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【ノーデン901エクスペディション海外試乗】アフリカの大地で試された冒険バイクの実力とは

佐川健太郎モーターサイクルジャーナリスト
Norden901Expedition 画像出典:ハスクバーナモーターサイクルズ

道なき道を「遠征」するためのバイク

ハスクバーナの新型アドベンチャーモデル「ノーデン901エクスペディション」の国際メディア試乗会に参加してきたのでレポートしたい。あまり馴染みのない方のために最初にハスクバーナについて説明しておこう。その起源は17世紀に始まる北欧スウェーデン王室御用達の銃器メーカーだったそうだが、20世紀に入ってモーターサイクルの製造を開始。主にモトクロスやエンデューロといった競技用オフロードモデルで名を馳せてきた(ちなみに業務用チェーンソーでも有名です)。

2013年からは同じくオフロードバイクで有名なKTMグループ傘下となり、個性的なストリートモデルを次々に世に送り出している。近年はダカールラリーで上位入賞を果たすなど知名度もうなぎ上りだ。そして、2021年ハスクバーナ初のアドベンチャーモデルとして「ノーデン901」をリリース。これをベースにオフロード走破力と長距離ツーリング性能をさらに高めたのが「ノーデン901エクスペディション」である。

エクスペディション(Expedition=遠征)のサブネームが与えられたことからも分かるように、道なき道をどこまでも走破するための装備が一段と強化されている。サスペンションはストローク量を伸ばしたWP製ハイスペック仕様とし、新たに大型スクリーンやエンジンを保護するアルミ製ガードを装備。寒冷地対策のグリップ&シートヒーターやサイドバッグも標準装備された。また、4種類のライディングモードやコーナリング対応のABS&トラクションコントロール、クイックシフターやクルーズコントロール、MSR(エンブレ調整)などの電子制御に加え、新たにコネクティビティ機能を搭載するなど、まさに隙なしの冒険ツアラーへとその「旅力」を引き上げたのだ。

ワインディングも楽しめる快適でスポーティな走り

国際メディア試乗会の舞台となったのは南アフリカ・ケープタウン。テント泊を含む3日間のローンチではエクスペディションの世界観を堪能できるワイルドな“遠征”が用意されていた。見た目は従来のノーデン901に比べて車高が高くなりガード類も付いて一層ラリーマシン風になっている。エンジンはKTM890アドベンチャー系の水冷並列2気筒899ccから最高出力105psを発揮。これはスタンダードのノーデン901と共通スペックで、75度位相クランクが持つVツイン的な歯切れのよい鼓動感と路面を蹴り出すトラクション性能の良さが際立っている。軽いクラッチ操作による発進のしやすさ、左右に振り分けられた低重心タンクによる極低速(歩くような速度)での安定感も同様だ。

市街地を抜け郊外へ向かう。低中速トルクにパンチがあって高回転までスムーズに吹け上がるパワーは流れの速い海外の高速道路でも必要十分なレベル。大型化されたウインドシールドは上体を起こしていても快適で、アップ&ダウン対応のクイックシフターも節度感があり短いストロークで正確に入るので気持ちいい。ハンドリングも軽快かつ安定感があり、大径スポークホイールと延長されたWP製サスペンションによるしなやかな乗り味はオンロードでも秀逸。ちなみに標準タイヤのスコーピオンラリーSTRはオンもオフも走れるデュアルパーパス仕様なのだが、接地感が豊富で高速ワインディングでも気持ち良く車体を傾けて走ることができた。

高性能サスと電子制御が上手く走らせてくれる

舗装路の果てには広大なダートが待ち構えている。はやる心を抑えてモードを「ストリート」から「オフロード」に切り替える。これでスロットルレスポンスは穏やかに、ABSも不整地向けに最適化(リア側は解除)され走りやすくなる。ダートでは不等間隔爆発による小気味よい鼓動とともにダート路面をしっかりと掴むトラクションの良さがさらに発揮される。オフロードモードではABSだけでなくトラコン介入度も制限されるので、フラットダートであればスロットルの加減で後輪を軽くスライドさせる走りも簡単にできてしまう。ミドルクラスならではの軽さと扱いやすさもあるが、最新の電子制御の威力には甚だ舌を巻く。

今回の国際メディア試乗会ではイギリス、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドなど英連邦を中心とした多国籍チームと遠征を共にした。
今回の国際メディア試乗会ではイギリス、アメリカ、オーストラリア、ニュージーランドなど英連邦を中心とした多国籍チームと遠征を共にした。

ダカールラリー5回優勝のフランスの英雄、シリル・デプレがゲスト参加。丸2日間我々と一緒に走ってくれるというサプライズも。
ダカールラリー5回優勝のフランスの英雄、シリル・デプレがゲスト参加。丸2日間我々と一緒に走ってくれるというサプライズも。

さらに進んでいくと山の中の林道になり、路面は荒れて大小の石が転がるガレ場となっていく。そこで本領を発揮してくれたのが新たに装備されたWP製XPLORサスペンションだ。従来のノーデン901がどちらかというオンロード向けのサスペンションだったのに対し、エクスペディションはオフロード向けの仕様になっている。前後ともストローク量は大幅に増えて(前後240mmもある)路面の凹凸をスムーズに吸収してくれるのだ。突然目の前に大きなギャップが現れて「うわっ」となっても、バイクを信じてスロットルを開ければサスペンションが何とかしてくれる安心感がある。ちなみに飛び石が数回ヒットしたが、頑丈なアルミ製アンダーガードが大事なエンジンと自分の足を守ってくれた。

そして極めつけは「エクスプローラー」モード。KTMにおけるラリーモード同様のシステムでトラコンレベル(9段階)やスロットルレスポンス(3段階)を細かく設定できる。しかも走行中でも左手スイッチで簡単に調整できるので路面の変化に即応できる優れものだ。たとえば、スタックしそうな砂地やヌタヌタ路面なら素早くトラコンレベルを下げてパワーを維持したまま駆け抜けたり、スロットルレベルを最強にセットすることで瞬発的にフロントを軽くしてギャップを乗り越えたりもできる。昔であればベテランライダーでないと難しいテクニックを電子デバイスが補佐してくれるわけだ。

これらの電子制御のプログラムについては豊富なラリー参戦から得られた知見とノウハウがフィードバックされているとのこと。まさにラリーを知り尽くしたKTMグループの強みと言えよう。まさにリアルな冒険の旅へと誘ってくれるバイクなのだ。

Photo:Husqvarna Motorcycles/Marco Campelli/Sebas Romero

モーターサイクルジャーナリスト

63年東京生まれ。早稲田大学教育学部卒業後、RECRUITグループ、販促コンサルタント会社を経て独立。趣味が高じてモータージャーナルの世界へ。編集者を経て現在はジャーナリストとして2輪専門誌やWEBメディアで活躍する傍ら、「ライディングアカデミー東京」校長を務めるなど、セーフティライディングの普及にも注力。㈱モト・マニアックス代表。「Webikeバイクニュース」編集長。日本交通心理学会員 交通心理士。MFJ認定インストラクター。

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