ガザ病院爆発「イスラエルの空爆」報道をBBC、NYTが謝罪・釈明、それでも原因が見えないわけとは?
ガザの病院爆発から10日。当初の「イスラエルが空爆」報道をBBC、ニューヨーク・タイムズは相次いで謝罪・釈明した。それでも爆発原因の結論は、見えない――。
イスラエルとイスラム武装組織ハマスの衝突を巡っては、フェイクニュースの氾濫に加えて、メディアの報道の揺れも、混乱の要因となっている。
10月17日に発生したガザの病院爆発では、発生当初、パレスチナ(ハマス)側の情報をもとに「イスラエルが空爆」と主要メディアが一斉に速報した。
その後のイスラエル政府による否定やメディア批判などを受けて、BBC、ニューヨーク・タイムズが当初の報道を謝罪や釈明をする動きを見せた。
さらにメディア各社は、この爆発の原因と責任について、相次いで映像分析などの検証報道を行っている。
だが、問題の核心である爆発の原因については、最終的な結論が見えてこない。
●「誤った印象を与えた」
ニューヨーク・タイムズは10月23日付で、308語に上るそんな「編集後記」を掲載。当初報道についての釈明を行った。
編集後記は、こう続く。
ガザのアル・アハリ病院で爆発が起きたのは10月17日午後6時59分(現地時間)。
ニューヨーク・タイムズは約1時間後の同午後8時10分ごろから午後10時ごろにかけ、約2時間にわたってホームページのトップニュースとして、「イスラエルの病院攻撃で数百人死亡、パレスチナ当局」との見出しで速報を伝えている。
イスラエル政府の声明が見出しに盛り込まれるのは、爆発をトップニュースで扱ってから約1時間半が過ぎてからだった。
また同紙は、同日午後9時10分すぎから、Xでも「速報:イスラエルがガザの病院空爆」と伝えている。最初の投稿の表示数は51万件超に上る(本稿執筆時点、10月27日午前6時現在、表示数のカウントは以下同)。
病院爆発の当初、パレスチナ当局の情報によって「イスラエルが空爆」としたメディアはニューヨーク・タイムズだけではなかった。
BBCは10月19日付で、訂正欄にこのような声明を掲載。「この点について謝罪する」との一文は、ニューヨーク・タイムズの編集後記と同じ10月23日付で追加されている。
BBCはこのほかにも、速報ニュースと、Xへの速報ニュースアカウントの投稿で、パレスチナ当局の情報として「イスラエルによる病院への空爆」という表現を使っていた。
Xへの投稿の表示数は420万件を超えている。
●第1報への相次ぐ批判
元CNNのメディアアンカー、ブライアン・ステルター氏は病院爆発翌日の10月18日夜、ケーブルチャンネル「ニュースネイション」の中で、そう述べたという。
ハマスの情報に依存した当初報道は、イスラエル政府などによる批判の的となった。
これらの当初報道が、中東訪問に向かう米国のジョー・バイデン大統領と、アラブ諸国の首脳との会談中止にも、影響したとみられるからだ。
病院爆発の発生後、イスラエルは関与を否定。パレスチナ側の武装組織「イスラム聖戦」が直前に発射した約10発のロケットのうち1つが誤爆したもの、との見解を示した。
さらにイスラエル国防軍広報官は10月18日のブリーフィングで、こう指摘した。
米国は、イスラエル政府に足並みをそろえる。
バイデン大統領は10月18日、イスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相との会談で、「私が見たところでは、これはあなたではなく、相手チームがやったように見える」と発言。
米国の国連大使、リンダ・トーマスグリーンフィールド氏も同日、「上空からの画像、傍受情報、オープンソース情報の分析によれば、昨日のガザの病院での爆発はイスラエルに責任はない」と述べている。
英国のリシ・スナク首相も10月23日、「英国政府は爆発はガザからイスラエルに向けて発射されたミサイルかその一部によるものと判断した」と表明。さらにこうも述べている。
フランスの軍事偵察局(DRM)は10月20日、カナダ国防省も翌21日、同様に「ガザからのミサイル」との見解を明らかにしている。
ただ今のところ、釈明や謝罪の姿勢を示しているニューヨーク・タイムズとBBCに対し、他のメディアに追随する動きはない。
ロイター通信(X投稿の表示数は25.8万件)やAP通信(X投稿の表示数は1,500万件)、CNN(X投稿の表示数は73.5万件)などがハマスの情報として「イスラエルの攻撃」という文言を報じていた。
だが、あくまで「ガザ当局の情報」という留保がついており、誤報には当たらない、との立場だ。
少なくともニューヨーク・タイムズも、編集後記の中で「誤報」という立場は取っていない。
●結論はなお霧の中
イスラエル政府などが「ガザからの攻撃」とする証拠の一つとして注目したのが、病院爆発までの周辺の状況を捉えていたアルジャジーラのライブ映像だ。
同様の映像は複数のものが公開されている。
ウォールストリート・ジャーナル、AP、CNNの各社は、これらの映像をもとに、専門家らの見解も踏まえた独自の検証を行っている。
その結果、いずれも断定はできないものの、「パレスチナのロケット誤爆」が原因として推察できるとしている。
その一方、ニューヨーク・タイムズは当初報道に関する編集後記を掲載した翌日の10月24日付で、アルジャジーラの映像を含む3つの動画を、比較し検証した。
その結果、アルジャジーラの映像が捉えたのは、ガザからの攻撃ではなく、イスラエル側から発射されたもので、しかも病院の手前の境界線付近に着弾しており、イスラエル領内に着弾した可能性も高いと指摘している。
つまり、病院爆発は「パレスチナのロケット誤爆」とする根拠となった映像は、爆発の原因を示すものではない、との認定だ。
しかし、ニューヨーク・タイムズは、この検証によって爆発の原因がわかったわけではなく、「パレスチナのロケット誤爆」との可能性は残ると述べている。
●戦争報道の霧
ニュースの第1報にはしばしば誤りが混じる。
大きな事象が発生した場合、先行する情報があれば、情報源の明示と情報の精度への留保付きで、まず速報することは少なくない。
その後、時間の経過とともに複数の情報を入手し、ニュースはバランスとともに更新される。
特に戦争報道はそのリスクが高い。
しかも、戦争の実態が解明されるのには、時間がかかる。ガザの現場のように、メディアが立ち入ることが困難なケースではなおさらだ。
※参照:「ハマスが40人の赤ちゃんを…」未確認情報が拡散、メディアや米大統領も(10/20/2023 新聞紙学的)
そして、アル・アハリ病院爆発の原因と経緯は、発生から10日が過ぎてもなお不透明なままだ。
(※2023年10月27日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)