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米紙が記事を取り下げ「アマゾンがEA買収の噂」報道で混乱

山口健太ITジャーナリスト
アマゾンによる買収提案の報道は取り下げられた(Webサイトより、筆者撮影)

8月26日、米国で「アマゾンがEAに買収を提案する」との噂が報じられ、大きく注目されました。この報道は間違いとして取り下げられましたが、EAの株価は上がっています。いったい何が起きたのでしょうか。

「アマゾンが買収提案の噂」報道で混乱

8月26日の午前6時59分(米国東部時間)、米紙「USA TODAY」のオンライン版は、米Amazon.com(アマゾン)がゲーム大手の米エレクトロニック・アーツ(EA)に買収提案をするとの「噂」を掲載しました。

この記事はeスポーツを含むスポーツ関連のコーナーに掲載されたもので、スウェーデンのGLHFというeスポーツ関連企業による匿名の情報源に基づいた情報という位置付けでした。

しかしその1時間後にCNBCはこの報道を大筋で否定し、ブルームバーグなどがそれに続いたようです。午前10時37分にはUSA TODAYが記事を更新し、匿名の情報源の扱いについて、編集基準に反する記事だったとして全面的に取り下げています。

現在、問題の記事は取り下げ後のバージョンとなっていますが、当初の報道がどのようなものだったかはアーカイブサイトで確認できます。

経済紙によるスクープに比べるとやや信憑性に欠ける面はあったものの、一方で、十分にあり得る話だと感じた人も多いのではないでしょうか。

ゲーム業界は再編が進んでおり、2022年1月には米マイクロソフトがゲーム大手の米Activision Blizzardを687億ドル(当時のレートで約7兆8800億円)で買収すると発表しています。

EAについても、アップルやディズニー、アマゾンといった企業との間で買収交渉があるのではないか、と報じられたことがありました。

アマゾンは有料会員サービスの「Amazonプライム」に注力しており、さまざまなコンテンツや特典を提供することで会員を飽きさせないようにしています。

ゲームについては、2014年にアマゾンはゲームのライブ配信プラットフォームとして人気のTwitchを買収しており、Amazonプライムにはゲームに関する特典が加わっています。

最近はゲームを自分でプレイするだけでなく、ゲーム配信や実況を見て楽しむ人が増えており、市場が急成長しています。アマゾンはこのトレンドを先取りしていたといえるでしょう。

まさにこの週末もEAの人気バトロワゲーム「Apex Legends」の大会が開かれており、オンラインではTwitch(とYouTube)で配信されています。

8月5日にアマゾンはロボット掃除機「ルンバ」で知られるiRobotの買収を発表するなど、企業買収に積極的な姿勢を見せています。

荒れ模様の相場、でもEAの株価は上昇

当初の報道を受け、株式市場で取引が始まる前のプレマーケットでEAの株価は約14%急騰していたようです。

その後、報道が否定されたことで株価は落ち着いたものの、8月26日の終値は前日比で3.57%上昇しています。これは興味深い数字です。

というのも、この日は米FRB議長が利上げを継続する姿勢を示したことで、ナスダック指数は約4%の下落となっています。その中でEAは大いに買われたといえそうです。

アマゾンによる買収の話はひとまず事実ではありませんでしたが、そのうちEAは高く買われるのではないか、という期待感が高まったといえるかもしれません。

ITジャーナリスト

(やまぐち けんた)1979年生まれ。10年間のプログラマー経験を経て、フリーランスのITジャーナリストとして2012年に独立。主な執筆媒体は日経クロステック(xTECH)、ASCII.jpなど。取材を兼ねて欧州方面によく出かけます。

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