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ブラジルの即時決済システムのピックス(PIX)が普及した理由、中央銀行が関与

久保田博幸金融アナリスト
(提供:イメージマート)

 ブラジルの決済会社イーバンクスが9月9日公表した調査結果によると、同国の即時決済システム「ピックス」は来年にも国内オンライン決済市場のシェアがクレジットカードを上回る見通しだ(9月10日付ロイター)。

 ピックス(PIX)は2020年末にブラジル中央銀行によって導入された。このシステムは、スマートフォンなどによる支払い、振り込み、送金などを低コストで、24時間365日実施できる。銀行は各々の口座をこのシステムに対応させることが義務付けられた。

 中央銀行がシステムの保有、運用や規制を担い、処理速度や効率、そして銀行口座との全面的な統合を保障するという方式は画期的である。

 現金に代わる決済手段として普及させるべく、ブラジル中央銀行によって監督されている。これにより高いセキュリティ基準が適用されていることで、ブラジルレアルと同様の信頼性もある。

 利用者は既に持っている銀行のアプリなどで、納税者番号や携帯電話番号を使って個人の「ピックス・キー」を作成する。電話番号を入力したりQRコードを読み込むことで、支払いを済ませることができる。

 個人の送金手数料は無料となり、企業の場合は取引金額の 0.33%相当と安価となっている。

 従来の決済手続きではその構造上、仲介事業者が多くなり、送金手数料で高額な費用がかかる。これが小規模企業の参入を阻んでいたが、「ピックス」の導入により仲介事業者が減り、コスト面の障壁が低くなる。

 クレジットカードの大きなメリットである複数月の分割払いについても、「ピックス・ギャランティド」と呼ばれる新機能によって可能となる。

 長期の分割払いの利用が多いブラジルでは、ピックスの登場後も高額決済ではクレジットカードが利用されてきた。さらにブラジルの政策金利は10%を上回っており、分割払いの利子もかなりの負担となるが、これも軽減される。

 中央銀行デジタル通貨については日銀でも研究等を行っているが、それなりにハードルは高い。

 これに対して中央銀行がシステムの保有、運用や規制を担う即時決済システムの導入は、このブラジルの例もあるようにハードルは低い。

 日本では、ほぼ全員が銀行口座を保有している。このため、即時決済としてはデビットカードなどの普及が進めば、同様の決済は可能となる。しかし、日本ではその普及は拡がらなかった。

 もしブラジルのように日本でも日銀が関与して銀行口座と直結したシステムを導入するとなれば、決済の電子化が一気に進む可能性もある。それをブラジルでのピックスの普及が示しているように思われる。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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