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『僕の大好きな妻!』最終回 “違い”を理解し共に生きていくということ

中村裕一エンターテイメントジャーナリスト
写真提供:東海テレビ

発達障害のある妻と、彼女を理解しようとする夫の姿を描いたドラマ『僕の大好きな妻!』(東海テレビ・フジテレビ系列にて毎週土曜夜11時40分~)が今夜、最終回を迎える。

■愛する人が発達障害と診断された時、あなたはどうしますか

原作はナナトエリ・亀山聡の人気漫画『僕の妻は発達障害』。

主人公・北山知花(百田夏菜子)は、漫画家アシスタントの夫・悟(落合モトキ)と結婚し、新しい生活をスタートする。おしゃべり好きで朗らかで屈託のない知花の笑顔は、プロの漫画家を目指し悪戦苦闘する悟にとって日々の癒しでもあった。

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しかし、頻繁に忘れ物や失くし物をしたり、話が噛み合わなかったり、相手の状況を慮ることが出来なかったりと、知花との暮らしに次第に違和感を覚える悟。知花もまた自分の生きづらさと向かい合い、思い切って二人はクリニックを訪れる。

彼女に下された診断は「発達障害」。

悟はその事実を受け止め、共に人生を歩んで行こうと決意する。一方、知花は紆余曲折を経てアパレルショップで派遣社員として働き始めるのだった。

持ち前の明るさで客と積極的に接し、店の売り上げにも貢献する知花だったが、他の従業員の客を横取りしたり、マルチタスクが苦手だったりと、周りの空気が読めない行動が原因でクビになってしまう。だが、店長・加賀貴子(雛形あきこ)の代わりに彼女の息子の面倒を見たことをきっかけに、再び同じ店で働き始めることになる。

写真提供:東海テレビ
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しかし、通常業務に加え知花のフォロー役に回った貴子は過労のためダウン。同僚たちとも信頼関係を築けず、ますます孤立していく知花。果たして彼女は職場に溶け込み、同僚とうまく仕事を続けていくことが出来るのか。そして、悟との結婚生活はどうなっていくのか……。

■デリケートな題材を支える、俳優たちの誠実な演技

ひと口に発達障害と言っても、その特性は一人一人で異なるという。

本作を見る限り、発達障害について詳しく知らない人にも分かりやすく伝えつつ、「障害」というフレーズがネガティブなイメージを与えないよう丁寧に作られているように感じた。また、ドラマの作り手の意識も確実にアップデートされていることがうかがえる。

第4話で、悟は発達カフェで知り合った、発達障害のある桐山(窪塚俊介)の歯に衣着せぬ物言いにイライラしつつも、直接、彼と対面し、「あなたのことをもっと教えて下さい」と頭を下げる。これは決して発達障害に対する憐憫の情から生まれたものではない。「相手を理解したい」と思う素直な気持ちから発露した行動だ。

ほかにも障害のある主人公を描いたドラマといえば、和久井映見が知的障害のある女性を演じた『ピュア』(1996年)、高機能自閉症の女性の恋愛を描いた、ともさかりえ主演の『君が教えてくれたこと』(2000年)、中居正広演じるサヴァン症候群の青年が難事件を解決する『ATARU』(2012年)などがある。

写真提供:東海テレビ
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本作では夫婦役を演じている百田と落合の誠実な演技に加え、クリニックの院長・宮野森楓役の中田喜子をはじめとする登場人物たち全員が醸し出す“優しさ”が全体的な安心感をもたらし、とても見やすい作品となっている。

放送という形式上、どうしても一方的になってしまうテレビドラマで扱うにはデリケートなテーマかもしれないが、今後もさまざまなアプローチによる作品が作られることに期待したい。

■今だからこそ考えたい、相手を理解しようとすることの大切さ

本作では「発達障害は病気ではない」と語られている。

確かに程度の差こそあれ、注意不足や突発的な行動、空気が読みづらいことは誰にでもあるだろう。大切なのは“違い”を区別するのではなく、自分なりの範囲で良いから受け止め、出来る限り理解しようとすることではないだろうか。

写真提供:東海テレビ
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第2話で、結婚指輪を失くした知花の言動に対して悩む悟に対し、ベテラン漫画家・野村萬坊(小倉久寛)がかけた言葉が印象的だった。

「北山くん……知花ちゃんのこと、ちゃんと見てるかな」。

目先の違いにとらわれず、相手をしっかり見て受け止める。それは発達障害の有無とは関係なく、人と人とのコミュニケーションにとって必要なことだ。

たかが100年も生きられない私たちの人生だが、ほんの少しの時間でも他者を理解しようと努めることに、何のムダや損があるのか。このドラマには、ギスギスした今の世の中を穏やかに生きていくために大事なメッセージが込められていると私は思う。

エンターテイメントジャーナリスト

テレビドラマをはじめ俳優などエンタメ関連のインタビューや記事を手がける。主な執筆媒体はマイナビニュース、週刊SPA!、日刊SPA!、AERA dot.など。

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