集団カンニングを指揮する女子高生の運命は? 実話インスパイアの『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』
カンニングが題材の映画というとコメディを思い浮かべる人も多いでしょう。けれども、『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』(原題:Chalard Games Goeng)は、実際に中国で起きた集団カンニング事件にインスパイアされたサスペンスフルなタイ映画。受験戦争が大きな社会問題となっているアジア諸国を中心に、世界16の国と地域でサプライズヒットを記録した傑作クライム・エンターテインメントです。
小学生の頃から天才の誉高い女子高生リン(チュティモン・ジョンジャルーンスックジン)は、父親(タネート・ワラークンヌクロ)が教鞭をとる学校から、国内有数の進学校に特待奨学生として転入。成績の悪い友人グレース(イッサヤー・ホースワン)を見かねて、試験中に古典的な方法で解答を教えたことから、グレースのボーイフレンドで、成績をアップさせて親からご褒美をゲットしたい富裕層の息子パット(ティーラドン・スパパンピンヨー)が思いついた集団カンニングビジネスに加担することになってしまう。
勉強は苦手でも、集団カンニング・ビジネスを成功させるためにパットが発揮する才覚にも驚かされるものの、やはり見どころはリンが考えつくカンニング手法。なにしろ、試験中に、一度に何人もの生徒に正解を教えなければいけないのです。その手法には感心せずにいられませんが、いかんせん、これが難しい。しかも、リンと同じ奨学生で生真面目なバンク(チャーノン・サンティナトーンクン)が、彼らのビジネスに思いがけない展開をもたらすことに。
窮地に立たされるなか、リンたちはアメリカの大学に留学資格を得るため世界各国で行われる大学統一入試“STIC”での大勝負に出るのですが…。
クライマックスの“STIC”でのカンニングシーン以前に、学校内での集団カンニングからして、もう息詰まる緊張感! けれども、これはたんに集団カンニング・ビジネスをスリリングに描くだけのサスペンスではありません。友情や自分がとった行動との向き合い方を問いかける、リンの成長物語でもあります。だからこそ、面白い!
万一、カンニングが発覚したとしても、裕福な親のおかげで将来も安泰のはずのパットや、そのガールフレンドのグレース。一方、自分の頭脳と努力で人生を切り開くしかないリンとバンクは、カンニングが発覚すれば、エリートコースから外れてしまう。
そんななか、「友だち」としてリンの頭脳を頼りにするパットやグレースは、観客に腹立たしさを抱かせる存在ですが、リンも「友だち」だからという理由だけでカンニング・ビジネスに関わっているわけではありません。
なにしろ、タイは出身大学のランクがその後の人生を左右する学歴社会。特待生とはいえ、良い教育を受けるには何かとお金がかかる。その現実を知り、冷静に自分の人生を見つめ、アメリカの大学に留学するために、何をなすべきかを見極めるリンに、クールビューティなジョンジャルーンスックジンがリアリティを与えています。
長編デビュー作『Countdown』('12年・日本未公開)がアカデミー賞タイ代表に選ばれたナタウット・プーンピリヤ監督は、本作が長編2作目。
TVCMやMVも手がけてきた映像もスタイリッシュなら、スピーディな展開と緻密な構成は、リンの頭の回転さながらにキレがいい。スリリングな興奮のあとに、リンと父親の物語にも胸を熱くさせてくれるこのタイの俊英は、きっとお気に入り監督のリストに入れたくなるはず。
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配給:ザジフィルムズ/マクザム
『バッド・ジーニアス 危険な天才たち』
9月22日より新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー