電気自動車EVの国で起きた反発 若者の投票率がさらに低くなる恐れ 北欧ノルウェー
9月9日の統一地方選挙を直前に、ノルウェー政界が揺れています。
この騒動をきっかけに、若者への政治や、市民の統一地方選挙への関心がより低くなるのではないかと懸念されています。
そもそも、今年の選挙の要は、意外な方向性へと急展開していました。
きっかけは、気候変動や環境問題への関心が高い国で(石油をばんばん採掘していはいますが)、大気を汚染し、道路のスペースを取りすぎる「車」の運転手への税金を、今後どれほど高くしていくかということでした。
「環境税」ともいわれるやり方で、環境を汚す者はより多くのお金を国に支払い、電気自動車EVや公共交通機関を使って移動する人々にはより多くのボーナスを、という仕組みです。
道路の通行料は、ガソリンやディーゼル車ほど、時間や通貨場所によって、高くなります。政府が中道右派でも左派でも、その方向性は大きくは変わりません。
「家計がつらい」
「いい加減にしてよ、もう家計が辛いよ」と声を出し始めたのが運転手。国内各地にEVや交通手段のインフラが整っていれば、お金に余裕があれば、誰だって好んで古い車種を選びません。
政治色関係なく、子どもの送迎が多い家庭、金銭的に余裕のない家庭の家計を悪化させる流れに、我慢の限界がきはじめています。
新政党が支持率をあげる
結果、全国各地で、「道路通行料制度に反対する」新政党が立ち上がり始めました。意外なことに、新しく、経験が浅い政党にも関わらず、各地の世論調査でぐいぐいと数字を伸ばし始め、議員が多く誕生しそうです。
この状況に「やばい」と動き出したのが、与党、ノルウェーの右翼ポピュリスト・極右に位置する「進歩党」でした。
進歩党は、移民や難民の受け入れに厳しいだけではなく、「車の運転手」の味方ということを自負してました。
しかし、同党のイェンセン党首が財務大臣となって政府を担っているにも関わらず、車の運転手への負担はあまり減ったようには感じられません。
「約束と違う」、「期待外れだ」と支持者が新政党に移動し始めたのです。
数週間後の地方選挙への影響を恐れて、進歩党は大きなギャンブルを開始しはじめました。
一時は政権解散の危機に
もっと車の運転手への負担がなくなる政策をと、連立する首相と他の3政党に言い放ったのです。
問題は、「交渉する」というよりは、「これが最後の通告だ」と、交渉する姿勢さえも今回は見せなかったことです。
進歩党の条件を飲まなければ、同党は政権から外れるといいます。つまり、政権解散の危機の可能性があったのです。
地方選挙を前に政権解散だなんて、得をする人はいません。4政党をまとめようと、首相は今週、必死に動いていました。
結果、23日深夜、新しい政策プラットフォームに与党らが「渋々と」合意する空気がでてきました。
首相は、緊急で記者会見を開きました(国営局NRK)。
各地の政治ニュースが減ってしまった
さて、問題は、今回の進歩党が引き起こした、ギャンブルです。
本来であれば、各地では今どのような課題があるのか。各党はどのような公約を掲げているのか。そのようなことが、全国ニュースを毎日埋めているべきはずの時期です。
しかし、中道右派政権の与党同志での内部騒動が、仕方なくトップニュースになってしまい、各地の自治体政治がカバーされる割合が減っていました。
このことに、与野党の各地の政治家からも不満の声があがり、報道陣も「お粗末だ」という評価をしています。
なにより、今回の地方選挙では、車が争点となっていますが、そもそも誰もが車に乗っているわけではありません。
誰もが車に興味があるわけではない
私は、この選挙では投票する権利があります。ジャーナリストとしての仕事があるので、自分は車を運転しなくても関連ニュースは見ます。しかし、この仕事がなかったら、今回の騒動や選挙ニュースには飽き飽きしていたかもしれません。
ただでさえ高くない、地方選挙での若者の投票率。多くの若者は車を運転していないため、「今年の選挙は若者を無視している」、「私たちには関係ない」という声が上がっています。
4年前の地方選挙に比べて、ちょっと残念な空気が漂っている感触を私は受けています。
ノルウェーといえば、電気自動車EV普及において、世界でナンバーワンの国。そんな国で、EVと環境対策を優先してきたからこそ、今回はそれに対抗する力がうまれてました。
極右が起こした政権内の騒動、「車」という争点は、今年の投票率にどれほど影響を与えるのかが注目されています。
Photo&Text: Asaki Abumi