バズフィードと琉球新報が「ファクトチェック」で国際原則とかけ離れた記事、恣意的な運用の恐れ
ソーシャルメディアに広がる「フェイクニュース」の検証や、政治家や専門家の発言を確認する「ファクトチェック」。2018年沖縄県知事選挙での取り組みが注目されたバズフィードと琉球新報ですが、国際団体であるファクトチェック・ネットワーク(IFCN、International Fact-Checking Network)が加盟団体に求める原則から逸脱した記事があります。このままでは、特定の政党や候補者を有利にする恣意的なファクトチェックを有権者が判断することが難しくなります。
国際団体IFCNが定める5原則とは
IFCNが公開しているファクトチェッカーが守るべき原則「The commitments of the code of principles」は以下の5つです。
IFCN原則への署名団体は世界各国で60、日本国内にはありません。両メディアに遵守義務はありませんが、世界的な指針となっているものです。
記事が特定候補に偏り「公正さ」に欠けている
筆者は、下記の2つの記事が原則の、1.Nonpartisanship and Fairness、と、2.Transparency of Sources、から逸脱していると考えます。
玉城氏の紹介はたった2行。確認先にも違い
まず、1.Nonpartisanship and Fairnessですが、これら2つの記事は、特定候補に偏ったものになっています。
琉球新報の記事は、佐喜真氏の公約のみを取り上げており、玉城氏の公約についての記述はありません。バズフィードの記事は、玉城氏の公約についても紹介していますが、2行しかありません。
バズフィードは両氏の公約を比較していますが、佐喜真氏の「携帯電話利用料の4割削減」は県に権限がないとし、玉城氏の「県内Wi-Fi無料」は(県の事業として行えば)実現可能性が大いにあるとしています。なお、玉城氏の辺野古への米軍基地移設阻止の公約は検証していません。ファクトチェックの確認先は、佐喜真氏は総務省ですが、玉城氏は陣営関係者への確認と違いがあります。
このように、2つの記事は「党派的」であり「公正」さが感じられません。公約や確認先の恣意的な選択も疑われます。原則では、ファクトチェックが、政策を主張したり、政策に対する立場を取ったりしないように規定されています。
有権者の対立や分断が懸念されている
なぜ、1.Nonpartisanship and Fairness、は重要なのでしょうか。
それは恣意的なファクトチェックが行われると、特定の政党や候補者が選挙で有利になることや、有権者同士の対立を煽ることで社会的な分断を生み出すことが懸念されているからです。
具体的なソーシャルへの書き込みを提示せず
次に、2.Transparency of Sourcesです。この項目は、読者が自ら検証できるように、情報源が危険に晒される場合以外は詳細に説明することを定めたものです。両メディアの記事では、情報源はソーシャルメディアですから具体的な書き込みや拡散状況のデータを提示することは何ら難しくないはずです。
琉球新報の記事では『有識者やジャーナリストから「知事にその権限はない」などとするSNSの書き込みが拡散』、バズフィードの記事では『表記がTwitterやYouTubeにあり』とだけ記載されています。有識者やジャーナリストとは誰なのか、具体性に欠けており読者が検証することができません。
もし、有識者やジャーナリストが特定候補を支持していたら… もし、書き込み自体が存在していなかったら…
でっち上げの「ファクトチェック」も可能になる
のです。だからこそ、IFCNは情報源を開示するように求めているのです。
国内団体もファクトチェック記事ではないと指摘
この2つの記事は、国内でファクトチェックを推進する団体NPO法人ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)のファクトチェック・ガイドラインにも準拠していません。バズフィードと琉球新報は、FIJのプロジェクトに参加するメディアパートナーでしたが、ガイドラインを守っていませんでした。
パートナー団体だが、ガイドラインは守らない?
ガイドラインを守っていないにもかかわらず、2つの記事はファクトチェックというロゴを掲げたままサイトで公開され続けています。その理由は、独自の基準で実施しているためです。
バズフィードの広報は「BuzzFeed JapanはFIJのメディアパートナーですが、ファクトチェックはもともと弊社が独自に行なっております。FIJのガイドラインも参考にしつつ、基準などはBuzzFeed Japan独自で実施しております」と回答。琉球新報は「後ほど回答する」としています。
しかしながら、バズフィードと琉球新報は、FIJのパートナー団体としてプロジェクトに参加したことを報道し、イベントでアピールしています。有権者は「FIJのガイドラインを守っている団体」と誤解してしまうのではないでしょうか。
ガイドライン逸脱を有権者に広く周知せず
FIJの瀬川至朗理事長(早稲田大学政治経済学術院教授)は「プロジェクトに参加するメディア・団体に限らず、ファクトチェックをする際には、ガイドラインに準拠していただくことを広く推奨しています」と説明、ガイドラインを満たしている記事をホームページに掲載しているといいます。
「参加メディア・団体には、記事ごとに、ホームページへの掲載・非掲載の結果と、非掲載の場合、どの基準を満たさなかったのかについて説明をするようにしています。ただし、個々のメディア・団体のファクトチェックは、それぞれの責任において実施しており、FIJは各メディア・団体の自主性を尊重しています」(瀬川理事長)
有権者がガイドライン違反を確認したければ、記事一つ一つについて、パートナー団体と、FIJのホームページを確認していく必要があります。
現状では「ファクトチェックのファクトチェック」が必要
選挙時のファクトチェックは、有権者の判断をサポートするために適切な情報を提供する大切な役割がありますが、やり方次第では、特定の政党や候補者が選挙で有利になることや社会的な分断を生み出す危険性があるからこそ、ガイドラインが定められています。
日本国内は、国際原則や国内ガイドラインを守らず、各メディアが独自基準で行う「ガラパゴス・ファクトチェック」が進んでおり、恣意的な運用を判断することが困難です。政治的な誘導や分断を目的としていないか、一つ一つの記事を有権者自身が原則などを参照して確認する「ファクトチェックのファクトチェック」が必要な状況に陥っています。
ファクトチェックの本格的な取り組みは始まったばかりで、IFCN原則もアップデートのための議論が行われています。国内においても、7月の参議院選が迫る中で、公正で透明性のあるファクトチェックのあり方、提示方法を議論していく必要があります。