サイドのドリブラーからエリア内のスコアラーへ。意識の変化が生んだ乾貴士の2得点。
イプルアの電光掲示板にINUIの文字が光り、ジングルベルの鈴の音がスタジアムに響く。
年内最後となったジローナ戦、乾貴士は2得点を決め勝利の立役者となった。
前節バレンシア戦に続くゴール。試合後の表情にも満足感が漂う。
「ホームで2得点は初めてなのですごく嬉しい。昨季カンプノウで2点を取れたのは自分の思い出としてすごく嬉しいことですけど、ホームのエイバルのファンの目の前で多くのゴールを取っていきたいと思っているので。ここでもっとゴールを取れれば」
「また抜きを狙った」1点目
得点への意欲に満ちていた。
1点目は得意の形から生まれた。左サイドから中へ。ディフェンダーも当然、乾の「形」は把握している。しかしキレのある細かなタッチについていけず、わずかにスペースをあけた。
好調だからだろう。乾はマーカーが足を伸ばして滑り込むところまではっきりと視野に捉えていた。
「1点目の場面はファーに巻いたシュートとも思ったけど、相手が足を出してくるのが分かったので、また抜きだなと。GKも反対側に動いていたので、入ったなと」
ファーサイドへカーブをかけたシュートという当初のイメージから、ニアを狙った低くて鋭いシュートへの変更。一瞬で乾はそんな選択をしていた。
開始からわずか41秒のゴールにスタジアムは沸いた。
「タカが変わった」指揮官が語る乾の変化
明らかに内面が変わっている。
今季初得点を決めたバレンシア戦後、乾はそこに岡崎慎司のアドバイスがあったことを明かした。
逆サイドのクロスに詰め、こぼれ球を狙うことー。
そう岡崎は伝えた。この日も乾はそんなアドバイスに忠実に従った。
2点目のシーン。エリア内でのキケ・ガルシアのシュートのこぼれ球を、ゴール前に詰めて押し込んだ。
この場面だけではない。特筆すべきは、90分で乾は何度もエリア内に詰めていたということだ。結果的にゴールにつながったのは2点目だけだったが、スプリントを繰り返しては前へ飛び込んでいった。
「しっかり岡ちゃんからの助言を守ってます」と乾は微笑む。
エイバルのメンディリバル監督も、そんな乾の変化に気づいている。
「タカはゴール前での意識が変わったんだ」
指揮官は試合後、嬉しそうに語った。
「これまで得点が少なかったが、今では自信をつけあらゆる種類のゴールを決めている。上手いプレーを見せるだけじゃなく、点も決めるようになったんだ」
メンディリバルは時間をかけて乾を育てていった。
「来た当初は守備がまるでダメだった」と思い返すように、テクニックこそあれど守備の軽さが否めなかった乾を、リーガという舞台で戦える選手に育てあげた。それとともに、攻撃面ではより積極的になるように口を酸っぱくして伝えた。
スペインに来て3年目。今季乾が一皮むけたとすれば、その最大の功労者はメンディリバル監督だろう。
ドリブラーからスコアラーへ
得点への意識について乾は続ける。
「ゴールへの意欲がすごく自分の中で出てきた。欲を出しすぎずに、しっかりゴールを狙う。そういうところがうまくいっていると思う。こぼれ球もそうですし。今まではあの位置にいられなかったので、ああいうところにいてゴールを決められるというのは、意識も変わってきたのかなと」
2試合で3得点。
これまで乾はあくまでもサイドのドリブラーであり、有能なチャンスメイカーだった。しかし年の瀬に訪れた意識改革は、彼にスコアラーという新たな一面をもたらしつつある。その目には今、ゴールマウスがはっきりと映っている。
きたるべき2018年、乾はどこまで得点を積み重ねるだろう。シーズンはまだ、半分も終わっていない。