今、美容師の世界で何が起きているのか。コロナ禍で考える美容師の「はたらく」とは。
新型コロナウイルスの影響による休業要請から美容室や理容室が除外されたことが話題になったことで、特に美容室や理容室が生活の中に当たり前に溶け込んでいる「必要」な仕事だということに気付いた人は多い。また少し前には都立高校の校則に関して教育長がおこなった「髪型をツーブロックにすると事件や事故に遭う」という謎の答弁が波紋を呼び、SNSはいわゆるバズった状態となり、ここでも美容師が注目された。
今回はそんな美容師の世界はWith|Afterコロナで“はたらく”がどう変わっていくのか?について注目してみたい。
カリスマ美容師ブームと木村拓哉さんが美容師の世界を変えた
かつて美容師は「きつい」「帰れない」「給料が安い」という、ネガティブイメージの3K職業だった。ところが、カリスマ美容師ブームや木村拓哉さんが演じた名作ドラマ『Beautiful Life(ビューティフルライフ)』の影響もあってか、美容師はバブル並に人気が爆発した2000年を機に今では美容師は「かっこいい」「綺麗」「感謝される」というポジティブイメージの職業に変化しているようだ。
また、美容師になるためには国家試験を受け、国家資格である「美容師免許」が必要という点も安定志向が強くなる世代からすれば人気を後押ししている。「第41回美容師国家試験」の合格発表2020年3月31日では受験者数17,288人(合格者数14,709人)と美容師を目指す人の多さが見て取れる。
コロナ禍で変わる美容師の世界
今回、美容師の“はたらく”リアルについて話を聞かせてくれたのは、横浜の元町(横浜らしく異国情緒あふれる街並みの中にあるおしゃれなお店が軒を連ねる元町ショッピングストリート)エリアにある美容院『KINGDOM横浜・元町店』に勤める中村 駿士さん(様々なカットコンテストに参加し、優勝、入賞を経験しYOKOHAMA CHALLENGE STREET カットモデル部門で優勝、横浜市長賞も受賞している)。
中村さんは美容師歴10年に加えて、休日を上手く活用しながら横浜発祥の文化(西洋理容)を残すために横浜市が運営している教育機関であり、全国唯一の公立美容専門学校(横浜市立横浜商業高等学校別科美容科)にて非常勤講師を務める、いわば二刀流を実現しており新時代だからこそ「美容師の在り方」に独自の考えがあるようだ。
ちなみに、二刀流を選択している背景には、その美容専門学校があったからこそ今、自分が美容師をできているという「恩返し」と「これからの美容業界の発展」の為に非常勤講師をしているとのこと。
改めて顧客対応の本質について考えた半年
――コロナ禍で業界にどのような変化があった?
「新型コロナウイルスの影響で顧客が遠のく中、我々が最も不安だったのは政府からの休業要請。結果、美容室や理容室が除外されましたが、諸々の懸念で営業を停止するお店もあれば、継続するお店もあり顧客の混乱が起きたのは事実。その中で改めて生活の中で美容室や理容室が欠かせない存在であることに気付かされました。また、美容師は国家資格であり厚生労働省・保健所からの許可を受けて営業をしている。つまり公衆衛生に属するサービス業であり、国家試験の学科では「感染症」や「消毒法」についても学びます。つまり医者や、看護師には及ばないものの美容師は今、新型コロナウイルス関連で流れているニュースなどの専門用語に関しても、ある程度知識を持っています。そういったことも踏まえて美容師という職業の価値が上がっていると思うし、国からも、世の中からも必要とされている職種であることに誇りを感じることができた」
――業界に与えたインパクトは?
「新型コロナウイルスの感染拡大が収まるまで1ヵ月以上様子を見ることで経営悪化したという側面も当然あるものの、顧客がその間に他店に流れてしまったことで今後の業績に大きく影響するという側面の方が問題としては大きいように感じる。実際にここ最近は新規のお客様も増えているので、コロナ禍がきっかけとなり顧客の選択の幅が広がったように感じています。」
――コロナ禍で何を学んだ?
「3月頃からご来店されなかったお客様が最近になって来店してくださる、つまり他店に流れずにしばらくの間辛抱していたというケースが増えている点から、普段からのお客様との関係構築がやはり大切で大きな価値なんだと当たり前なことですが、痛感しました。遠方からの場合、コロナ禍なのでわざわざ横浜の元町まで来なくもても近所で済ませることもできたはず。そんなことを考えると接客の在り方について今一度考えるきっかけになりました。美容学校でこれから美容師を目指す若者に指導をしている立場もあるので、今回の学びはしっかり伝えていきたいと思います」
10年で変化した美容師マーケット
――そもそも美容師の世界は今、どのような環境?
「ひと昔のネガティブな職業イメージからカリスマ美容師ブームにドラマの後押しもあって憧れの職業に変わって、この10年ではイメージはポジティブに安定しています。働く環境という視点ではイメージしやすく、資格ビジネスでもあるので安定して見えるのだと思います」
――この10年で感じる美容師の世界での変化は?
「ひとつは経営です。皆さんのイメージではカリスマ美容師や長く美容師を経験したベテランが美容室の経営を行っているように見えていると思います。確かにそれは事実で、これまではそのような文化もありました。ところが、ここ10年で美容師の経験がない、いわゆる経営者が業界に参入をして美容室を経営して成功しているケースが増えているのです。その結果、広告や店舗運営にも新しいカタチが生まれているように感じます。そして、もうひとつはフリーランスの若手美容師が増えていることです。新卒でどこにも所属せず、フリーランスでカットをしているケースも実際にはあります」
SNS活用が当たり前に?
――美容師の世界でのトレンドを教えて下さい。
「美容業界に限らず顧客を集めることにSNSを利用するのは当たり前の世界になっています。特に美容師の世界では人気のスタイリストはSNSを通して自分のファンを獲得します。またYouTubeなどのライブ配信もトレンドです」
――この先もデジタルツールの活用は必須?
「間違いなく、この先もデジタルツールの活用は進化します。すべての美容師が経験するカットモデル探しはアナログで本当に苦労するものですが、ここ最近はカットモデルを探すアプリが登場しています。また、LINEで髪の毛に関する疑問や悩みの相談を受けたり、Instagramで美容師の日常、やりがい・楽しさを発信したりとツール活用の目的も多様化しています」
美容師の世界も新時代に
――コロナ禍で美容師を目指す若者について感じることは?
「美容師を目指す若者が増えていることは嬉しく思います。業界的に経営が変化している中で美容室が増え、美容師の需要は一定あるのでチャンスはまだまだあると思います。もともと業界全体で経営や働き方の分岐点とも言えるタイミングで新型コロナウイルスが出現したので、まさに新時代に移り変わるタイミングだからこそ、若者が自分で選択できる幅は広がったと思います。その選択をどう判断するかは逆に難易度は高まっているかもしれません」
――新時代だからこその美容師のやりがいとは?
「美容師を目指すきっかけは、本当に人それぞれなのが“美容師あるある“かもしれません。ただ、そのきっかけとやりがいがリンクするケースが多いです。初めて美容室でカットしてもらった時の感動を今与えている、人を美しくしている、人の気持ちをポジティブに変えるなど結構身近にある感情に触れることが多いです」
――10年プレイヤーの中村さんのやりがいは?
「あえて言うなら“出会い”だと思います。普段の生活では絶対に出会えないような人、自分の知らない世界で仕事をしている人に出会えることで自分の視野が広がる、知識や情報が蓄積できる。それはやりがいであり、自分の力にもなっていると思います。またKINGDOMでは『出会いの場』でヘアデザインを通じて沢山の方に出会えることがコンセプトでもあるので在籍10年の経験でそれを強く感じられている点もモチベーションになっています。一方で会社の柔軟な判断もあってやりたかった美容学校での指導もできているので、そこでは教育という視点でのやりがいもあると思います」
経営も個人の価値も変わる時代だからこそ
美容師の世界はSNSの台頭もあって「憧れ」から「選ばれる」ことが価値になっているようだ。つまり美容師「個人」が選ばれる時代になっているということだ。これはコロナ禍のビジネスや就職活動でも同じ現象が起きている。
With|Afterコロナは、これまで日本にあった年功序列や終身雇用という安定的な世の中ではなくなる。どんな組織でもよりVUCA時代の生き方に強烈にシフトする。そしてそこで働く、生きる人は「どんな価値がある人なのか」がすべてになるだろう。
自分がやりたい仕事を選択する前に、会社や世の中から求められる「価値」を備えることがこれから社会人として生き抜く、キャリアを生き続けるために必要になる。その為の努力や学びが必要になることも間違いない。
これからキャリアや就活を考える学生は、まずは身近な業界、職業からそのリアルや裏側にある価値観などを探ってみることをお勧めしたい。
自己分析就活のように過去の自分で未来を描くアプローチではなく、まずは社会・ビジネスのリアルな知識・情報を集めること。それが蓄積されると自然と視野や価値観が広がり、現実的な視点で未来を描けるようになるでしょう。
はたらくを楽しもう。
【取材をご協力頂いた美容院】