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代表監督は決断するのが仕事。代表は「公平」な存在ではない。

小宮良之スポーツライター・小説家
ハリルホジッチの眼鏡にかなった杉本健勇(写真:築田純/アフロスポーツ)

代表メンバー選考は、理想としては「公平」であるべきなのだろう。クラブで活躍している選手が原則的にピックアップされるべき。それでこそ、選手は代表を目指し、切磋琢磨できるはずだ。

しかし現実の話、代表という存在は公平ではない。

それは一人の代表監督をリーダーにして存在する集団であって、メンバー選考には必然的に主観や嗜好が色濃く反映される。誰もが納得する公平さを求めるのは不可能。人が人を使う点において、どんな社会組織でも不公平さは必ずあるモノで、半ばどうしようもないことである(クラブチームも一人の監督と一部の首脳陣によって陣容は決定される。こちらは必要とあれば袂を分かてば良いのだが)。

ヴァイッド・ハリルホジッチ監督は、5月の代表候補合宿で招集したメンバーについて、所属クラブとは異なるポジションでの起用を示唆。持論を展開し、強い主観性を示している。川崎フロンターレの杉本健勇を選び、その理由が「クオリティが高い」と説明されたのも象徴的ケースだろう。

杉本はリーグ10節までで先発出場1試合、出場時間157分、1得点。クラブで結果を残しているとは言えない。ロンドン五輪出場経験もある有望なFWではあるし、柏レイソルと湘南ベルマーレの選手が14日に試合があるため除外されていたとしても、この招集は公平の視点からは外れる。とは言え、代表監督には選考の権限があるわけで、主観での選考が認められている。

「ポテンシャルを感じた。私の采配で見違える動きをする」と言われたら、異論を挟む余地はない。

ハリルホジッチは弁舌が豊かでウィットに富んでおり、それが日本人メディアに好まれている。この点はかつて日本代表を率いたイビチャ・オシム監督とよく似ているだろう。「考えて走るサッカー」のような標語は独り歩きしていったが、ハリルホジッチの指摘も体脂肪率やスプリント回数に及び、メディアはその単純明快さに一斉に飛びついている。

オシム監督も大量に代表選手を招集した上、自らが率いていたジェフ千葉の選手を多く呼び寄せ、彼らは「オシムチルドレン」とも言われた。その是非は別にして、公平性は欠いていたと言える。選手からも「代表の価値が下がり、弱体化する」と苦言を呈する声も少なくなかったし、2000年代前半まで代表の主力だった故・松田直樹もその一人だった。オシム監督の日本サッカーへの貢献度は非常に大きいが、実のところ、代表監督としては大きな成果は上げられていない。

それは公平さが失われていた結果だったのか?

もちろん、その答えを出すのは難しいし、あるいは疑問自体に意味がないのかもしれない。なぜなら繰り返すが、代表とは原則的に「不公平さ」を孕んだ集団だからである。代表監督の主観が必ず入る。さもなければ、一つの旗印の下に目指すべきプレーができないという側面が厳然としてある。

アルベルト・ザッケローニ監督も「不公平さ」は何ら変わらなかった。例えば、サンフレッチェ広島で得点を量産していたFW佐藤寿人をほとんど"無視"していた。広島の戦術布陣などが特異であって、佐藤一人にボールを集める形だったのもあるだろう。しかし、ザッケローニが「高い位置でボールをつなぎ、得点の可能性を高める」という"らしさ"に執着しすぎており、「バリエーションを作るのも一つのやり方では?」と諫言したくなる頑固ぶりだった。さらにイタリア人指揮官は、最後の最後で未招集だった大久保嘉人をW杯メンバーに突然入れ、「私は彼を入れる用意がいつでもあった」と昂然と語り、自らを正当化した。

結局のところ、何を議論しようが、代表監督の"好き嫌い"が物を言う。不公平さが深刻な問題になった場合、代表のブランド価値は下がり、人気や強化にも影響を及ぼす。それでも決断するのは指揮官なのである。

しかしそれも度を超してしまうと、ときに墓穴を掘ることになる。

その点、ハビエル・アギーレ監督は最初から大きく躓いた。Jリーグでの出場経験すら覚束ない複数の選手を選出し、猛反発を浴びている。ブラジルW杯の惨敗後、改革に躍起になったメキシコ人監督は独自色を出しすぎ、蛮勇とも言える抜擢が裏目に出た。その後もアギーレは、テストマッチとして貴重なブラジル戦で主力を温存するなど迷走。そこでスペイン時代の八百長疑惑の追求の声が高まると、四面楚歌のような状況でアジアカップを戦わざるを得ず、一敗地にまみれた。

現在、ハリルホジッチは追い風の中で仕事をしている。それは彼の統率力高さのおかげかもしれない。断固たる態度と結果が、不公平さを正義とする―。つまりは成果を出さなければならない。それが権限を持ったリーダーの責務なのである。

スポーツライター・小説家

1972年、横浜生まれ。大学卒業後にスペインのバルセロナに渡り、スポーツライターに。語学力を駆使して五輪、W杯を現地取材後、06年に帰国。競技者と心を通わすインタビューに定評がある。著書は20冊以上で『導かれし者』(角川文庫)『アンチ・ドロップアウト』(集英社)。『ラストシュート 絆を忘れない』(角川文庫)で小説家デビューし、2020年12月には『氷上のフェニックス』(角川文庫)を刊行。他にTBS『情熱大陸』テレビ東京『フットブレイン』TOKYO FM『Athelete Beat』『クロノス』NHK『スポーツ大陸』『サンデースポーツ』で特集企画、出演。「JFA100周年感謝表彰」を受賞。

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