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クロノジェネシスら日本馬12頭が出走するドバイワールドCデー展望

平松さとしライター、フォトグラファー、リポーター、解説者
ドバイシーマCでは1番人気に支持されそうなクロノジェネシスと北村友一騎手

2年ぶりのドバイワールドCミーティング

 現地時間27日、日本時間同日夜から翌28日にかけてドバイワールドカップデーの開催される。

 今年、アラブ首長国連邦のドバイ、メイダン競馬場入りした日本馬は全部で12頭。日本では4つのレースが馬券発売され、そこには8頭の日本馬が出走する。今回はその4競走に出走する日本馬以外の馬を簡単に紹介していこう。

ドバイゴールデンシャヒーン展望

 まずはダート1200メートルが舞台となるドバイゴールデンシャヒーン(GⅠ)。日本からはコパノキッキング(せん6歳、栗東・村山明厩舎)、ジャスティン(牡5歳、栗東・矢作芳人厩舎)、マテラスカイ(牡7歳、栗東・森秀行厩舎)、レッドルゼル(牡5歳、栗東・安田隆行厩舎)が出走。以前はこのカテゴリーでの日本馬は期待薄だったが、今年は大挙4頭が名を連ねた事もあり、期待が持てそうだ。

サウジアラビアでは出遅れが響いたジャスティン。巻き返しを期待したい
サウジアラビアでは出遅れが響いたジャスティン。巻き返しを期待したい

 とはいえ、やはりダート王国アメリカの馬は軽視禁物。中でもヤウポンは前走のブリーダーズCスプリント(GⅠ)で1番人気に推された馬。結果は8着に沈んだがこれは直線で挟まれたり弾かれたりといった不利を再三受けたためで参考外の1戦と言って良い。テンの速い馬だけに巻き返しておかしくないだろう。

 同じアメリカ馬ではワイルドマンジャックが未知数。元々芝路線を走っていたのだが、前走でダートのGⅢを使ったらいきなり突き抜けて楽勝。ただし破った相手の中に重賞級だったのはキャプテンスコッティくらいしかいなかった。また、手前を変えるのがあまりうまくなくモタつく場面がある点も気掛かり。

 地元組もなかなか手強い。前哨戦のマハブアルシマール(GⅢ)で末脚を炸裂。ゴール寸前で差し切ったのがキャンヴァスト。元々イギリスでクイーンアンSトライアルに出走したほどの素質馬。もう一丁があっても不思議ではない。

 この馬を相手にゴール直前まで粘っていたのがグッドエフォート。こちらは元来オールウェザーの鬼だったが、ダートでもハイペースで飛ばして3着以下は完封したと言って良い内容。当時初騎乗だったデットーリが再び乗るので侮れない。

 また、同レースで4着だったのがプレミアスター。正直前走では先述の1、2着馬に完敗だが、転厩初戦でドバイも初めてだった事を考慮すると一発逆転があるかも知れない。

 日本勢もノーチャンスとは言わないので期待はするが、勝ち切るには二重三重の壁を乗り越えなくてはならないだろう。

サウジアラビアではワンツーを決めたコパノキッキング(2番)とマテラスカイ(6番)。再度の好走を願いたいところだが……
サウジアラビアではワンツーを決めたコパノキッキング(2番)とマテラスカイ(6番)。再度の好走を願いたいところだが……

ドバイターフ展望

 続いて芝1800メートルのドバイターフ(GⅠ)。過去にはリアルスティールがここで自身初のGⅠ制覇を成し遂げたが、近年だけでもヴィブロスやアーモンドアイらが優勝。視野を広げるとエイシンヒカリが香港やフランスで優勝したのも中距離戦だし、ウインブライトや古くはシャドウゲイトなど、いずれも日本でGⅠを勝っていない馬でも海外で大仕事を成し遂げられるのが中距離戦。このカテゴリーは日本馬が最も得意とする舞台と言えるだろう。それだけに今年出走する唯一の日本馬ヴァンドギャルド(牡5歳、栗東・藤原英昭厩舎)も大駆けがあるか……。

日本でGⅠ勝ちのないヴァンドギャルドはどこまで通用するか?!
日本でGⅠ勝ちのないヴァンドギャルドはどこまで通用するか?!

 とはいえ外国勢も一筋縄ではいかない面子が揃った。中でも注目はロードノース。ロイヤルアスコットのメイン、プリンスオブウェールズ S(GⅠ)を圧勝。その際、負かした相手がアデイブ、バーニーロイ、ジャパンといった錚々たるメンバー。更に遡るとその前にもエラーカムに楽勝の星があり、潜在能力は相当。去勢しているように難しい面があるのか、時に凡走もあるが、近走ではガイヤース、アデイブ、タルナワにマジカルら戦ってきた相手の格が他とは桁違い。まともに力を発揮出来れば一枚も二枚も上の可能性がある。

 前哨戦のジェベルハッタ(GⅠ)の1、2着がロードグリッターズとエクティラーン。前者は一昨年のこのレースでアーモンドアイ、ヴィブロスに続く3着。その後、クイーンアンS(GⅠ)を優勝した。前走は直線半ばでも届かない?!と思える位置から電光一閃の脚で差し切ってみせた。

 また、後者は一旦4番手まで沈みかけながらも最後に差し返しての連対確保。この手のしぶとさは軽視禁物だ。3着のアルスハイルもぶっち切りの前々走が強かっただけに不気味な存在だ。

イギリスの厩舎でのロードグリッターズ。コロナ禍前に撮影
イギリスの厩舎でのロードグリッターズ。コロナ禍前に撮影

ドバイシーマC展望

 芝の2410メートルで行われるのがドバイシーマクラシック(GⅠ)。昨年の春秋グランプリを制したクロノジェネシス(牝5歳、栗東・齋藤崇史厩舎)と一昨年のオークス馬で前走の京都記念(GⅡ)はそれ以来となる復活の勝利を挙げたラヴズオンリーユー(牝5歳、栗東・矢作芳人厩舎)が出走する。

19年のオークスは1着ラヴズオンリーユー(13番橙帽)で3着クロノジェネシス(2番白帽)だった。今回は共にドバイシーマCに挑戦する
19年のオークスは1着ラヴズオンリーユー(13番橙帽)で3着クロノジェネシス(2番白帽)だった。今回は共にドバイシーマCに挑戦する

 前者はレイティングも1位で、現在の充実ぶりをみると日本のマーケットなら1番人気が予想され、実際好勝負は出来るだろう。しかしこのレースでドゥラメンテがポストポンドに負けたようにこのカテゴリーはヨーロッパ勢が強いのも事実。凱旋門賞(GⅠ)やキングジョージⅥ世&クイーンエリザベスS(GⅠ)で日本馬がなかなか勝てない理由として馬場の違いを強調する人は多いが、同じ競馬場でも実績を残している非ヨーロッパの馬は多数いる。例えばオーストラリアのショワジールやブラックキャビア、香港のリトルブリッジ、アメリカのテピンや日本のアグネスワールドにエイシンヒカリ他、多くの非欧州馬がいずれも馬場を克服している。彼等に共通するのは距離が2400メートル路線でない点。

2400メートル路線でなければ多くの非欧州馬がヨーロッパでも勝利出来ている。2016年のイスパーン賞を10馬身ぶっち切ったエイシンヒカリも同様だ
2400メートル路線でなければ多くの非欧州馬がヨーロッパでも勝利出来ている。2016年のイスパーン賞を10馬身ぶっち切ったエイシンヒカリも同様だ

 逆もまた然りで、欧州勢が北米やオーストラリアに遠征して勝つケースはその多くが2400メートル路線。欧州ほど深くなく比較するとスピードの要求される馬場ではあるが、2400メートル戦線なら馬場にかかわらず好走する。つまりは馬場の適正云々よりもレベルの問題が大きいのだと思う。

 そう考えれば凱旋門賞で3位入線以内に善戦出来た日本馬がエルコンドルパサー、ディープインパクト(後に失格だが)、オルフェーヴルといったトップクラスの名が並ぶのも頷ける。競馬なので100%データに収まるわけではなく、ナカヤマフェスタのような例はあるが、他はいずれもその時代の日本のトップホースといって過言でない馬ばかりなのだ。

2012年の凱旋門賞で惜敗したオルフェーヴル(奥の赤帽)。一連の凱旋門賞での日本馬のパフォーマンスをみても馬場適性を重視し過ぎるのは危険。やはり問題は能力だろう
2012年の凱旋門賞で惜敗したオルフェーヴル(奥の赤帽)。一連の凱旋門賞での日本馬のパフォーマンスをみても馬場適性を重視し過ぎるのは危険。やはり問題は能力だろう

 閑話休題。日本の実績だけを見るとクロノジェネシス、ラヴズオンリーユー級なら飛びつきたくなるのも分かるが、そう考えると簡単に手を出し辛いところ。そこで怖いのはなんと言ってもモーグルだろう。昨年のパリ大賞(GⅠ)は例年のニエル賞にあたる位置で行われたが、ここを楽勝。その後、厩舎の飼料に禁止薬物が混入した可能性があるという事件に巻き込まれ凱旋門賞に出走出来なかったが、そのフランス最大のレースではパリ大賞で完膚なきまでに負かしたインスウープとゴールドトリップが2、4着。小回り大外枠だったブリーダーズCターフ(GⅠ)こそ5着に敗れたが、前走の香港ヴァーズ(GⅠ)では答え一発。この距離なら香港最強と言って良いエグザルタントをぶっち切って優勝してみせた。

 この馬が持っている力をしっかりと発揮出来たら、たとえ日本の2強牝馬でも負かすのは容易ではないだろう。

 また、同じ舞台で2戦連続好時計勝ちのウォルトンストリート、その2着だったドバイフューチャーらも侮れない。他ではダートのサウジCを勝って駒を進めてきたミシュリフは初めてとなるこの距離が課題。アメリカのこの路線のトップホースであるチャンネルメイカーだが、これも欧州のトップクラスに混ざると割り引きが必要だろう。

サウジCを制したミシュリフは仏ダービー馬でもある
サウジCを制したミシュリフは仏ダービー馬でもある

ドバイワールドC展望

 メインのドバイワールドC(GⅠ)はダートの2000メートル戦。チュウワウィザード(牡6歳、栗東・大久保龍志厩舎)が挑戦するが、過去のデータを見る限りこの分野での日本馬は苦戦の傾向にある。例年に比べ今年は小粒なメンバー構成にはなり、レイティングなら出走馬中トップではあるが、それでも勝ち負けに絡むのは正直、厳しいかとみている。

過去のデータ的には厳しいと言わざるを得ないチュウワウィザードだが……
過去のデータ的には厳しいと言わざるを得ないチュウワウィザードだが……

 一方、例年、好走するのは北米のGⅠ馬だが、今年は該当する馬がいない。そこでGⅠ2着馬のヘスースチームに注目。前走のペガサスWC(GⅠ)がニックスゴーの2着。前々走は完勝しており、3走前がブリーダーズCダートマイル(GⅠ)でまたニックスゴーの2着。1800メートル以下のレースではどうも距離不足と感じさせる競馬ぶりをするだけに、2000メートルで更なる前進がありそうだ。

 また、同じ北米ダート界からはミスティックガイドも注意が必要。レイザーバックH(GⅢ)は6馬身ぶっち切りの勝利。先出のヘスースチームを直接対決で破った星もあるが、テンの脚がないのでその点は気掛かり。

 他では前哨戦組のサルートザソルジャー、ハイポセティカル、ザグレートコレクション。展開次第にはなるが地元のキャッペッザーノ、ミリタリーローらも一考が必要か。

 いずれにしろ2年ぶりのドバイでの熱戦が好勝負となる事を期待したい。

今年のミーティングはアーモンドアイがドバイターフを制した2019年以来となる
今年のミーティングはアーモンドアイがドバイターフを制した2019年以来となる

(文中敬称略、写真撮影=平松さとし)

ライター、フォトグラファー、リポーター、解説者

競馬専門紙を経て現在はフリー。国内の競馬場やトレセンは勿論、海外の取材も精力的に行ない、98年に日本馬として初めて海外GⅠを制したシーキングザパールを始め、ほとんどの日本馬の海外GⅠ勝利に立ち会う。 武豊、C・ルメール、藤沢和雄ら多くの関係者とも懇意にしており、テレビでのリポートや解説の他、雑誌や新聞はNumber、共同通信、日本経済新聞、月刊優駿、スポーツニッポン、東京スポーツ、週刊競馬ブック等多くに寄稿。 テレビは「平松さとしの海外挑戦こぼれ話」他、著書も「栄光のジョッキー列伝」「凱旋門賞に挑んだ日本の名馬たち」「世界を制した日本の名馬たち」他多数。

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