Yahoo!ニュース

オープナーだけじゃない! MLBでは一般的な複数の先発投手を有効活用する“ピギーバック”とは?

菊地慶剛スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師
インディアンズ時代の村田透投手もピギーバックを経験している

【日本にも浸透し始めたオープナー】

 2018年にレイズのケビン・キャッシュ監督が、先発の谷間にリリーフ投手を先発させ、その後将来的な先発候補の若手投手にロングリリーフさせるという「オープナー」を積極的に導入して以来、MLBではオープナーやブルペンデーが再認識されるようになった。

 そして昨シーズンから日本ハムの栗山英樹監督がオープナー導入を試みると、今シーズンになってソフトバンクの工藤公康監督や、オリックスの西村徳文前監督なども採用するようになっている。

 さらに巨人の原辰徳監督もブルペンデーを採用するなど、NPBも投手起用において明らかにMLBの影響を受け始めている。

 ただ日本ハムの最近の起用法を見ていると、型通りのオープナーを採用しているというよりは、チーム事情に合わせて独自のオープナー(元々先発だった加藤貴之投手を3~4回まで先発させ、その後を中継ぎ陣で繋ぐスタイル)を考案しており、しっかりNPB流にアレンジされていたりもする。

【若手先発投手を育成できるもう1つの起用法】

 本欄でもオリックスがオープナーを採用する以前に、鈴木優投手や榊原翼投手など、まだ独り立ちできていない若手先発投手を育成する上で、オープナー導入の効果について論じている。

 だがMLBにはオープナーのみならず、先発投手を効果的に使う別の起用法が存在している。その名も「ピギーバック(piggyback)」だ。特にマイナーリーグでは非常にポピュラーな起用法だ。

 ピギーバック本来の意味は、「おんぶする」とか「肩車する」というもので、野球用語としても似たような意味を持ち、1人の先発投手がもう1人の先発投手を“おんぶしながら”登板することを指す。

【2人の先発投手でほぼ試合をつくる】

 もちろん文字通り“おんぶする”のではなく、先発投手の次にまた別の先発投手を用意しておくということだ。

 日本ではWBCなどで“第2先発”と呼んで先発投手を中継ぎ起用した例があるが、ピギーバックは短期決戦の特別措置ではなく、しっかりローテーションを組んで実施されるものだ。

 例えば、MLBから先発投手がリハビリ登板でマイナーに回ってくる場合、他の先発投手のローテーションをずらしたくない時に、このピギーバックを採用する。

 リハビリに回ってきた先発投手は定期的にマイナーで登板しながら、球数、イニング数を伸ばしていくが、同じ登板日に別の先発投手を組み合わせることで他の投手の影響を最小限に抑えることができるのだ。

 ピギーバックに組み込まれた先発投手も、ローテーション通りにある程度の球数が投げられるので、リハビリを終えた投手がMLBに戻った後も、影響なく先発を続けることができる。

 また先発候補ながらローテーション枠に空きがなかったような場合も、ロングリリーフに回してしまうと定期的に実戦で投げられないので、やはりピギーバックで2人の先発投手を組み合わせてローテーションを回すこともある。

【インディアンズ時代の村田透投手も経験】

 実は現在日本ハムに在籍している村田透投手も、このピギーバックを経験している。

 2015年に3Aで先発として15勝を挙げた村田投手だったが、2016年には3Aにマイク・クレビンジャー投手を筆頭にシーズン途中にもMLBに昇格しそうな若手先発投手が溢れ、彼らが優先的にローテーションに組み込まれた。

 一方でそうした投手がMLBに昇格した際に穴を埋める先発投手が必要になってくるため、村田投手をピギーバックで定期的に投げさせ、常に準備をさせていたのだ。

 結局このシーズンの村田投手は、主にピギーバックの2番手として投げ続け、33試合のうち先発できたのは10試合のみに終わった。それでもイニング数は102.1回と先発としては物足りなさは否めないが、ある程度のイニング数を投げることができていた。

【オープナーより中継ぎ陣の負担が大幅減】

 ピギーバックの最大の特長は、2人の先発投手を同じ試合で起用するため、それぞれ3~5回を投げることが想定されるため、うまくいけば2人で試合を投げ切ってくれる点だ。つまり多くの中継ぎ陣に休養を与えることができるというわけだ。

 仮にオリックスを例にとった場合、現在2軍で調整中の鈴木優投手、榊原投手を同時に1軍に昇格させ、さらに同じ試合に登板させることで、2人で最低でも7回くらいまで試合をつくってもらう。

 この時点で中継ぎ陣の負担は相当に減り、しかも2投手ともに最低でも50球前後は投げることができる。

 もし登板後にチーム編成上、2人とも1軍に残すのが難しいのであれば、球数が少なかった方をロングリリーフとして1軍で待機させ、もう1人は次回登板まで2軍で調整させることもできるだろう。そうして当面は2人一緒にローテーションを回っていくかたちになる。

 こうして2人の先発投手に定期的に1軍のマウンドで経験を積ませることができるのだ。

 オープナーとは違い中継ぎ陣にも負担の少ないピギーバック。日本でも効果的に使えると思うのだが、皆さんはどう思うだろうか。

スポーツライター/近畿大学・大阪国際大学非常勤講師

1993年から米国を拠点にライター活動を開始。95年の野茂投手のドジャース入りで本格的なスポーツ取材を始め、20年以上に渡り米国の4大プロスポーツをはじめ様々な競技のスポーツ取材を経験する。また取材を通じて多くの一流アスリートと交流しながらスポーツが持つ魅力、可能性を認識し、社会におけるスポーツが果たすべき役割を研究テーマにする。2017年から日本に拠点を移し取材活動を続ける傍ら、非常勤講師として近畿大学で教壇に立ち大学アスリートを対象にスポーツについて論じる。在米中は取材や個人旅行で全50州に足を運び、各地事情にも精通している。

菊地慶剛のスポーツメディア・リテラシー

税込550円/月初月無料投稿頻度:月3、4回程度(不定期)

22年間のMLB取材に携わってきたスポーツライターが、今年から本格的に取材開始した日本プロ野球の実情をMLBと比較検討しながらレポートします。

※すでに購入済みの方はログインしてください。

※ご購入や初月無料の適用には条件がございます。購入についての注意事項を必ずお読みいただき、同意の上ご購入ください。欧州経済領域(EEA)およびイギリスから購入や閲覧ができませんのでご注意ください。

菊地慶剛の最近の記事