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イラク、イスラエル、クルド、ロシア

高橋和夫国際政治学者/先端技術安全保障研究所会長

イラク政府がロシアから中古の戦闘機を購入。ロシアの思惑は油田権益の維持なのか?

ロシアの意図は、短期的には石油ではないだろう。自らの中東における主要なプレイヤーとしての役割をアッピールすることだろう。またマリキ政権を強化することは、イスラム過激派のイスラム国を弱めることとなる。このイスラム国がロシアの支援を受けるアサド政権を脅かしている。この面からもロシアの政策には合理性があるだろう。

ところで、マリキ政権にロシア製の航空機を飛ばせるのだろうか。航空機を整備し飛ばすには、それなりの訓練を受けた人材がいる。これはシリアのアサド政権が提供するのだろうか。またスンニー派の地域の爆撃を始めれば、多くの民間人を巻き込む、さらにマリキ政権への憎しみを深めることになるだろう。

イスラエルがクルド人による北部地域の独立支持を表明している。このイスラエルの表明がイラク情勢に与える影響について・・・

イスラエルとイラクのクルド人は長い間にわたり同盟関係を維持してきた。1960年代からイスラエルはクルド人の独立運動を支持してきた。イラクの分裂と弱体化はイスラエルの安全保障を高めるとの発想があるからだ。今回のイスラエルのクルド独立支持は、そうした長い歴史的な文脈から理解されるべきだ。支持はありがたいが、クルド人にとっては、しかしながら、イスラエルの大声での応援は迷惑だろう。なにせ、まだ形式的にはアラブの国イラクの一部なのだから。またクルド人口を抱えるトルコやイランの動向も気にせねばならない。クルド人はイスラエルの静かな支援を期待していよう。

実質的な面でイスラエルがクルド人のためにできることの一つはアメリカを動かすことである。アメリカ議会にはイスラエルの影響力が強い。イラクが分裂しているという事実をアメリカ政府が承認するように、議会を通じて働きかけることである。オバマ政権の言動から判断すると、アメリカはバグダッドの政権にイラク全土の支配を回復させることが可能だと未だに信じているようだ。しかしイラクをクルド、スンニー、シーアの三つの自治地域からなる連邦国家に再編成するほうが現実的な対応であろう。また、そうすればクルド人の自治は、ますます強固になるだろう。

2014年7月1日(火)記

国際政治学者/先端技術安全保障研究所会長

国際情勢をわかる言葉で、まず自分自身に語りたいと思っています。北九州で生まれ育ち、大阪とニューヨークで勉強し、クウェートでの滞在経験もあります。アメリカで中東を研究した日本人という三つの視点を大切にしています。映像メディアに深い不信感を抱きながらも、放送大学ではテレビで講義をするという矛盾した存在です。及ばないながらも努力を続け、その過程を読者の皆様と共有できればと希求しています。

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イラン革命、イラン・イラク戦争、湾岸危機・戦争、アメリカ同時多発テロ、アフガン戦争、パレスチナ問題、イラク戦争、アラブの春と続発する事件に関して30年以上にわたり発言を続けてきました。またオフレコでメディア、官庁、政党、企業などに対し、そして名前を公表できない人々を含め日本の指導層のために助言とブリーフィングを行ってきました。高橋和夫の情報への感性に共鳴する方々のために分析を提供します。

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