消えゆく空冷エンジン だが水冷にはない良さもある
最近、空冷マシンに乗る機会が多く、あらためてその良さをしみじみと味わいました。1台は連休前からずっと借りていたドゥカティのモンスター797+。サーキットでのイベントや都内の移動などで乗り回していましたが、とても素直で気持ちの良い相棒でした。
エンジンはドゥカティ伝統の90度Lツインですが、空冷方式はドゥカティ・ブランドでは唯一残っている貴重な存在です。昔ながらの濃厚なドコドコ感があって、ドゥカティらしい緻密な回転フィールの中にもどこか温かみを感じます。初代モンスターを思わせる原点回帰的なデザインも含め、街乗りもお洒落にこなせてサーキットでも楽しいマシンでした。
もう1台はモト・グッツィのV9ボバースポーツ。空冷縦置きVツインでしかもOHVで2バルブという生きた化石のような唯一無二のレイアウトですが、超低回転に割り切ったトルクの塊のような弾ける加速がすごく楽しい。というか、街乗りではかなり速いです。そして、クルーズしているときのまったりとした鼓動感とともに左右に突き出したシリンダーから漂ってくる生暖かい空気。まるで生き物のような感触が伝わってくるのです。
フィンの造形美やサウンドも魅力
空冷エンジンの良さは、なんといっても見た目が美しいこと。のっぺりした水冷エンジンと違って空冷にはたくさんのフィンが付いています。そのフィンにもいろいろな形状があって、昔のZ系などはフィンが幅広で分厚くて無骨な雰囲気だったり、CB750FOURは薄いフィンで密に覆われていたりして独特の表情を作っていたわけです。だから昔はバイクが分解されていても、エンジンだけ見ればだいたい機種が分かりました。特に旧い世代のライダーにとっては空冷エンジンの造形美は懐かしく、バイクらしさが残るエンジンとして人気が高かったりしますよね。
機械的なサウンドも魅力のひとつ。水冷のようにシリンダーの周囲にウォータージャケットを持たないため、燃焼にともなってピストンや動弁系が発する音やメカニカルノイズなども生々しく聞こえてきます。人によっては只うるさいだけかもしれませんが、バイク好きにはガチャガチャした機械の音がたまらないわけです。
シンプルさも空冷のメリットです。水冷エンジンには冷却水を循環させるためのポンプやウォータージャケット、冷却水を冷やすためのラジエターと電動ファン、それらを制御するサーモスタットなどの補器類も必要になってきます。つまり、高性能と引き換えにその複雑さ故に重量も増してコストもかかってしまうわけです。その点、空冷はそれらのデバイスが必要ありません。何せ風まかせの自然冷却ですから(笑)。その分、性能が不安定な面も否めなかったため、旧GSX-Rシリーズに採用された油冷エンジンなども登場したわけです。
気難しいヤツと付き合う楽しさも
話を戻して、そもそも空冷エンジンには何故フィンがあるのかというと、水冷のようにシリンダー周囲に冷却用のウォータージャケットを持たない代わりに、シリンダー表面に設けられたフィンを通じて空気中に放熱しています。フィンに直接風を当てることでエンジンを冷やしているため、渋滞路などでノロノロ運転を強いられたり、長時間アイドリングしたままだとオーバーヒートしやすくなるのはご周知のとおり。また、サーキットなどで全力走行を繰り返すとエンジンの発熱量に対して冷却が追い付かなくなり、パワーダウンしたり回転数が上がらなくなる、いわゆる“熱ダレ”症状が出たりします。
まあ、いろいろと気難しかったわけです。だから、昔の空冷大排気量マシンを本気で走らせるときは、オイルクーラーを増設したり油温計を後付けしてエンジンの温度管理を徹底する必要がありましたが、そうした手間のかかる「改造」も含めて空冷の楽しさだったと思います。最近は騒音や排ガスの問題もあって空冷エンジンの居場所はどんどん少なくなり、マイナーな存在になってしまったのは残念なことです。
ちなみに現代の空冷マシンは各種センサーやFIでコントロールされていて昔のような不具合はありませんが、それでもやはりあらためて空冷に乗ってみると水冷にはないエモーショナルな感動がたしかにありました。複雑な現代社会おいて、シンプルでミニマルという価値もあるのだと、空冷エンジンのフィンを眺めながらふと思った次第です。