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関西の学生がゲーム開発に挑戦、学校や企業を超えた人材育成のあり方とは

小野憲史ゲーム教育ジャーナリスト
製作されたゲームを参加者が試遊する模様(筆者撮影、以下同じ)

インディゲーム展示会にむけてゲームジャムを実施

2022年7月2日・3日にホテル アンテルーム京都(京都府京都市)で「第2回BitSummit Game Jam / ビットサミットゲームジャム」(主催:BitSummit実行委員会)が開催され、関西圏の学生を中心に約100名がゲーム製作に挑戦した。ゲームジャム終了後、会場には「cross roads(分岐点)」をテーマに製作されたゲームがならび、プロのゲーム開発者も交えた試遊会が実施された。ゲームはブラッシュアップを経て、8月6日・7日に京都市内で開催されるインディゲーム展示会「BitSummit X-Roads / ビットサミット クロスロード」で試遊展示される予定だ。

ゲームジャムは経歴もスキルも多様な参加者が一堂に会し、短期間でテーマに即したゲームを開発して公開する、ゲーム開発者向けのイベントだ。毎年1月末に開催され、全世界で3万3千人が参加する「グローバルゲームジャム」を筆頭に、さまざまな規模のゲームジャムが各地で開催されている。本イベントもゲーム業界をめざす学生に対して、学校の枠をこえた交流とゲームの開発機会を提供することを主な目的として、昨年度から対面とオンラインのハイブリッド形式でスタートした。今年もコロナ禍の中、感染対策を万全にとりつつ、同様のスタイルで開催された。

ゲーム開発はホテルの食堂とラウンジで行われたほか、オンラインで参加した学生もいた
ゲーム開発はホテルの食堂とラウンジで行われたほか、オンラインで参加した学生もいた

オンラインイベントで企画内容をブラッシュアップ

ゲームジャムに似たイベントとして、ITやWeb業界の文脈で開催される「ハッカソン」がある。「ハッキング+マラソン」の意味で、ゲームジャムと同じく短期間でプログラムを作り上げる、エンジニアを対象としたイベントだ。これに対してゲームジャムはプログラマー・アーティスト・ゲームデザイナーといった、多様な職種の参加者がジャズのジャムセッションを行うように、アドリブをきかせながら「モノづくり」を行う点に特徴がある。2000年代後半から北欧を起点に広がり始め、今ではゲームジャムをきっかけに生まれたヒット作も少なくない。

その中でも本イベントならではの特徴が、対面とオンラインを併用したハイブリッドな運営スタイルと、約2ヶ月半という比較的長めな開発期間だ。開会式は5月21日にオンライン上でスタートし、参加した学生たちはテーマの説明を受けると、事前に編成されたチームごとに(複数の学校の学生が混ざるように事前に調整された)企画会議をスタートさせた。その後、グランディング京都スタジオとQ-GAMESという、京都市内のゲーム開発スタジオからベテランのゲーム開発者が参加し、6月に二度にわたって企画のフィードバック会がオンラインで行われた。これによって企画内容がさらに洗練された。

このように複数のオンラインイベントを経て、満を持して実施された本開発では、チームメンバーがはじめてリアルに出会ったことで、さながらオフ会の様相を呈していた。その結果、いささか混乱気味な様相もみられたが、これをしっかりと支援したのが、運営メンバーとして参加した大阪電気通信大学、京都芸術大学、立命館大学などの教員だ。その多くがプロのゲーム開発経験をもつ実務家教員で、製作が円滑に進むように、きめ細かい指導がなされた。試遊会では京都市内のゲーム開発会社が見学に訪れ、学生が作ったゲームを試遊したり、アドバイスを送ったりする姿もみられた。

事前のオンラインイベントで企画を固めただけでなく、グラフィック素材などを事前に準備していたチームもあった
事前のオンラインイベントで企画を固めただけでなく、グラフィック素材などを事前に準備していたチームもあった

PCやタブレットを持ち込み、食堂のテーブルでゲーム製作を続ける参加者たち
PCやタブレットを持ち込み、食堂のテーブルでゲーム製作を続ける参加者たち

実務家教員を中心とした学生指導

試遊会では参加した10チームのうち8作品が展示され、内容は大きくパズルアドベンチャーとアクションゲームに分かれていた。ステージ上の仕掛けを解きながら世界の滅亡を防ぐものや、放射能におかされた世界の中で愛猫の遺伝子を組み換えながら安全地帯に向かうもの、二体のキャラクターの軌跡を交叉させながら敵を攻撃するものなどで、いずれもテーマである「cross roads(分岐点)」がさまざまな形で活かされていた。二日間でゲームを完成させたチームは存在しなかったが、いずれも高い可能性を秘めており、ブラッシュアップ次第で大きく化けるように感じられた。

こうしたゲームジャムの広がりを支えているのがSTEAM教育だ。いまや全国の小中高校でプログラミング教育が進み、高性能なゲーム開発ツールが無償で使用できる。そのためクオリティを考えなければ、ゲームは個人で手軽に作れる時代になっている。実際に小学校で使用されることの多いビジュアルプログラミング言語「Scratch」の公式サイトでは、子供たちが制作した大量のゲームが公開されている。これに伴い、専門学校や大学に求められる授業内容も、より高度なものになることが期待されている。こうした中、本イベントのような取り組みも、ますます必要になっていくだろう。

中でも興味深かったのが企画面の指導だ。ゲームの完成度は仕上げの段階で大きく変わる。優れたアイディアだが練り込みが足りないゲームよりも、凡庸なアイディアだが良く調整されたゲームの方が、遊んで楽しいのも事実だ。そのためゲームジャムでは、なるべく早く企画を固めることが求められる。その結果、企画が見切り発車で開発が進められることも少なくない。その一方で本イベントでは、実務家教員を中心に二度の企画フィードバック会が行われるなど、学生に時間をかけて練り込みを続けさせ、新規性の高いゲームを作らせようとする、運営側の意気込みが伝わってきた。

試遊会では制作中のゲームを遊びながら、プロや教員からさまざまな改善案が提示された
試遊会では制作中のゲームを遊びながら、プロや教員からさまざまな改善案が提示された

試遊会にあわせて来場し、学生のプレゼンテーションを別室で視聴するゲーム開発会社の面々
試遊会にあわせて来場し、学生のプレゼンテーションを別室で視聴するゲーム開発会社の面々

企業と教育機関の連携を通した次世代の人材育成

ゲーム業界のようなコンテンツ産業で最も求められるのは「人」だ。次世代のゲームを作り上げられる人材をどのように育成するか、業界で早急な課題となっている。しかし、業界で求められる技術レベルが急速に上昇する中、企業と教育機関のギャップが広がっているという指摘もある。リカレント教育も含めた、企業と教育機関における横断的・重層的な人材教育の在り方をどのように制度設計するか、日本ではまだまだ議論が追いついていない。現場レベルでの試行錯誤が続けられているのが現状だ。今回のゲームジャムもこうした流れの中に位置づけられる。

1970年代に大学で映画製作を学んだ世代が『未知との遭遇』や『スター・ウォーズ』などの名作を作り上げたように、今や米国や欧州ではゲーム製作も大学や大学院で体系的に学ぶ時代に突入している。南カリフォルニア大学(USC)が進めるUSC Games Programはその好例で、日本でもそうした取り組みが、ようやく始まったところだ。こうした中、複数の学校関係者とゲーム開発会社が共同で人材育成を進め、インディゲーム展示会での試遊展示につなげるという本イベントは、日本における先進的な取り組みの一つだといえるだろう。こうした取り組みが全国に広がっていくことを期待したい。

ゲーム教育ジャーナリスト

1971年生まれ。関西大学社会学部卒。雑誌「ゲーム批評」編集長などを経て2000年よりフリーのゲーム教育ジャーナリストとして活動中。他にNPO法人国際ゲーム開発者協会名誉理事・事務局長。東京国際工科専門職大学専任講師、ヒューマンアカデミー秋葉原校非常勤講師など。「産官学連携」「ゲーム教育」「テクノロジー」を主要テーマに取材している。

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