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オーストラリアでインフルエンザが急増 今シーズン日本国内でインフルエンザは流行するのか

忽那賢志感染症専門医
オーストラリアのインフルエンザの流行状況(オーストラリア保健省)

新型コロナの流行以降、めっきり減ったインフルエンザですが、海外では流行の兆しが見られています。

「今年もどうせ流行らないだろう」とたかをくくらずに、しっかりと備えておきましょう。

2021-2022シーズンも国内ではインフルエンザは流行せず

定点当たりのインフルエンザ報告数(厚生労働省発表資料より筆者作成)
定点当たりのインフルエンザ報告数(厚生労働省発表資料より筆者作成)

新型コロナウイルス感染症の流行が始まった2019-2020シーズン以降、日本国内ではインフルエンザの報告数が激減しています。

推計で1000万人を超える感染者が毎年感染していたインフルエンザも、新型コロナウイルス感染症の流行が始まった2019-2020シーズンから減少し、2020-2021シーズン以降は感染者が極めて少ない状態で推移しています。

定点当たりのインフルエンザ報告数(厚生労働省発表資料より筆者作成)
定点当たりのインフルエンザ報告数(厚生労働省発表資料より筆者作成)

2016年から横に並べてみると、劇的に減っていることがお分かりかと思います。2020-2021シーズン、2021-2022シーズンは流行の山が確認できないほど激減しています。

基本的には、新型コロナウイルス感染症に対する感染対策を実施したことが同じく接触感染・飛沫感染で伝播するインフルエンザを減らすことにつながったと考えられていますが、それ以外にも国際旅行をする人が極端に減り海外から持ち込まれる機会が減ったことなども関係していると思われます。

世界ではインフルエンザ増加の兆候も

2016年から現在までの世界におけるインフルエンザ陽性数の推移(WHO Influenza Update N 420より)
2016年から現在までの世界におけるインフルエンザ陽性数の推移(WHO Influenza Update N 420より)

一方、世界の状況を見てみると、コロナ後に激減していたインフルエンザがやや増加してきている兆候が見て取れます。

世界においても2020-2021シーズンはインフルエンザの感染者はほとんど報告されていませんでしたが、2021-2022シーズンはコロナ以前ほどではありませんが感染者が増加してきています。

2017年から現在までのオーストラリアにおけるインフルエンザ患者の報告数の推移(オーストラリア保健省のサーベイランスより)
2017年から現在までのオーストラリアにおけるインフルエンザ患者の報告数の推移(オーストラリア保健省のサーベイランスより)

インフルエンザの流行時期が日本と異なり5月〜9月頃にピークを迎える南半球のオーストラリアでは、過去2年間はインフルエンザの流行がありませんでしたが、現在急激なインフルエンザ患者の増加が報告されています。

オーストラリアでのインフルエンザの流行は、その後の日本での流行を予測する上で参考になることが多く、日本でも今年の冬はインフルエンザが流行する可能性があります。

ちょうど昨年の今頃、日本でもRSウイルス感染症の大流行が起こりました。

その理由として、2020年にRSウイルスが流行しなかったことで、RSウイルスに免疫を持つ人が減っていたことが挙げられます。

RSウイルス感染症は、通常2歳までの間に一度は感染しますが、昨年の流行では2歳以上のRSウイルス感染症患者の割合が増えていることが示されており、新型コロナ流行中にRSウイルスに免疫を持たない子どもが増え、今シーズンの大流行に繋がったと考えられます。

今シーズンのインフルエンザに備えよう

日本では2019-2020、2020-2021、2021-2022という3つのシーズンでインフルエンザの大きな流行がみられませんでした。

つまり、3年間に渡りインフルエンザに対する免疫を持たない人が増え続けていることになります。

次にインフルエンザが流行する際は、これまでのシーズンを大きく上回る大流行になる可能性があります。

少し気が早いかもしれませんが、今年も10月くらいからインフルエンザワクチンの接種が全国の医療機関で開始されると思われます。

今シーズンのインフルエンザの流行に備えて、インフルエンザワクチンの接種をご検討ください。

特に重症化するリスクの高い高齢者、妊婦さん、ステロイドなどの薬を飲んで免疫が弱っている方などはインフルエンザワクチンを接種することが強く推奨されます。

特にワクチン接種が推奨されるのは以下のような方々です。

インフルエンザに罹ると重症化しやすいためワクチン接種が強く推奨される方

・2歳未満の小児

・65歳以上の高齢者

・呼吸器・心血管・腎・肝・血液・代謝内分泌(糖尿病含む)・神経筋疾患などの慢性疾患を持つもの

・免疫不全者(免疫抑制剤使用、HIV等を含む)

・妊娠中・出産2週間以内の女性

・19歳未満でアスピリン長期使用者

・著明な肥満(BMI>40の成人、またはBMIが2.33SDを超える小児)

・介護施設や慢性期病棟の入所者

米国CDCの推奨(MMWR Recomm Rep 2013; 62:1.)を基に筆者作成

今も流行が続いている新型コロナウイルス感染症も脅威ですが、インフルエンザとの同時流行となれば医療機関の負荷にも繋がりえます。

「今年もどうせ流行らないだろう」とたかをくくらずに、しっかりと備えておきましょう。

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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