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「奪う力」の不足。小さくまとまるアギーレジャパン

杉山茂樹スポーツライター

優勝する勢いが感じられない――ヨルダンに2−0で勝利した直後に実感したことだ。3試合を終えて、これだという、残り3試合を勝ち抜くための武器が見えてこないのだ。

失点ゼロ。3試合連続完封勝ちした原因について、アギーレは最終ラインの堅さだけではなく、チーム全体としての守備意識の高さを挙げた。しかし、僕の目にはそう見えなかった。それなりに的確なポジションを取っていたために、穴を作らなかったに過ぎない。

それ以上に触れるべきは、対戦した3チームのレベルの低さだ。日本の「守備」が良かったというより、相手の攻撃能力が低かった。攻撃のアイデア、攻撃に必要な個人技術、戦術に著しく欠けていた。相手が勝手にミスしてくれた。日本の組織立った厳しいプレスが決まり、嫌々ボールを奪われたという感じでは全くない。

かつてより致命的なボールの失い方をしなくなったことは確かだ。嫌なボールの失い方をすれば、それはそのままピンチになる。それが連続すればパニックに陥る。アタフタしたり、ドタバタしたり、平常心を失ったプレイこそが、失点を招く一番の原因だが、そうしたミスはずいぶん減った。マイボール時におけるミスからピンチは生まれにくくなっている。

だが相手のプレス、ボールの奪い方が、洒落(しゃれ)ていればそうはいかない。ミスはもっと出るだろう。しかし、これまで対戦した3チームの守備は、後ろに下がって守る傾向が強い、いわば田舎チームだった。

日本がボールを失う位置は、おのずと相手陣内深くになる。つまり、相手の攻撃が始まる位置は低い。彼らの技量では、そこから遠く離れた日本ゴールまで、簡単に辿り着けないのだ。

相手のボールを奪う力が少しでも上がれば、危ない。無失点ではいられないと思う。準々決勝で対戦するUAEはともかく、韓国、豪州は、奪う力もそれなりに高い。豪州と準々決勝を争う中国も、今回は、そこが大きく改善されている。

日本はどうだろうか。奪う力はどれほど増しているか。ブラジルW杯と比べて、ザックジャパンと比べればどうだろうか。

僕の目には、全く進歩がないように見える。ヨルダン戦でも、中盤の高い位置で、いい形でボールを奪うシーンはほとんどなかった。

遠藤保仁、香川真司。ボール奪取能力の低いこの両選手を、俗に言うインサイドハーフで起用していることとそれは大きな関係がある。

とはいえ、アギーレは、ボールを奪う戦術を得意にしている監督だ。スペインリーグ時代の彼は、それを武器にオサスナ等、ビッグではない中小のクラブを上位に押し上げた実績がある。

マイボールを起点にものを考えるサッカーからの脱却。すなわち、ザックジャパンに欠けていた要素を補う人物として、アギーレは、うってつけのはずだった。実際、細貝萌をインサイドハーフで起用するなど、就任当初は高い位置で奪おうとする姿勢を垣間見せた。が、このアジアカップには、それとは全く違う方法論で臨んでいる。

奪う力が不足している選手に、それを教え込もうとしているのなら大いに評価できる。ザックジャパンと同じ選手を使って、サッカーを一変させたなら恰好のいい話になるが、実際はその逆。従来の選手の従来の力に頼っている。

アジアを制することが日本代表の最大のミッションなら、その方法論でも大きな顔をしていられるのかもしれない。世界を小さいものと捉えるなら、ザックジャパンを継承するサッカーでも、なんとかなるかもしれない。だが我々の目標はW杯だ。半年前、日本はそこで惨敗した。これではマズイというわけで、アギーレを招き、新チームを結成した。そこのところの経緯が、今、すっかり忘れ去られた状態にある。

アジアカップ用のサッカー。アジアの弱小相手に取りこぼしをしないサッカー。新しいテーマにチャレンジせず、従来通りの戦いをすることに安定を求めようとするサッカーに、アギーレジャパンは成り下がっている。

プラスアルファの要素がない。勢いを感じない、これこそが最大の原因だ。

日本の最大の拠り所は、選手個々の技術力、ボール操作能力、パスワークだ。

しかし、それも絶対的なものではない。ピッチコンディションがさして悪くないはずなのに、トラップに時間がかかったり、受けてからパスコースを探したり、同サイドのパスが必要以上に連続したり、長所が絶対的なものになっていない。メルボルンの急なスタンドの上階から俯瞰でピッチを眺めると、日本の展開力のなさは鮮明に映る。空いている選手にスイスイとパスが回っていかない姿に歯がゆさを覚える。遠藤、香川、長谷部誠を中心とする展開力が、アジアレベルであることに気付かされる。

W杯本番で、日本より少しでもボール操作能力の高い国と戦えば、日本はお手上げ。対抗する武器がない。すなわち、番狂わせは期待できない。逆に番狂わせを許しやすい状態にある。

狙われやすいサッカー。これこそが、アジアカップ3戦を通して見せたアギーレジャパンの姿だ。奪う力が高いチームには苦戦する。豪州(あるいは中国)、韓国と戦った時、ボロを出すのか、堪えるのか。

本田圭佑、長友佑都、岡崎慎司。現状、頼りになるのはこの3人。長谷部は下がりすぎだ。遠藤、香川と距離が離れがちになることも、パスがスムーズに回らない原因のひとつ。控えのメンバーを上手く使えていないアギーレ采配、さらにはイラク戦で負傷した今野泰幸の回復が遅れていることも不安材料だ。

少なくともブラジルW杯以降、サッカーがパワーアップしている様子はない。小さくまとまっているだけに過ぎない。僕にはそう見える。

(集英社・Web Sportiva 1月21日 掲載原稿)

スポーツライター

スポーツライター、スタジアム評論家。静岡県出身。大学卒業後、取材活動をスタート。得意分野はサッカーで、FIFAW杯取材は、プレスパス所有者として2022年カタール大会で11回連続となる。五輪も夏冬併せ9度取材。モットーは「サッカーらしさ」の追求。著書に「ドーハ以後」(文藝春秋)、「4−2−3−1」「バルサ対マンU」(光文社)、「3−4−3」(集英社)、日本サッカー偏差値52(じっぴコンパクト新書)、「『負け』に向き合う勇気」(星海社新書)、「監督図鑑」(廣済堂出版)など。最新刊は、SOCCER GAME EVIDENCE 「36.4%のゴールはサイドから生まれる」(実業之日本社)

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