高松宮記念の有力馬ダノンスマッシュ、禁止薬物・香港デモ・新型コロナ…度重なる受難を乗り越えGIに挑む
無観客で実施されるGI高松宮記念
3月29日、中京競馬場でGI・高松宮記念が行われる。芝1200mの短距離戦。本来であれば、中央競馬はこのGIを皮切りにGIが毎週行われて大いに盛り上がるはずなのだが…。昨今の新型コロナウイルスの影響を鑑みると中央競馬の開催も毎週ごとの決断を強いられている状況だ。今の状況下で中央競馬はなんとか実施できている数少ない娯楽のひとつ。なんとか乗り切り、このまま開催が続くことを切に願う。
そんな混乱の中でも高松宮記念の有力馬の1頭ダノンスマッシュは昨年夏以降、調教など本来の馬の育成とは関係ないことで度重なる受難を受けている。
不可抗力での出走除外を強いられた函館スプリント
まず昨年6月、前代未聞の惨事に襲われた。安全とされたはずのサプリメント・グリーンカルに禁止薬物であるテオブロミンが混入していた。そして、たまたま函館滞在時に摂取したサプリメントだったためにダノンスマッシュは函館スプリントへの出走から除外されたのだ。そのサプリメントの袋には禁止薬物が入っていないことを証明するマークが表示されており、陣営にとっては青天の霹靂以外の何物でなかった。調子そのものはよかったし、ここで賞金を積んで放牧に出て秋のGI戦線を睨むプランを描いていたが、すべて白紙に。函館競馬場の出張厩舎に滞在しながら、すぐそばでレースが行われる。その無念さは計り知れなかった。
結局、函館ではレースに出走せず放牧へ。仕切り直して札幌競馬場でのキーンランドカップ(GIII)を快勝し、函館での無念を晴らせた。
[映像は2019年スプリンターズ、ダノンスマッシュは3着だった。]
今度は香港デモにより不安を強いられる毎日
しかし、またもや困難がダノンスマッシュを襲う。スプリンターズS(GI)3着のあと、陣営は父・ロードカナロアが制した香港スプリントを目標に調整していたのだが、今度は香港で何度となく起きたデモの影響で競馬の開催そのものが危ぶまれたのだ。
実は香港・沙田競馬場のすぐそばに大学がある。この地域、筆者も何度となく訪れ、普段は実にのんびりしている過ごしやすい場所なのだが、この時ばかりはその大学が前線基地のようになってしまっていた。食堂で火炎瓶がつくられ、大学は休校に。「無事、競馬は行われるのか?」と漠然と不安を抱えたまま、陣営は日本を発った。結果的に無事レースは行われたが、これまでは当たり前にレースに参加できたことを思えば、想定外の心理的不安を強いられたといえる。
これまではごく当たり前に競馬が行われてきたことが、どれほど有難いことだったのか。それを感じさせる一戦だったのだが…。
[映像は2019年香港スプリント、ダノンスマッシュは8着。]
新型コロナウイルスの影響下「本当に競馬ができるのか」
またしても、だ。帰国後、順調に調整されたダノンスマッシュはオーシャンSで優勝し、高松宮記念(GI)への優先出走権を得た。しかし、この日の中山競馬場に観客の姿はなかった。昨今の新型コロナウイルスの影響から無観客での競馬開催となったからだ。
その後もダノンスマッシュ自身の調整は順調そのもの。しかし、開催当日まで陣営は「本当に競馬ができるのか」という不安に晒されることになった。
不幸中の幸い、無事に高松宮記念は今週の出走にこぎつけられそうだ。しかし、3月28日から各地で不要不急の外出を控える要請が出ているという現状を鑑みて日本馬主協会連合会(JOA)は各馬主に当面のあいだ、競馬場への入場自粛を呼びかけることとなった。明らかに厳戒態勢はさらに厳しさを増している。
[映像は2019年高松宮記念。優勝はミスターメロディ。ダノンスマッシュは4着。]
いまが充実期「ダノンスマッシュにチャンピオンになって欲しい」
ダノンスマッシュは昨年の高松宮記念では4着だった。しかし、この時より馬体は成長しており、いまが完成期といえる。
管理する安田隆行調教師は愛馬の成長に目を細める。
「以前は腰が甘かったのですが、香港から帰ってきたあたりからシャキッとしてきましたね。それ以降は調教でも全然ブレずにしっかり走れています。最近はお父さんのロードカナロアと似ていると感じるほどです。」
今回、GIながら無観客での開催となる点については、
「ファンファーレのどよめき、興奮。あれこそがGIだと思うんです。お客様と一緒に盛り上がりたいのが本音です。いま、このような困難はありますけれども、なんとか頑張って欲しいと思います」
と、寂しさを吐露しつつも前向きに競馬に挑む心意気をみせていた。
馬の体調等、競馬のことだけを考えてレースに向かう。そのような日々が早く戻ること、そして幾度となく困難を乗り越えてきたダノンスマッシュの健闘を祈る。