますが、これらは湾外のハマグリが何らかの理由で運ばれてきてから定着したものです。

 また、サザエアワビなどは一生かけて年を経るほど大きくなる特性があり、かつては目を見張るほど大きく成長した貝類の大型標本が発見されることも度々ありました。こうした水産有用種の大型貝は既に殆どが採取されてしまい、現在はほぼ見かけられなくなっています。

 一方で貝類研究はいまだ途上の領域も多く、図鑑やデータに未記載となっている種も残されています。これらが種の確定や研究・保護を待たずして絶滅してしまうことがないよう注意していくのも、今後の課題といえます。

 展示の終わりには、日本国内の浜辺に打ち上げられた貝を観察・採取できる「ビーチコーミング」の適地がいくつか紹介されていました。こうした所で貝殻に触れてみて、その貝がどういう風に生息していたか想いをはせるのも、貝類への理解を深めるうえでは重要なことでしょう。

 浜辺で採取された貝殻への想いは、著名な俳人・松尾芭蕉の作品にも残されています。彼の俳句に登場する「ますほの小貝」とは「赤くて小さな貝」の意味。現在でいうチドリマスオガイを指すとのこと。かつては浜辺を埋め尽くすほどのチドリマスオガイが見られることも多々あったそうですが、現在この貝は環境省のレッドデータ上で準絶滅危惧(NT)に指定されています。松尾芭蕉が親しんでいた風景を守るためにも、こうした貝類の保護は急務と言えそうです。

◆手塚治虫やニュートンも貝殻が好きだった

 今回の展示会場はあちらこちらに、貝類の美しさや繊細さを愛した偉人・文化人・著名人の名言が。

 こうした名言は展示会場内の目立たない所に、イースターエッグのように隠されています。

 手塚治虫やニュートン、ジャン・コクトーなど、彼らが貝という美しいものにどのようなイメージを仮託していたか、空想を広げてみてはいかがでしょうか。

 「貝類展:人はなぜ貝に魅せられるのか」は、身近ゆえに顧みられることが少ない「貝」というものについて、その奥深さや大切さをたっぷり再発見していく展示会です。「貝の料理を食べるのが好き」という方も、「綺麗な貝殻を集めるのが好き」という方も、ぜひ一度見学してみてください!

企画展「貝類展:人はなぜ貝に魅せられるのか」
【会場】国立科学博物館(東京・上野公園)
   日本館1階 企画展示室及び中央ホール
【住所】東京都台東区上野公園7-20
【開催期間】2024年11月26日(火)~2025年3月2日(日)
【開館時間】9時~17時
     ※入館は閉館時刻の30分前まで
【休館日】月曜日(月曜日が祝日の場合は火曜日)
    12月28日(土)~1月1 日(水・祝)
    ※12月23日(月)、2月17日(月)は開館
【入館料】一般・大学生:630円(団体510円)
    高校生以下および65歳以上:無料
    ※常設展示入館料のみでご覧いただけます
    ※団体は20名以上
    ※入館方法の詳細等については、博物館ホームページをご覧ください
【主 催】国立科学博物館
【お問合せ】050-5541-8600(ハローダイヤル)
【リンク】公式ホームページ

街歩きWebライター(東京都台東区)

カフェ・居酒屋探し、博物館・美術館見学、銭湯巡りや寺社探訪など、都心部の街歩きが大好き!特に都内で暮らし始めた頃に住んでいた浅草近辺、博物館・美術館が沢山ある上野界隈など、台東区内を月に2~3回は散策しています。東京23区でも面積最小ながら、歴史と見所が詰まった台東区の魅力を積極的に発掘・発信していきます!

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