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高齢者への接種開始 新型コロナワクチンについて分かってきたこと

忽那賢志感染症専門医
(写真:つのだよしお/アフロ)

65歳以上の高齢者への新型コロナワクチン接種が4月12日から始まります。

ワクチン接種に関する政府広報も始まっていますね。

なんとも信頼感のある風貌の医師の方がワクチン接種を呼びかけています。素晴らしいCMですね。これには「政府広報担当者さん、グッジョブ!」と言わざるを得ません。

TVCMも始まっていますので、ぜひお茶の間でもご覧ください。

さて、日本国内で承認されてからも、新型コロナワクチンに関する知見は増え続けています。

承認後に明らかになってきた新型コロナワクチンに関する最新知見をご紹介致します。

これから接種を考えている方の参考になりましたら幸いです。

新型コロナワクチンの基本事項

mRNAワクチンが効果を発揮する機序(DOI: 10.1056/NEJMoa2034577)
mRNAワクチンが効果を発揮する機序(DOI: 10.1056/NEJMoa2034577)

まず基本事項について再度確認しましょう。

現時点で国内で承認されているのはファイザー/ビオンテック社が開発したmRNAワクチンという種類の新しい技術を用いたワクチンです。

mRNAというタンパク質を生成するために使用する情報細胞を運ぶ設計図が、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のスパイク蛋白、つまりウイルス表面のトゲトゲした突起の部分を作る指示を伝える役割を果たしています。

ワクチンが接種されると、mRNAは注射部位近くのマクロファージに取り込まれ、スパイク蛋白を作るように指示します。

その後、スパイク蛋白はマクロファージの表面に現れると、このスパイク蛋白に対する抗体が作られたりT細胞を介した免疫が誘導されることで、新型コロナウイルスに対する免疫を持つことができます。

生きたウイルスはワクチンの中には入っておらず、また遺伝情報を体内に接種すると言っても、それによって人間の遺伝子の情報に変化が加わることもありません。

ファイザー社のワクチンのランダム化比較試験でのワクチン接種群とプラセボ群の新型コロナ発生率の推移(https://doi.org/10.7326/M21-0111)
ファイザー社のワクチンのランダム化比較試験でのワクチン接種群とプラセボ群の新型コロナ発生率の推移(https://doi.org/10.7326/M21-0111)

このファイザー社のmRNAワクチンはランダム化比較試験という最も強い科学的根拠となる臨床研究によって、プラセボ群と比較して発症予防効果95%という非常に高い効果が示されています。

プラセボというのは偽薬のことで、この臨床研究では生理食塩水が注射されています。

ちなみにワクチンによる発症予防効果95%とは「95%の人には有効で、5%の人には効かない」または「接種した人の95%は新型コロナに発症しないが、5%の人は発症する」という意味ではありません。

「ワクチンを接種しなかった人の発症率よりも接種した人の発症率のほうが95%少なかった」という意味であり、言い換えると「発症リスクが、20分の1になる」とも言えます。

この95%という数字は他のワクチンと比べても非常に高いものであり、例えば、最も効果が高いワクチンの一つである麻疹ワクチンの予防効果と同程度です。

このような非常に高い有効性が示されたことから、海外そして日本でもこのファイザー/ビオンテック社のmRNAワクチンは承認されました。

世界保健機関によると、すでに世界中で6億人の人が(mRNAワクチン以外も含む)新型コロナワクチンを接種しています。

新たに分かったこと① 感染そのものを防ぐ効果がある

DOI: http://dx.doi.org/10.15585/mmwr.mm7013e3external icon
DOI: http://dx.doi.org/10.15585/mmwr.mm7013e3external icon

これまでは、新型コロナワクチンには新型コロナの発症を予防する効果があることが分かっていましたが、ウイルスの感染そのものを防ぐことができるかどうかは分かっていませんでした。

しかし、感染そのものを防ぐ効果が複数の研究から示されました。

その中から代表的な研究として、アメリカCDCの機関誌MMWRに掲載された報告をご紹介します。

3,950人の医療従事者、ファースト・レスポンダー(救助隊・救急隊・消防隊・警察など)、エッセンシャル・ワーカーを対象に、13週間連続で毎週新型コロナウイルスのPCR検査が実施されました。

その結果、症状の有無にかかわらず、新型コロナワクチンの2回の接種から14日以上経った人は90%の感染予防効果が示されました。

発症を防ぐことと、感染を防ぐことと、何が違うのか、別に本人にとっては同じじゃないか、と思われるかもしれません。

確かに本人にとってはあまり大差ないかもしれませんが、ワクチン接種者が感染しにくくなる、ということは、接種者がその周りの人に感染を広げる可能性が低くなる、ということです。

「どうせオレ、感染しても重症化しねえし・・・接種しても意味ねえし・・・」と思っていた方も、自分の家族や周りの人を感染から守ることが分かれば、接種に前向きになれるのではないでしょうか。

新たに分かったこと② 接種半年後も十分な効果を保っている

新型コロナが世界に現れてまだ1年ちょっとしか経っていません。

したがって、新型コロナワクチンの予防効果がどれくらい続くのかについての長期的なデータはまだありません。

先日、ファイザー社から、接種6ヶ月後の予防効果についての解析結果が報告されました。

これによりますと、2回目の接種の7日後から6ヶ月後までの期間において、発症予防効果91.3%と高い有効性が確認されたとのことです。

また、CDCが定義する重症化を100%予防した、とのことで重症化予防効果も維持しています。

新たに分かったこと③ 変異株にも効果がありそう

これまで、南アフリカ由来の変異株、ブラジル由来の変異株、そして起源不明の国内流行株が持つE484Kという「免疫逃避」と呼ばれる変異によって、ワクチンの有効性が低下するのではないかと言われていました。

実際に、実験室での研究結果からはワクチンの効果が落ちる可能性が指摘されていました。

また、現実世界の結果としては、これまでにオックスフォード-アストラゼネカ社製のチンパンジーアデノウイルスベクターワクチン(ChAdOx1)は、南アフリカ由来の変異株(B.1.351、501Y.V2)に対する予防効果が10.4%と大きく低下していました。

mRNAワクチンも同様に、免疫逃避であるE484K変異を持つ変異株には有効性が低下してしまうのではないかと懸念されていましたが、ファイザーの接種後6ヶ月の解析結果では、変異株が大多数を占める南アフリカにおいても100%の予防効果を示したことが報告されています。

・・・ぱねえ

おっと・・・つい心の声が漏れてしまいました・・・。失礼致しました。

しかし、変異株の拡大によって新型コロナの終息が遠のくのではないかと懸念されていた中、この結果は本当に心強いです。

篠原涼子さん並みに、いとしさと せつなさと 心強さとを感じました。

新たに分かったこと④ 日本人での副反応も想定内である

新型コロナワクチン接種後の発熱の頻度(第55回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会資料より)
新型コロナワクチン接種後の発熱の頻度(第55回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会資料より)

日本人における副反応についても多くのことが分かってきました。

海外の報告では、従来のワクチン、例えばインフルエンザワクチンなどと比べると副反応の頻度は高いと言われていましたが、日本人においても同様に副反応の頻度は高いようです。

4月9日のワクチン分科会副反応検討部会の資料が公開されていますが、特に2回目の接種後は、3割以上の人に接種翌日に37.5度以上の発熱が見られるなど、全体的に副反応の頻度が高くなっています。

ちなみに私も先日2回目のワクチン接種を受けたのですが、ちょっと接種部位が痛くなったくらいで、それ以外は特に大きな副反応は見られませんでした。

別に熱が出てほしいわけではなかったのですが、少し拍子抜けしました。

一方、若い同僚は「へっへっへ・・・僕、熱出たんですよね・・・」と何故か自慢げに報告をしてきましたが(聞いてないのに)、これはどうやら、若い人の方が発熱などの全身症状が出やすいようです。

新型コロナワクチン接種後の発熱の頻度(第55回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会資料より)
新型コロナワクチン接種後の発熱の頻度(第55回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会資料より)

同じく4月9日のワクチン分科会副反応検討部会の資料によりますと、年齢が高くなればなるほど、全身症状は頻度が低くなるようです。

高齢者の方で、発熱や全身症状が心配な方にとっては、少し安心材料となるのではないでしょうか(それでも65歳以上の1割で2回目接種後に熱が出るようですのでご注意ください)。

またアナフィラキシーについては、これまでに72件報告されており、海外の報告よりも頻度が高いようですが、適切に対応し軽快していることから、大きな懸念とはならないと考えて良いでしょう。

アナフィラキシーに関してはこちらの記事をご参照ください。

以上、国内承認後に新型コロナワクチンについて分かってきたことをご紹介しました。

今後ワクチン接種が広がることによって、重症者が減ることが期待されます。

現在国内では第4波が広がっている状況ですが、(今すぐとはいきませんが)数カ月後の医療機関の負担を減らすためにも、ぜひ前向きにワクチン接種をご検討ください。

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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