イタリア対オーストリアは「メンデルスゾーン対ハイドン」? 重圧増のアッズーリ、夢は続くか
ウィーンは美しく、心豊かになる街だ。シュテファン大聖堂の荘厳さに圧倒され、ザッハートルテにうっとりさせられる。そして、芸術と音楽を愛する人が飽きることのない都だ。
同じく芸術と音楽を愛するイタリアだけに、通信社『ANSA』はアーティストの意見に興味を抱いたのかもしれない。6月26日に行われるEURO2020決勝トーナメント1回戦、イタリア対オーストリアの一戦について、両国の音楽家たちの見解を紹介している。
アッズーリ(イタリア代表の愛称)は絶好調だ。7得点無失点の3連勝と完璧な成績でグループステージを突破。11試合連続での無失点連勝、30試合連続無敗など、見事な数字を残してきた。スターの圧倒的な個の力でなく、グループとしての団結が最大の武器だ。
ウィーン国立歌劇場でタクトを振ったイタリア人指揮者のスペランツァ・スカップッチは、そんなアッズーリを「若くて活発、ポジティブなエネルギーに満ちている」と称賛した。たとえるなら、「メンデルスゾーンの交響曲第4番の始まり」。一方で、オーストリアにはハイドンを感じるという。「堅実で、一見厳格。でも奥底では楽しい」からだ。
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団の理事も務めるバイオリニストのダニエル・フロシャウアーは、試合を心待ちにしている。「大事なのは勝利ではなく、チームスピリットや感情面で伝えてくれること」だとし、「動くシュトラウスやモーツァルトを見られることを願っている」と期待を寄せた。
オーストリア主将ダビド・アラバも認めるように、有利とみられるのはイタリアだ。『ガゼッタ・デッロ・スポルト』紙のアンケートでも、約5000人のファンの92%超がアッズーリ勝利を予想している。
だが、オーストリア戦は今大会のイタリアにとって初めての状況で迎える試合だ。グループステージの3試合はいずれもローマ、つまりホームで戦うことができた。聖地ウェンブリーでの今回の一戦は、初の“アウェーゲーム”となる。
なにより、評価急上昇で重圧も大きくなっている。イタリア快進撃の要因のひとつは、のびのびとプレーできたことだ。トルコとの開幕戦では序盤に硬さがみられた。オウンゴールで先制できていなければ…「たられば」は不毛だが、期待と不安が足かせになることへの懸念はある。
そのトルコ戦のさらに前、開幕セレモニーでは、アンドレア・ボチェッリが美しい歌声を披露した。プッチーニのオペラ『トゥーランドット』の名アリア「Nessun dorma(誰も寝てはならぬ)」だ。
『ガゼッタ』のアンドレア・ディ・カーロ記者は、「ボチェッリは『誰も寝てはならぬ』と思い出させてくれた。そして、誰も寝ることはなかった」と記した。ロベルト・マンチーニ率いる代表チーム、声援を送り続けた観客、テレビの前で応援した国民と、誰も眠り込んでしまうことはなかったと。
ただ、ある意味で、イタリアは眠り続けているとも言える。ワールドカップ予選敗退で奈落の底に落ち、屈辱にまみれ、コロナ禍で大きな打撃を受けた。人々は今大会のアッズーリに酔い、大きな夢を見ているのだ。
イタリアは目を覚ますことなく、夢を見続けられるのか。メンデルスゾーンの交響曲第4番が、第2楽章以降にどう展開し、どのように終わるかは…よろしければ各自でご確認いただきたい。