研修講師が「パワハラ体質」の受講者から受ける同じ質問
「パワハラ防止法」の施行が、2020年6月大企業に対して行われましたが、それに続いて2022年4月から中小企業においても義務化されます。世間一般においても、パワーハラスメントを代表とする、ハラスメントが話題に上ることが多くなっています。
にも関わらず、職場では「パワハラ」に該当する事例を多く耳にします。ほとんどの人が「パワハラは良くない」と思っているのに、なぜこのようなことが続くのでしょうか。
そこで、今回は研修でお会いした「パワハラ体質」の方の実際の事例と、パワハラ対策の具体例をご紹介します。ぜひご参考にしてください。
パワハラ体質な人の特徴
私が研修で会ったパワハラには、「自己中心的」「人の話を受け入れない」という特徴があります。
例えば「自分は厳しく育てられたおかげで、今の地位に就くことができた。なのになぜ部下に厳しくしてはいけないのか」と質問されます。
自分がされた教育を、部下にも・・と考えるのは自然なことかもしれません。しかし、今は時代が変わりました。「社会の仕組みも、人の気質も変わり、かつての指導方法は今では通用しないのです」と説明しても、自分の考えを変えることができません。
周りの人達にも、厳しすぎる指導に対し注意を受けたことがあるそうですが、聞く耳を持たず、だんだん孤立しているようです。
余談ですが、ハラスメント研修が終わった後に、パワハラ体質の人が講師である私のところに来て「〇〇は本当にパワハラに該当しますか」としつこく質問された事があります。詳細にお話しても、自分の考えを変えることができないため、納得がいっていないようでした。
実際に研修でパワハラ体質の人から受けた質問
事例1:井村コーチは金メダルで感謝されましたよね?
「シンクロナイズドスイミング(現在の競技名はアーティスティックスイミング)日本代表の井村コーチは、厳しい指導で、選手をオリンピック金メダルに導きましたよね?私も上司からの厳しい指導のおかげで現在のポジションに就けました。それなのに、厳しくしてはいけないんですか?」 管理職(50代前半・男性)
確かに、井村コーチは厳しい指導で有名です。選手たちは、金メダルを獲得した後、「つらいことも多かったが、井村先生を信じてついてきて良かった」と感謝しています。
では、この男性の部下は、厳しく指導されて、いつか男性に感謝してくれるでしょうか。それには、以下のことが条件になります。
●オリンピックで金メダルを目指すくらいのモチベーションを仕事に感じている
●男性と同じ目標を共有し、男性は結果を出すための適切な指導をしてくれていると感じている
●男性を信頼し、厳しく指導されても信じてついていきたいと考えている
厳しい指導そのものが悪いわけではありません。結果を出すためには、時には厳しさも必要です。しかし、その厳しさは相手にどのように伝わっているでしょうか。この男性は仕事へのモチベーションも高く、厳しい指導にも耐えられたのでしょう。しかし、部下はどうでしょうか。パワハラ対策は、自分の考えを押しつけない。「自分と他人は別の人間だ」と知ることが第一歩なのです。
事例2:ミスは厳しく指導しないと改善されませんよね?
「仕事のミスに対して、厳しく指導するのは悪いことでしょうか?そうしなければ、いつまでたっても改善されません。私は叱られて、否定されて、そのことをバネにして努力してきたんです」 製造(40代後半・女性)
1人目の事例でも書きましたが、厳しい指導そのものが悪いとは思いません。しかし、次のことについて、振り返って考えてみてほしいのです。
●その指導は、本当に後輩の成長のためでしょうか?
●指導の結果、実際に後輩は成長しているでしょうか?
●大声や感情を出すことなく、指導できていますか?
この女性の場合は、後輩が次々に辞めてしまい、社長の悩みの種でした。怒鳴って注意をするので、後輩が委縮してしまい成長できないのです。
技術のスキルは優れたものを持っており、仕事ができる分、できない人と自分を比べて「どうしてできないのか」とイライラして怒鳴ってしまうのです。このように、「全部自分が正しい」と思い込むことこそ、「パワハラ体質」の入り口です。自分が正義とは限らないと、自覚しましょう。
「パワハラ体質」から脱却して適切な指導者になるために
「パワハラ体質」から脱却するためには、次の3つの心得を忘れないようにしましょう。
●「自分と他人は別の人間だ」と知る
●「自分が正義とは限らない」と自覚する
●大声や感情を出さず、冷静に指導する
周囲が指摘しても、ハラスメント研修で「自分はパワハラ体質だ」と自覚をしても改善されないときは、その部下と合わないという事もあります。そんなときは、部署異動や、パワハラ体質の人には「部下や後輩をつけない」という措置が功を奏するかもしれません。何にせよ、パワハラをなくして、安心して仕事ができる職場にしたいものです。
研修トレーナー太田 章代
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太田章代の『ビジネスコミュニケーション術』