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「見たこともないゴキブリ」に震え上がる北朝鮮女性の“強い味方”

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
2016年に集団脱北した北朝鮮レストランの従業員(民族時報)

 国連安全保障理事会で2017年12月22日に採択された制裁決議2397号は、すべての国連加盟国に北朝鮮労働者の新規雇用を禁じ、すでに派遣されていた労働者についても2019年12月22日までに送り返すことを義務付けた。しかし、技能実習制度などを悪用する形で、中国に10万人、ロシアに2万人の労働者が派遣されていると伝えられている。

 3年から5年にわたるつらい労働に耐えぬいた労働者は、多くの土産物を携えて帰国する。特に中国の場合、派遣されている労働者はアパレル系や北朝鮮レストランの従業員など女性の割合が高いのだが、いま彼女らの間でお土産用として人気になっている商品があると、米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)が報じた。

(参考記事:美貌の北朝鮮ウェイトレス、ネットで人気爆発

 中国の丹東で商店を営む情報筋によると、今の売れ筋商品はスプレー式の殺虫剤だという。今月10日に店にやってきた北朝鮮女性たちはぬいぐるみ、バッグ、手袋、靴などを購入したが、全員が殺虫剤30本入りを1箱以上買ったとのことだ。

 殺虫剤は1本10元(約200円)から20元(約400円)で、10本以上買うと半額になる。北朝鮮での需要が高く、お土産として非常に人気だとのことだ。

 北朝鮮当局は昨年9月から、中国から帰国する北朝鮮女性が持ち込める品物の品目と数を制限しているが、殺虫剤は除外されている。

 平安北道(ピョンアンブクト)の情報筋は、年末年始を控え、中国で働いていた女性たちが次々に帰国しているが、お土産として持ってくるのは殺虫剤だという。

 情報筋も、丹東から帰ってきた新義州(シニジュ)被服工場の従業員からスプレー式の殺虫剤をもらったとのことだ。青色のとてもきれいな缶で、床下に撒くと害虫を一網打尽にできて、とても評判がいい。

 この害虫とはゴキブリのことだが、かつての朝鮮半島ではほとんどいなかったと言われている。しかし、貨物船に紛れてやって来たものが、地球温暖化やヒートアイランド現象などによって冬も生き残り、定着するようになった。また、最近の北朝鮮では、石油コンロを使う家が多くなり、冬でも室内が暖かく湿度が高いため、非常に増えたというのが情報筋の説明だ。

 北朝鮮女性の多くは、「こんな生き物見たこともない」と言って震え上がっているという。

 コロナ前には、チョークのような形状で床に塗りつけるものや、液体の殺虫剤が売られていた。いずれも個人の業者が製造したものだが、原料をケチっていたため、さほど効果はよくなかった。

 その原料は、中国からの輸入に頼っていたが、2020年1月に当局が国境を封鎖してしまい、貿易が完全にストップしたため、国内での製造ができなくなっていた。その影響は国境が開いた今も続いており、供給が需要に追いついていない。それで、中国からのお土産に殺虫剤が喜ばれるのだ。

「パッケージもきれいで、効果がよく、ちょっとした贈り物にいい」(情報筋)

 一方、殺虫剤人気の裏には、北朝鮮の労働者海外派遣における人権侵害がある。

 中国企業は北朝鮮労働者を管理する貿易会社に1人あたり1ヶ月3000元(約6万円)を支払っているが、多くをピンハネされ、労働者が受け取るのは500元(約1万円)だ。生活費を引くと、5年間働いても手元に残るのは2万元(約40万円)に過ぎないのだ。

 北朝鮮で普通に働く限り、絶対に手にすることのない額ではあるが、8割以上のピンハネは、決して許されるものではない。労働者から搾取されたカネは、国の予算として使われる。核兵器やミサイルの開発に使われていても何らおかしくない。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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