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「このような献金の様態は異例のものと評し得る」旧統一教会の被害実態をしっかりとみての最高裁判決に納得

多田文明詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

24年7月11日、最高裁判所にて「返還請求や不法行為を理由とする損害賠償請求など、裁判上・裁判外を含め一切行わない」(不起訴合意)とした念書は「公序良俗に反して無効」として、高等裁判所に差し戻す判決がいい渡されました。

念書や合意書を書かされて返金を諦めていた方々に、大きな希望が生まれた瞬間でした。しかも今回の最高裁判決で指摘していることは、今後の被害救済における重要なポイントを含んでおり、道は大きくひらかれたといえます。

被害者家族の中野容子さん(仮名・60代女性)のお母さんが信者時代に1億円以上の献金をして返金を求めて裁判を起こしますが、母親が教団に返金を求めないとする念書を書かされたうえに、ビデオも撮られていたこともあり、本人の意思に基づいて作られた念書の有効性が認められて、地裁、高裁で敗訴となりました。しかし中野さんはこれを不服として最高裁に献金の一部の返金(6580万円)を求めて上告して、今回の判決がいい渡されています。

納得のいく判決であると思う一方、なぜもっと早くこの判決がでなかったのか

同日に司法記者クラブにて会見があり、中野さんは最高裁の判決で「念書は無効であることをはっきりいっていただいたことで、非常に納得する結果になった」と話します。

これまで地裁、高裁と教団側の勝訴判決を受けて「裁判所に対する不信感しかなかったわけですが、今日初めて信頼に足る判決を得られた」ともいいます。しかし「なぜもっと早くこの判決がでなかったのか」との残念な思いも口にします。

「この判決は、最高裁でなくてもできるはずで、高齢の母は高裁の審理中に亡くなりました。地裁でこうした判決が出ていたら、母を喜ばせてあげることができたはずです」

納得のいく判決を得られて嬉しい気持ちとともに、ここに至るまで長い年月がかかったことへの悔しさをにじませる言葉もありました。

旧統一教会の強い心理的影響の下にあったことを考慮すべき

木村壮弁護士は「最高裁判決で、念書が無効であるという明確な判断をもらい、(夫の財産を献金させられたことへの)献金勧誘の違法性については、従前の判決では審理が尽くされたとはいえないとのことで、高裁への差し戻しがありました」と話します。

「最高裁は、不起訴の合意が当事者の裁判を受ける権利を制約するものであり、慎重に判断をしなければいけないとしていますが、どういう事情を考慮して公序良俗に反し無効と判断するかについて判決では次のように述べています」(木村弁護士)

「当事者の属性及び相互の関係、不起訴合意の経緯、趣旨及び目的、不起訴合意の対象となる権利又は法律関係の性質、当事者が被(こうむ)る不利益の程度その他諸般の事情を相互考慮して決すべきである」(判決文より)

「今回については、86歳という高齢で念書を作らされたこと。しかも念書を作った約半年後にはアルツハイマー型認知症だという判断をされている。統一教会に1億円以上の献金をしているなど、家庭連合(旧統一教会)の非常に強い心理的影響の下にあったことを考慮すべきとしています」(同弁護士)

「終始、統一教会の信者らの主導の下に締結された」の指摘

私も裁判の傍聴をしながら大きく頷きメモした部分がありますが、それについて木村弁護士も大事なポイントの一つとしています。

判決では「念書の文案を統一教会の信者が作成し、(母親を)公証人役場に連れて行き、その後、ビデオ撮影をするなど、終始、統一教会の信者らの主導の下に締結されたもの」で「念書の内容が1億円以上を超える献金について、何らの見返りもなく無条件に不法行為に基づく損害賠償の訴えを一切提起しないというものであり、本件勧誘行為による損害の回復の手段を封ずる結果を招くことであって、(母親が被る)不利益の程度は大きい」としています。

「これらの事情を指摘した上で、合理的な判断をすることが困難な状態にあることを利用して、一方的に大きな不利益を与えるものであったとして、念書については、公序良俗に反し無効という判断を示しました」(同弁護士)

86歳という高齢で判断の能力も衰えているだろう女性に、旧統一教会が主導して、組織的な形で返金を求めないとする念書を締結させるなど、宗教団体として絶対にしてはならないことのはずです。その点を最高裁は見逃さず指摘しています。

筆者撮影(7月11日・司法記者クラブ)
筆者撮影(7月11日・司法記者クラブ)

安倍元首相銃撃事件が起こり、最高裁で戦うことを思い直した

山口広弁護士は「私自身、地裁、高裁のひどい判決を目の当たりにして、今の裁判所では人権救済などできないと絶望してもう弁護士をやめようか」とも思ったといいます。

「中野さんご本人にも、もう上告を諦めようかとまでいいました。しかし、あの(安倍元首相の銃撃)事件が、高裁判決の翌日に起きました。(高額献金の被害により)こんなことまで引き起こしてしまう事態を目にして、やはり一緒に戦いましょうと思い直して、上告受理申し立てをしました」と、本当に上告してよかったとの思いを吐露します。

もう一つの論点である献金勧誘の違法性について「ご家庭内の不幸が重なるなかで、夫が重病にかかり、入退院を繰り返す不幸な出来事があった。1億円以上を献金させて、しかも相続した果樹園を売却させたお金が、本人の手元には全く残っていない実態なんです。しかも夫が大事に証券会社へ預けていたお金(約6千万円)も全部取られています。夫が献金したのではなく、夫のお金を統一教会の信者たちが主導して処分させて、それを新しく作った夫名義の口座に送金させて、送金された当日に全額を下ろしているんですよ。その事実を私は聞いただけで、これはほっとけない、損害賠償を請求すれば、裁判は勝てると思って一緒にやりましょうといいました。地裁、高裁では負けましたが、最後にこういう形で判決が出てよかった」と山口弁護士は話します。

配慮義務の規定が献金勧誘の違法性の判断基準となったのは画期的なこと

川井康雄弁護士は、今回の判決の重要性について、次の点をあげます。

「安倍元首相の事件以後、多くの被害者は声を上げて、国会議員の方々が熱意を持って、努力していただき、新しい法律を作ることができました。その年の12月に不当寄附勧誘防止法が成立しましたが、今回の判決でも引用する形で『寄附者の自由な意思を抑圧してはならない』や『本人や配偶者、親族の生活に支障が出るような献金をさせてはならない』という配慮義務の規定が(献金勧誘の)違法性の判断基準の新たな枠組みとして出されたというのは、画期的なことだと思います。これは、被害者や被害救済に当たってくれた方々の努力の結晶」として最高裁には敬意を表したいと述べます。

念書などを書かされて、諦めていた方もぜひご相談を

村越進弁護士は全国統一教会被害対策弁護団の団長の立場から次のように話します。

「これまで弁護団が相談を受けてきた被害者の方は720名ほどですが、その中で確認できるだけで、念書や合意書というものを作成されている被害者が十数名はいらっしゃいます。本日の最高裁判決で、念書は公序良俗に反して無効だと明確になりました。今まで念書を書かされて無理かもしれないと諦めて相談に来ていない方がたくさんいらっしゃるのではないかと思います。本日、こういう判決が出ましたので、諦めていた方もぜひご相談をいただきたい」と訴えます。

多額の献金をさせておいて生活費を交付する 裁判所からの異例との評価

判決の中で中野さんの母親が受けた献金状況に「異例のものと評し得る」とまで述べてくれたことには驚きましたが、私が知らなかったこともありました。それは、多額の献金をさせられて困窮状態にあるなか「信徒会から生活費の交付を受けていた」との言葉です。

私も全財産を捧げて献身(出家)していた信者時代に、激しい布教とお金集めの活動をしながらも、生活費などとして月に数万円程度しかもらえませんでしたが、木村弁護士に聞くとやはり中野さんのお母さんも数万円の生活費しか手にしていなかったそうです。多額の献金をさせられることでお金を奪われ、長きにわたってどれだけ苦しくみじめな生活をしなければならなかったのかが、見えてきます。

信教の自由があるからといって、何をしても許されるわけではない

裁判所は「異例」と評する献金状況ですが、実際には多くの高額献金をした人たちが経験していることではないかと思います。その状況を長年続けて、改めることをせず、最近まで返金を求めないとする念書などを信者からとっていた教団の体質こそ、他の宗教団体とは違う、異例な組織と評されるべきものではないかと思います。現在、行われている解散命令請求の裁判においても、この判決は重要なものになると考えます。

信教の自由があるからといって、何をしても許されるわけではありません。教団がもし社会に受け入れられるような「普通の宗教」になろうとするならば、最高裁判決で指摘されたことはすべて改めることが必要だと思います。

木村弁護士は「どういった場合に、不起訴合意が公序良俗に反して無効になるかの基準も最高裁から示されており、今後、いろいろな裁判の中では使われることになると思う」としており、高額献金による被害救済の道が真に大きくひらいた最高裁の判決であると感じています。

詐欺・悪徳商法に詳しいジャーナリスト

2001年~02年まで、誘われたらついていく雑誌連載を担当。潜入は100ヶ所以上。20年の取材経験から、あらゆる詐欺・悪質商法の実態に精通。「ついていったらこうなった」(彩図社)は番組化し、特番で第8弾まで放送。多数のテレビ番組に出演している。 旧統一教会の元信者だった経験をもとに、教団の問題だけでなく世の中で行われる騙しの手口をいち早く見抜き、被害防止のための講演、講座も行う。2017年~2018年に消費者庁「若者の消費者被害の心理的要因からの分析に係る検討会」の委員を務める。近著に『信じる者は、ダマされる。~元統一教会信者だから書けた「マインドコントロール」の手口』(清談社Publico)

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