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金正恩エリートらを破滅させた「ある女子高生」の禁断の行為

高英起デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト
北朝鮮の女性兵士(デイリーNK)

 北朝鮮の首都・平壌郊外にある平安南道(ピョンアンナムド)平城(ピョンソン)で先月30日、女性のダンス講師と10代の生徒らが逮捕された事件については、本欄ですでに紹介した。ダンス教室で、欧米や韓流アイドルの音楽や映像を流していたことが発覚し、反動思想文化排撃法違反で摘発されたのだ。

 米政府系のラジオ・フリー・アジア(RFA)によると、この事件では金正恩体制のエリートらが芋づる式に摘発された。そして、その端緒となったのは、ある女子高生の自供だった。

 平城の情報筋がRFAに語ったところによると、道当局には昨年12月、「反動思想文化を叩き潰し、法に違反した者は権力者の子息といえども厳しく処罰せよ」との中央の指示が下され、取り締まりが強化されていた。反動思想文化排撃法違反の最高刑は死刑だ。

(参考記事:北朝鮮の女子大生が拷問に耐えきれず選んだ道とは…

 その過程で、ひとりの10代の少女が当局の網にかかった。祖父が朝鮮労働党平安南道委員会の幹部だというから、地方ではかなりの富裕層に属すると思われる。

 少女は運悪く、街頭で取締り班の検査に引っかかり、スマートフォンの中に韓国映画のファイルを隠し持っているのが発覚したのだ。

 取り調べでの彼女の供述に基づき、中国との国境に接する新義州と平城を行き来し、海上密輸に手を染めたグループの動向が把握された。平安南道検察所の幹部と、その親戚らによるもので、韓国映画や外国のダンスの動画が保存されたUSBメモリやSDカードを手に入れ、販売・レンタルしていた。

 コロナ鎖国で密輸が困難になり、韓流コンテンツの北朝鮮への流入が大幅に減ったと伝えられているが、権力層の手によって持ち込まれていたということだ。

 幹部の親戚は、取り調べで密輸したコンテンツを販売した顧客について自供したが、その中に前述のダンス講師が含まれており、そこから摘発に繋がったとのことだ。

(参考記事:「女性16人」を並ばせた、金正恩“残酷ショー”の衝撃場面

 また、講師とともに逮捕された6人の生徒はいずれも、道の行政機関の幹部やトンジュ(金主、新興富裕層)の子どもであることが判明した。

 中央の厳罰方針を受け、講師まで含めて労働教化刑(懲役刑)が避けられず、その父母も出党(労働党からの除名)、撤職(更迭)などの処分を受けるだろうと、情報筋は見ている。

 まさに「修羅場」の様相だが、反動思想文化排撃法の最高刑が死刑であることを考えると、より悪い結果が待っているかもしれない。

デイリーNKジャパン編集長/ジャーナリスト

北朝鮮情報専門サイト「デイリーNKジャパン」編集長。関西大学経済学部卒業。98年から99年まで中国吉林省延辺大学に留学し、北朝鮮難民「脱北者」の現状や、北朝鮮内部情報を発信するが、北朝鮮当局の逆鱗に触れ、二度の指名手配を受ける。雑誌、週刊誌への執筆、テレビやラジオのコメンテーターも務める。主な著作に『コチェビよ、脱北の河を渡れ―中朝国境滞在記―』(新潮社)『金正恩核を持つお坊ちゃまくん、その素顔』(宝島社)『北朝鮮ポップスの世界』(共著)(花伝社)など。YouTube「高英起チャンネル」でも独自情報を発信中。

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