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対中包囲網・石破案「アジア版NATO」をASEAN諸国がどう見たかを中国が分析

遠藤誉中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士
就任会見の時の石破首相(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 中国共産党機関紙「人民日報」の姉妹版「環球時報」や青年版「中国青年報」が一斉に「アジア版NATO」に対するASEAN諸国の反応を報道した。石破・李強会談を経て、自信を強めたという勢いが読み取れる。二紙の考察と中国ネット民の雑感を紹介する。

◆環球時報社評:「アジア版NATO」がASEANで壁にぶつかった事実は何を物語るのか?

 10月12日、環球時報は<“亚洲版北约”在东盟碰壁说明什么>(「アジア版NATO」がASEANで壁にぶつかった事実は何を物語るのか)という見出しで社評を発表している。かなり長いので、概略を個条書き的に拾うと以下のようになる。

 ●10日に開催された第27回中国・ASEAN(10+1)首脳会議では、中国・ASEAN自由貿易地域バージョン3.0の格上げ交渉が実質的に妥結したことを発表した。 これは、中国とASEANが共同で東アジアの経済統合を主導する大きな動きであり、多国間主義と自由貿易を支持する双方の明確な態度を示し、安定・協力・発展の追求こそが中国・ASEAN地域の揺るぎない主流であることを改めて証明した。  

 ●ハイレベル会合の前に、米国、日本などはブロック対立と地政学的対立を会議に持ち込む準備をしていたようだが、会議は明らかに冷たい壁でそれを阻んだ。特に、日本の石破茂新首相が提唱したいわゆる「アジア版NATO」は、域内で強い抵抗に遭っている。

 ●マレーシアのハッサン外相は、「ASEANにNATOは必要ない」と単刀直入に述べた。インドネシアの英字新聞ジャカルタ・ポストは、「アジア版NATO」は中国に対抗することを狙っており、ASEAN10カ国にとって「極めて攻撃的」であると警告した。

 ●この大きな反発により、石破茂は会議で「アジア版NATO」に言及するという考えを断念せざるを得なくなったが、これは何を物語っているのだろうか。

 1.NATOや米国の一部の同盟国が自分たちに満足しているのとは異なり、それ以外の多くの国々の目には、ただ単に「紛争と戦争のメーカー」としてのイメージを強化しただけだ。特にASEAN諸国の世論から判断すると、NATOに対する嫌悪感と反感には言葉では言い表せないほど激しいものがある。

 .この地域の国々は、NATOモデルをアジア太平洋地域に持ち込むことに反対するだけでなく、NATOに代表される冷戦精神やブロック対立をアジア太平洋地域に持ち込むことにも反対し、中国を地政学的紛争の「仮想敵」とすることに反対している。

 .NATOの哲学は、アジア諸国のそれとは大きく異なる。NATOは西側陣営が支配する軍事同盟であり、アジア諸国は独立に焦点を当てている。NATOの目的は、軍事力によるいわゆる「抑止と防衛」を促進することだが、ほとんどのアジア諸国は平和を重んじ、開発を優先することに同意している。

 .NATOは外国の干渉に取り憑かれ、しばしば他国の主権と人権を踏みにじる一方で、多くのアジア諸国は近代において植民地化され侵略されるという悲劇的な経験をしており、地域諸国は外部からの干渉を心から深く嫌悪し平和共存を望んでいる。

 .NATOは、その存在を永続させるために共通の「敵」の確立に依存しており、昔は「ソ連」で現在は「ロシア」だ(アメリカは一極支配を維持するために「共通の敵」がいないと困る)。

 .アジアではそのような脅威は存在せず、「共通の敵」を中国に向ける試みは成功しない。中国は15年連続でASEANの最大の貿易相手国であり、ASEANも4年間中国の最大の貿易相手国であり続けている。

 7.中国とASEANはRCEPを完全かつ高品質で実施し、中国・ラオス鉄道とジャカルタ・バンドン高速鉄道は一帯一路構想の名刺となり、デジタル経済やグリーン経済などの新興産業での協力が強力な推進力を与えている。

 ●シンガポールのYusof Ishak研究所の東南アジア研究センターが4月に発表した調査によると、ASEAN諸国は米国よりも中国に対して良い評価を与えている。日経アジアンレビューも、フィリピンでさえ、オブザーバーが「アジア版NATO」という考えを非現実的と見なしていることを認めている。一部の欧米メディアさえ「アジア版NATO」が適切だとは思っていない。

 ●石破首相本人はASEANでの李強首相との会談で、日中関係の着実かつ長期的な発展を促進することへの希望を表明している。(以上、環球時報社評より)

 環球時評社評の中で、最も注目を引いたのは「多くのアジア諸国は近代において植民地化され侵略されるという悲劇的な経験をしており、地域諸国は外部からの干渉を心から深く嫌悪し平和共存を望んでいる」という文言だった。

 岸田政権の時もバイデン大統領の言いなりになって、西側の現存のNATOの「アジア化」を形成しようと岸田元首相は努力したが、環球時報に書いてあるこの現実を日本はあまりに認識していない。環球時報の社評に対する判断に関しては、ここでは言及しないが、少なくとも、この現実だけは深く認識すべきだと思う。

◆中国青年報:インドネシアが「アジア版NATO」を弄ぶなと石破に警告

 10月11日、中国青年報は<インドネシアのメディアが「アジア版NATO」を弄ぶなと石破に警告>という見出しで、おおむね以下のような内容の報道をした。

 ●石破茂首相は日本政界の「古き顔(老面孔)」としてASEANで外交デビューした。しかし彼が到着する前に、インドネシアのジャカルタ・ポストから「アジア版NATO」に対する単刀直入の警告を受けた。

 ●ジャカルタ・ポスト紙によると、中国、米国、EU、日本はASEANの貿易相手国であるものの、2020年以降、ASEANの最大貿易相手国は中国であり続けている。ASEAN諸国にとって、日本やその同盟国が「ASEANはインド太平洋地域の中心だ」と主張して「密かにASEANをまとめて中国に立ち向かわせようとしているもくろみ」は、まったく非現実的であり、到底受け入れられるべきものではない。ASEANは、日本が地域の緊張を悪化させるだけの「軍事同盟国」ではなく、信頼できる貿易・経済パートナーになることを望んでいる。

 ●日本の経済力が衰退し、ASEANの力が大きくなる中で、石破茂は今でもまだ「日本はASEAN諸国のリーダーを引きつけるほどの影響力を持っている」という幻想を抱いているのだろうか。日本政界の「古き顔」は、世界情勢の事実認識に関しても「古き視点」しか持ってないのかもしれない。(以上、中国青年報から抜粋)

◆中国ネット民:石破茂は総理になって初めて世界の現実を知ったのではないか?

 中国のネットでは「日媒称」(日本メディアによれば)とか 「美媒称」(アメリカメディアによれば)という書き出しで、実に多くの情報が即時的に中国語に訳されて報道されている。中国のネット民はそれらを熱心に読んでいる者が多いので、実に当意即妙を得た反応が数多く見られる。それらを列挙するのは至難の業だが、「中国青年報」で取り扱っているようなテーマに関する書き込みを拾い上げると、たとえば以下のようなものがある。

 ●石破茂は自民党で長い間「干されていた」ので、現在進行形の世界情勢を認識する力がないんじゃないの?

 ●日本の政治評論家が石破内閣を「在庫一掃内閣」と評していたけど、あれって、おもしろいよね。今まで主流派から外されていた人たちをかき集めたんだろ?

 ●石破茂は「防衛問題オタク」って言われているようだけど、家の中で組み立てたプラモデルで構築した「アジア版NATO」は、机上の空論だったってことが、総理になって初めて分かったんじゃないの?

 ●そうじゃないと、自民党総裁選の選挙運動の時にあれだけ主張しておきながら、総理になったとたんに引っ込めるって、おかしいだろ?

 ●西側式の民主主義って、ほんとにいいのかね?選挙公約は当選した瞬間に捨てていいんだったら、選挙なんかする必要ないじゃない?

 ●中国式民主主義の方がよっぽどいいよ。選挙のたびに方針を変える必要がないから、国家戦略を貫くことができて、結局、新産業技術においても西側式民主主義国家を超えている。

 ●日本みたいに自民党政権がずーっと継続している国って、ほんとに「西側式民主主義国家」なんだろうか?アメリカはまだ二大政党が常に拮抗して争っているけど、それでも選挙のために国力を使い果たして、どんどん衰退していってる側面があるじゃない?日本はほぼ自民党による一党支配だから、もっと成長していいはずなのに、結局「自分が当選したい!」という欲望に駆られた議員ばかりだから、当選するための裏金問題とか内部の派閥争いで腐っていって、経済も新産業技術も立ち遅れていくばかりだよね。

●そんな日本がアジアをリードして「軍事同盟」を作って中国やロシアや北朝鮮を包囲していくって、なに考えてるの?バカじゃない?

 ●いや、だからさ、石破は総理になって、初めて少しだけ「現実」を知り始めたんだよ。初めて現在進行形の国際情勢が見えたんじゃないの?だから李強との会談で、「田中角栄の日中共同声明の立場を堅持する」って誓ったんじゃないの?

 ●そんなに「揺れ動いてばかりいて」、それで一国の総理が務まるのかな?

 ●そうだね。でも、石破を選んだのは現場にいたはずの政権与党の自民党だろ?「現実」を知っていたはずじゃないの?西側式民主主義って何?

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 以上、中国のネットから適宜、興味深いものを選んでみた。表現は、無数にある書き込みや民間ウェブサイトの主張などを、平均的にまとめたものである。

中国問題グローバル研究所所長、筑波大学名誉教授、理学博士

1941年中国生まれ。中国革命戦を経験し1953年に日本帰国。中国問題グローバル研究所所長。筑波大学名誉教授、理学博士。中国社会科学院社会学研究所客員研究員・教授などを歴任。日本文藝家協会会員。著書に『中国「反日の闇」 浮かび上がる日本の闇』、『嗤(わら)う習近平の白い牙』、『習近平が狙う「米一極から多極化へ」 台湾有事を創り出すのはCIAだ!』、『習近平三期目の狙いと新チャイナ・セブン』、『もうひとつのジェノサイド 長春の惨劇「チャーズ」』、『 習近平 父を破滅させた鄧小平への復讐』、『毛沢東 日本軍と共謀した男』、『ネット大国中国 言論をめぐる攻防』など多数。

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