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文大統領が「3.1演説」で日本に明確な融和メッセージ、過去3年の演説と比較検証

徐台教ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長
1日、「3.1独立運動」記念式典で演説する文在寅大統領。青瓦台提供。

1919年3月1日、日本による植民地支配に反対し朝鮮半島の民衆が立ち上がった「3.1独立運動」。102周年を迎えた今日の式典で、文在寅大統領は過去の演説よりも明確な融和メッセージを日本に向けて送った。その内容を検証する。

●18年には「ろうそくデモ」と独立運動結びつけ

就任後初めて行われた18年3月の演説は、初めてとあって「気合い」の入った内容だった。式典は日本による植民地支配の間、“政治犯”を収容していたことで悪名が轟いていた、ソウル市内の西大門刑務所で行われた。

演説で文大統領は伊藤博文を暗殺した安重根(アン・ジュングン)、西大門刑務所で獄死した柳寛順(ユ・グァンスン)、1932年に上海で日本軍要人を殺害した尹奉吉(ユン・ボンギル)といった「義士」「烈士」の名を10人以上呼び上げた。

そして“国民主権の歴史”というキーワードをもって、前年17年に朴槿惠(パク・クネ)大統領弾劾を成し遂げた“ろうそくデモ”と過去の独立運動を結びつける、大叙事詩的な演説を行ったのだった。日本よりも国内に向けた演説だった、ということだ。

この年の1月、南北高官級会談が約2年ぶりに行われ、平昌五輪に北朝鮮代表団が訪問するなど民族的な高揚感が高まっている時でもあった。

このためか、日本についても「〜しなければならない」といった強い調子が目立った。以下、当時の演説で日本に言及した部分をすべて引用する。

そのために私たちは

間違った歴史を私たちの力で再び立て直さなければなりません。

独島は日本の韓半島侵奪の過程で、最も先に強制占領された私たちの土地です。

私たち固有の領土です。

今、日本がその事実を否定することは、帝国主義の侵略に対する反省を拒否するのと同じことです。

慰安婦問題の解決においても、加害者である日本政府が「終わった」と言ってはいけません。

戦争の時期にあった反人倫的な人権犯罪行為は、終わったという言葉で蓋をされるものではありません。

不幸な歴史であるほどその歴史を記憶し、その歴史から学ぶことだけが真の解決です。

日本は人類普遍の良心で歴史の真実と正義を直視しなければなりません。

私は日本が、苦痛を加えた隣国たちと真に和解し、平和共存と繁栄の道を共に歩いていくことを願います。

私は日本に特別な待遇を要求しません。

ただ最も近い隣国らしく、真実の反省と和解の上で、共に未来に進むことを願うだけです。

18年3月、式典に参加する文在寅大統領。筆者撮影。
18年3月、式典に参加する文在寅大統領。筆者撮影。

●19年は日本が南北関係改善の「ダシ」に

続く2019年3月1日の記念式典の演説は苦い雰囲気の中で行われた。2月27日、28日とベトナム・ハノイで開催されていた2度目の米朝首脳会談が決裂に終わったためだ。

だが、前年の南北関係の好転のため、ソウル中心部で行われた当時の演説には「南北」という視点が色濃く反映されていた。「100年前の今日、南も北もありませんでした」という文言が象徴的だった。

そして日本に向けては、「親日残滓の清算」という強い言葉が飛び出した。

文大統領はこれを「親日は反省すべきことで、独立運動は礼遇されるべきことであるという最も単純な価値をただすこと」と”解説”した。

さらに「日帝(大日本帝国)が『アカ』という言葉を作った」と主張しながら、左右の敵対や民族の離間を日帝が行ったとすることで、朝鮮半島や韓国社会に残る傷跡を日本が提供したという視点を強調した。

極めつけは、「私たちの心に刻まれた『38度線』は私たちの中を分ける理念の敵対を消す時に共に消えることでしょう」という一文で、日本(過去の親日)を乗り越え南北の融和を成し遂げるという世界観を明かすものだった。

こうした内容から分かるように、この年の演説では日本は南北朝鮮の結びつきを正当化する「ダシ」のような形として位置づけられた。こうした姿勢について「官製民族主義」という批判も出た。

それ以外の日本に関する部分は短く、原論的なものだった。「南北ファースト」という時代を反映していたものといえるだろう。関連部分を引用する。

朝鮮半島の平和のために日本との協力も強化していきます。

「己未獨立宣言書」は3.1独立運動が排他的な感情ではなく、全人類の共存共生のためのものであり、東洋の平和と世界平和へと歩む道であることを明らかに宣言しました。

「果敢に永い間違いを正し真の理解と共感を土台に、仲の良い新たな世界を開くことが互いに災いを避け、幸せになる近道」であることを明かしました。

今日にも有効な私たちの精神です。

過去は変えることはできませんが、未来は変えることができます。

歴史を鏡にし、韓国と日本が固く手を結ぶ時、平和の時代がはっきりと私たちの側に近づいてくるでしょう。

力を合わせ、被害者たちの苦痛を実質的に治癒するとき、韓国と日本は心が通じる真の親友になることでしょう。

2019年の記念式典で演説する文大統領。青瓦台提供。
2019年の記念式典で演説する文大統領。青瓦台提供。

●2020年は「新型コロナ」下で「危機克服」のパートナーに

2020年は停滞する「南北関係」から「コロナ」にシフトした。

1920年、「3.1独立運動」一周年を祝い学生たちが”独立万歳”を叫び、その多くが西大門刑務所に収監された培花(ペファ)女子高(当時は培花学堂)で行われた式典で文大統領は「団結」を訴えた。

「3.1独立運動」から朝鮮戦争、その後の経済発展を「国難の克服」というキーワードで結びつけ、「新型コロナウイルスを乗り越える」と宣言したのだった。

折しも同年2月後半から韓国第三の都市・大邱(テグ)市で新型コロナの大感染が始まり、国家危機警報を最大の「深刻(今日まで解除されていない)」に引き上げていたこともあり、パニックを収め、国家として新型コロナに当たる意気込みを見せ、その過程に協力を呼びかける内容が主となった。

日本に関しては、前年2019年後半から始まった「半導体素材輸出規制(韓国ではこう呼ぶ)」などもあり、日本発の「危機」を乗り越えるという同様の脈絡で語られた。

そして新型コロナの危機を共に克服するパートナーとして位置づけられたものの、原則論にとどまるものだった。感情的な確執をやや感じさせる内容だった。

関連部分は以下の通り。

「3.1独立宣言書」でも、「互いを理解して共感する統合の精神」を強調しています。

東アジアの平和と人道主義に向けた努力は、「3.1独立運動」と臨時政府の精神です。

北韓はもちろん、隣接している中国と日本、近くの東南アジア諸国との協力を強化してこそ、安全保障における非伝統的脅威に対応できます。

北韓とも保健分野における共同協力がなされることを願います。

人間と家畜の感染症拡散に南北が共に対応し、接境地域の災害や韓半島における気候変動に共同で対処するとき、われわれ同胞の暮らしはより安全になるはずです。

南北は2年前、「9.19軍事合意」という歴史的成果を成し遂げました。

その合意を順守して多様な分野へと協力を拡大していくとき、韓半島の平和も強固なものになるでしょう。

日本は常に最も近い隣国です。

安重根義士は日本の侵略行為に武力で立ち向かいましたが、日本に対する敵対を目指したものではなく、共に東洋の平和を実現することが本意であることをしっかり明かしました。

3.1独立運動の精神も同じです。

過去を直視してこそ傷を克服することができ、未来へと進むことができます。

過去を忘れることはありませんが、われわれは過去に留まることもありません。

日本もまた、そのような姿勢を見せてくれることを願います。

歴史を鑑として互いに手をつなぐことが東アジアの平和と繁栄への道です。

共に危機を克服し、未来志向の協力関係に向けて、共に努力していきましょう。

培花女子高で行われた2020年の記念式典。青瓦台提供。
培花女子高で行われた2020年の記念式典。青瓦台提供。

●今年は「ポストコロナ」と日本との“あらゆる関係”に言及

前置きが長くなったが、今年の演説を見ていく。

今日午前、1919年当時「独立宣言書」が読み上げられたソウル市内のタプコル公園で行われた記念式典で、文大統領が中心に据えたのは「ポストコロナ」だった。

過去1年以上にわたって韓国政府や韓国市民が新型コロナに立ち向かってきた姿を「透明性」や「互いの協力」といった視点から称えつつ、その歴史性を100年前の「スペイン風邪」当時の植民地朝鮮の民衆の自主性に求めた。

そして今や世界有数の経済力や技術力、民主主義を持つことになった韓国が、“コロナ以降”の世界を積極的にリードしていくという内容だった。

日本については、過去3年間とは明確に異なる具体的な呼びかけがあった。それはいわば、”現状に対する最大限の肯定”だった。

「私たちは不幸な歴史を忘れられない」と前置きしつつ、日本と韓国が「経済、文化、人的交流などあらゆる分野で互いにとても重要な隣人になった」、「過去数十年間、韓日両国は一種の分業構造を土台に、共に競争力を高めてきており、韓国の成長は日本の発展に役立ち、日本の成長は韓国の発展に役立った」という前提を強調した。

その上で、「過去の問題を未来の問題と切り離すことができず混ぜてしまうこと」が「唯一の障害物」としたのだった。

続いてこれを乗り越えるため、過去とは異なる具体的な“助言”が提示された。

「過去の過ちから教訓を得ることは決して恥ずかしいことではなく、むしろ国際社会で尊重される道」としつつ、さらに韓国みずからを例にとり「韓国は過去の植民地となった恥ずべき歴史と、同族相残(同じ民族同士で争うこと)を繰り広げた悲しい歴史を決して忘れずに、教訓を得ようと努力している」と述べたのだった。

筆者も数日前に『済州4.3事件特別法』の改正についての記事を書いたが、韓国の民主化の歴史は、絶えず過去の過ちを直視し正すプロセスと並行している。その過程で、過去の恥部が赤裸々になるが、これを恥じたり隠したりしてはいけない、という視点だろう。

韓国で『済州4.3事件特別法改正案』が成立、被害補償・名誉回復などに大きな弾み

https://news.yahoo.co.jp/byline/seodaegyo/20210227-00224871/

お決まりの「未来志向」についても具体性を持たせた。

喫緊の課題である東京五輪について「韓日間、南北間、日朝間そして朝米間の対話の機会ともなる」という理由ながらも、「韓国は東京オリンピックの成功的な開催のために協力する」と述べた。

また、長期的には「両国の協力は両国のすべての人々に役立ち、東北アジアの安定と共同繁栄に役立ち、韓・米・日の3カ国協力にも役立つはず」と、”中国なのか米国なのか”と不信の目を向けられがちな韓国の外交姿勢における不安払拭にも努めた。

どう評価すべきか。

すでに過去4年近くが経ち明らかになっているように、文在寅政権の外交の特徴は、本音と建前の区分がほとんど無い点にある。このため、今回の文大統領のスピーチも額面通りに受け止めてよいと筆者は考える。

文政権にとって南北関係改善が今も最重要課題の一つであることは変わりないだろうが、その上で戦略的にも日本との関係改善を求めているということだ。うがった視線で読み込む必要はない。

なお、関連部分の引用は以下の通り。

日本と私たちの間には過去、不幸な歴史がありました。

今日はその不幸な歴史の中で最も劇的だった瞬間を記憶する日です。

私たちはその歴史を忘れられません。

加害者は忘れられても、被害者は忘れられないものです。

しかし100年が過ぎた今、韓日両国は経済、文化、人的交流などあらゆる分野で互いにとても重要な隣人になりました。

過去数十年間、韓日両国は一種の分業構造を土台に、共に競争力を高めてきており、韓国の成長は日本の発展に役立ち、日本の成長は韓国の発展に役立ちました。これからも変わらないでしょう。

私たちが乗り越えなければならない唯一の障害物は、時折、過去の問題を未来の問題と切り離すことができず混ぜてしまうことで、未来の発展に支障をもたらすいうことです。

私たちは、過去の歴史を直視しながら教訓を得なければなりません。

過去の過ちから教訓を得ることは決して恥ずかしいことではなく、むしろ国際社会で尊重される道です。

韓国は過去の植民地となった恥ずべき歴史と、同族相残(同じ民族同士で争うこと)を繰り広げた悲しい歴史を決して忘れずに、教訓を得ようと努力しています。

しかし、過去のことに足を引っ張られてはなりません。

過去の問題は過去の問題として解決していきながら、未来志向的な発展により力を入れなければなりません。

韓国政府はいつも被害者中心主義の立場で賢い解決策を模索していきます。

被害者の名誉と尊厳を回復するためにも最善を尽くします。

しかし、日韓両国の協力と未来の発展のための努力も止めません。

両国の協力は両国のすべての人々に役立ち、東北アジアの安定と共同繁栄に役立ち、韓・米・日の3カ国協力にも役立つはずです。

しかも、今は新型コロナの危機を共に克服し、ポストコロナ時代に向けて 共に準備していく時です。

隣国間の協力が今のように重要でない時はなかったということを、強調したいです。

3.1独立宣言書は日本に対し、勇ましく賢明に過去の過ちを正し、真の理解に基づき友好的な新しい関係を築こうと提案しました。

私たちの精神はあの時も今も変わっていません。

韓国政府はいつでも日本政府と向かい合って対話を交わす準備ができています。

易地思之(立場を変えて考える)の姿勢で膝を突き合わせるならば、過去の問題であっても、いくらでも賢明に解決できると確信します。

韓日両国は過去と未来を同時に見つめ、共に歩いています。

今年開かれる東京オリンピックは韓日間、南北間、日朝間そして朝米間の対話の機会ともなり得ます。

韓国は東京オリンピックの成功的な開催のために協力するつもりです。

さらに韓日両国が新型コロナで打撃を受けた経済を回復し、より強固な協力でポストコロナ時代の新しい秩序を一緒に作っていくことを願います。

過去4年分の演説の全訳は『The NewStance(ニュースタンス)』サイトで読める。

ソウル在住ジャーナリスト。『コリア・フォーカス』編集長

群馬県生まれの在日コリアン3世。1999年からソウルに住み人権NGO代表や日本メディアの記者として朝鮮半島問題に関わる。2015年韓国に「永住帰国」すると同時に独立。16年10月から半年以上「ろうそくデモ」と朴槿恵大統領弾劾に伴う大統領選挙を密着取材。17年5月に韓国政治、南北関係など朝鮮半島情勢を扱う『コリアン・ポリティクス』を創刊。20年2月に朝鮮半島と日本の社会問題を解決するメディア『ニュースタンス』への転換を経て、23年9月から再び朝鮮半島情勢に焦点を当てる『コリア・フォーカス』にリニューアル。ソウル外国人特派員協会(SFCC)正会員。22年「第7回鶴峰賞言論部門優秀賞」受賞。

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