「世界にとってのEV実験国」ノルウェー 環境会議で盛り上がる車や船の電動化
10月31日と11月1日、ノルウェーの首都オスロでは欧州北部で最も規模の大きいゼロ・エミッション会議とされる「ゼロ会議」が開催された。
世界各国から120人以上のスピーカー、各国の政治家や産業関係者など1300人が集まる。参加費用は1日5万円以上するが、毎年人気の「気候変動やエネルギー政策オタクの集まり」ともされている。
ノルウェーからは閣僚や政党党首も足を運び、各社が自身の商品開発を宣伝する。政府の政策に影響を与えようとするロビー活動の場・最新トレンドの勉強会ともなっている。
話題が集まったのは、石油・天然ガス産業からの収入に依存し、化石燃料と関係が絶ち切れずにいるノルウェー。「オイルでお金持ちの国」としての顔を持ちながら、同時に電気自動車EVなどに力を入れる「グリーンな国」というダブルモラルは、会場でも話題となる。
ノルウェーではこの話は国内では常に議論されている。ノルウェー人にとっては、むずむずと心地の悪い話題かもしれないが、同時に「なんとかしなければいけない」という意識があることも会場では伝わってくる。
車や船の電動化に積極的な取り組みをPRするノルウェー。今後、「中国」という市場が欧州にとってどれだけ大事な顧客になるかも伝わってきた。
回り切れないほどの数々のセミナーの中で、EVのテーマでは会場全体からポジティブなエネルギーが溢れていた。
EV先進国としての自覚と責任
「ノルウェーは世界各国にとってのEVのラボラトリー」であることを、この国は自覚している。
他国にとっての見本になれるようにという責任感で、「ノルウェーができなかったら、他の国もあきらめてしまう」という思いもある。そのため、他国にとっては理想が高すぎるのではと思えてしまう高い目標数値をあげ、達成しようと市場全体で頑張ろうとする傾向にある。
筆者はEV関連の現場をよく訪問する。日本を含め国外からの企業視察やメディア訪問が多いことは、彼らにとって誇りであり、モチベーションのひとつとなっているようだ。
世界の最新経済ニュースなどを届けるブルームバーグの運輸担当者であるColin Mckerracher氏は、「どこの国もノルウェーのようにできるわけではないが、明確な目標は市場に大きな影響を与える。目標を実現するには5~7年はかかるから。全ての目標が現実的とはいえないが、ノルウェーから学べることは多い」とセミナーで話す。
同氏は、石油価格の下落はEV市場には大きな影響はもたらさないだろうが、EUや中国での政策転換による影響は大きい、という話などをした。
ノルウェー政府による優遇政策は続くか?
ノルウェーでEVがここまで浸透している理由には、政府による様々な優遇政策がある。EVは減税され、道路や駐車場利用でも免除対象となる。
優遇されるEV運転者に、イライラするディーゼルやガソリン車の運転者たちの存在は、「EVが嫌いな人々」とノルウェーでは笑いのネタになっている。
だが、一方で、ノルウェーでは市民の間でこのような「噂」が定着している。「どうせ、EVの優遇政策はいずれなくなるんでしょう?」。
高い税金と石油資源からの収入により、財布に余裕があるノルウェーでは、政府がどれだけのお金を各方面にばらまくかが毎年大きな注目を集める。
国家予算ではお金は使いすぎないほうが本来はいいのだが、「補助金はもらえて当たり前」とされる考えが浸透している社会民主主義の国なので、より多くのお金や割引をもらえたものが「勝者」。補助金が減らされ、より高い税金などを払ったりしなければいけないものが「敗者」として評価され、新聞などで大きな見出しを飾る。
2018年度の政府予算では全体的に補助金などのカットが目立ったが、EVは「敗者」に分類されている。来年度の予算案で、政府は一部の大型EVを対象に新たな税金を課税すると発表した。
「これをスタートに次々と増税となるのでは?」。今後EVの購入を考える人を警戒させる信号になってしまうと、各党や市場では議論となっている。
国会議員や政治家が多くいるゼロ会議では、「EVへの優遇政策は維持で!」という声があちらこちらのスピーカーから発せられた。国会での政策に影響を与えようと、市場は必死だ。
グリーン政策の課題
ノルウェーが今後解決すべき課題も話し合われた。国家の交通計画では、2025年までにはすべての一般自動車と軽貨物車はゼロエミッションにという目標があるが、2017年においては貨物車の新車の2%のみが電動化だそうだ。
EVは充電するまでにガソリン車やディーゼル車の2~4倍の時間がかかること、カーシェアリングができる公共の場所がノルウェーにはあまりにも少なすぎることなどもあげられた。
首都オスロではすでに新車購入の44%がEVかプラグインハイドブリッドカー。2018年度の自治体予算では8000以上の新たな充電スポット増設が予定されている。
バス、船、ゴミ収集車も全部ゼロエミッション!
ノルウェーでは「一般自動車」の電気化は進んでいるが、今は公共交通機関、タクシー、貨物車、工事現場の乗り物の電動化、フェリーがとまる海域での排出ガス減少などでも前進しようとしている。
北欧の中でも、ノルウェーは隣国で兄弟のような存在のスウェーデンには「負けたくない」という思いがある。ゼロエミッションにおいて「スウェーデンはどうしてノルウェーより前進しているのか」という議論もあった。
ゼロ会議で受けた印象は、企業などはゼロエミッションに向けた技術や対策案がすでに用意できているということだった。それを採用して、これまでの政策に大きな舵をとれるかは政治家たちの判断となる。
ノルウェーはEV先進国として先を進め続けられるか。政治家と市場の駆け引きは続く。
Photo&Text: Asaki Abumi