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ローカル鉄道 今さら聞けない定期券のルール

鳥塚亮大井川鐵道代表取締役社長。前えちごトキめき鉄道社長

入学式のシーズンですね。

皆様、ご入学、ご進学おめでとうございます。

高校生になって初めて定期券をお使いになる方も多いことと思います。

都会ではICカードと一体になった定期券が当たり前ですが、ローカル鉄道ではまだ紙の定期券が主流で、そこだけ昭和の時代が残っている感がありますが、定期券にはいろいろなルールがあって、間違った使い方をすると不正乗車扱いとなります。

学校によっては定期券の不正使用がわかると停学や退学処分になるところもあるようですから、しっかりとルールに沿った使い方をしていただかなければなりませんが、地方都市では基本的に親世代も車通勤がほとんどですから、定期券というものに縁がない人たちがほとんどです。

つまり、お父さん・お母さんから「定期券のルール」というものを教えてもらえる機会もないまま利用している高校生の皆様方も多く、時として悪気もないのに、あるいはいたずら気分で不正利用してしまっているケースを見かけます。

社会人の方ももちろんですが、次のような点に気を付けてください。

えちごトキめき鉄道の定期券見本
えちごトキめき鉄道の定期券見本

定期券は記名式です

定期券は主に通勤定期と通学定期がありますが、どちらも基本的には記名式です。そこに記載された名前の人しか使うことができません。

記名式以外にもう一つ「持参人式」という定期券制度を設けている会社もあります。

持参人式というのは、その定期券を所持している人であれば誰でも使用することができます。家族で1枚、事務所で1枚など、誰でもその定期券を使うことができるものですが、通学定期のように特別の割引をしてあって、学校の証明書がなければ買えないような定期券は記名式ですから、定期券の券面に書かれた本人しか使用できません。

友達の定期券を使用したり、あるいは学校が休みの時に本人以外の家族が使用すると不正使用になります。

女性の定期券には氏名の下に赤いラインが入っているものもありますが、男性が使用すると係員はすぐにわかります。

通学定期券で乗車される場合は、学校が発行する証明書(生徒証や身分証明書)などを所持することが必要で、係員から求められたら本人確認のため提示しなければなりません。

有効期間があります

定期券には有効期間があります。

有効期間を過ぎた、あるいは有効期間前の定期券を使用したりすると不正使用になります。

ついうっかりというのが多いのは期限の切れた定期券の使用です。

今の季節は大丈夫ですが、よくあるのが7月に入ってから。

定期券の有効期間には通常1か月、3か月、6か月がありますが、入学式の時に買った3か月定期は7月の初旬で期間が切れます。でも学校の授業は7月中旬までありますね。

期限が切れているのに気づかずに使ってしまうのはこの季節です。

鉄道会社によっては学生の皆様方のために「学期定期券」というのを発売している会社もあります。学期定期券であれば、夏休みに入る前の終業式まで使えますから、そういう定期券を利用されるのが良いと思います。

定期券には有効区間があります

通学定期券は、自宅の最寄り駅から学校の最寄り駅の区間で発売します。

それ以外の区間で発売することはできません。例えば学校の最寄り駅の先に繁華街などがあって、帰りに寄り道をして帰る場合などは、学校の最寄り駅とその繫華街の最寄り駅との間の切符は別に買わなければなりません。券面に記載された区間外にもかかわらず、そのまま改札口を通ろうとすると不正乗車扱いになります。

また、この図のようにA駅からB駅までの定期券を所持している人が、そのままC駅まで乗り越したとします。A-B間の運賃は300円、B-C間の運賃が300円、A-C間の運賃は500円だとします。A-B間の普通乗車券300円を券売機や窓口で買われた方がC駅まで乗り越された場合に支払う金額はA-C間の通し運賃である500円とA-B間300円との差額200円となります。

でも、定期券の方の場合はB-C駅間の運賃300円になります。乗り越し差額精算ではなく、定期券の場合は区間外の運賃はその区間の運賃が別途必要になります。

もし、A-B間の運賃とA-C間の運賃が同額であった場合でも、定期券利用の場合の運賃計算は、いったんB駅で打ち切り、B-C間の運賃が別途かかりますのでご注意ください。

もし不正乗車をしてしまったら

定期券は昔から不正利用が多くありました。特に通勤定期券に多かったのが区間が連続しない2枚の定期券、あるいは定期券と普通乗車券などを使用して真ん中の区間を切符無し(無札)で乗ることです。

例えば東京-新橋間の定期券と大船-戸塚間の定期券の2枚を所持して東京-大船間を利用するなどですが、昨今のICカード定期券では入場と出場の記録が残りますから、そういう不正利用はできなくなりました。

ご主人が休みの日に奥様がご主人の定期券を利用するなどということも記名式の定期券では不正乗車に当たります。また、本人がその気がないのに、ついうっかりということがあります。でも、ついうっかりであっても不正乗車扱いになるとペナルティーが科せられます。

定期券の券面記載事項を改ざんして使用すること。例えば有効期間を改ざんしたり区間を改ざんしたりすると悪質とみなされます。

鉄道会社の旅客営業規則には、

「不正乗車に使用した乗車券を無効として回収し、その区間の運賃及び増運賃(2倍の金額)を支払う」

と書かれています。

定期券の場合は、例えば6か月定期券などでまだ有効期間が長く残っていたとしても、その定期券は無効として回収されます。そして、その区間の運賃、増運賃を請求されます。

例えば、片道500円の区間であれば、運賃500円プラス増運賃(普通運賃の2倍)1000円の1500円が片道分となります。そして、1日1往復3000円に不正利用した期間の日数を乗じますから、10日間であれば3万円になります。

特に定期券の場合は乗ったか乗らないかではなく、不正利用した期間に1日1往復したとみなされますので、不正利用の期間によっては莫大な金額を請求されることがあります。

長距離通勤のサラリーマンが何年間にもわたって不正乗車をしていたのが発覚し、何百万円という金額を請求されたというニュースも以前は時々ありましたが、こういう悪質な例は別としても、「ついうっかり」でも不正乗車扱いされることがありますので、十分にご注意ください。

高校生が不正乗車をしたらどうなるか

前述しましたが、学校によっては停学や退学処分になるところもあります。

えちごトキめき鉄道では高校生の不正乗車は悪意のあるものは開業以来ありませんが、他の鉄道会社ではこんなことがありました。

ワンマン列車で運転士に定期券を見せて前のドアから下車した生徒が、降りた列車の窓から車内の友達に定期券を渡しました。下車した生徒は定期券を所持しておらず、友達の定期券で下車したのです。その行為が運転士の目に留まり、捕まえられて駅長室でお説教されることになったのですが、親に連絡をして迎えに来ていただいた時に、その親が「うちの子が何を悪いことをしたのですか?」と息巻いたことがありました。

お客様を運ぶというのは鉄道会社の商品です。お金を払わないで電車に乗るということは商品をタダで手に入れることですから万引きと一緒です。

でも、最初にも書きましたが、車社会の田舎では両親でも鉄道に乗ることはありませんから定期券の使い方などわからないのです。

本人に反省の色が無かったり、悪態をついたりすることもあります。そういう場合はまず親の了解を得たうえで学校に連絡をします。厳しい学校では退学処分にさせられることもありました。

鉄道会社の職員は高校生を犯罪者扱いするつもりは毛頭ありません。そういうことはやりたくありませんし、心が痛みます。だからこそ定期券の使い方についてしっかりと教える必要があります。

ローカル鉄道では、新学期には学校へ出向いて定期券を販売するところが多くありますが、そういう時には定期券のきちんとした使い方をレクチャーして、間違った使い方をしないようにご案内させていただくなど、学校と連携を取っているところも多くあります。

定期券の利点

このように定期券には使用に当たって様々な制限がありますが、逆に便利な点もあります。いちいち切符を買わなくても乗れますし、期間内、区間内であれば何回乗っても金額は同じです。別に1日1往復じゃなくても構いません。学校の授業がない日に乗車しても構いません。また、区間内であれば途中下車も自由にできます。

何よりも、定期券を持って電車に乗るということは、社会へ一歩踏み出すということですから、人生の中で晴れ晴れしいことだと筆者は考えます。

定期券は上手に使って、社会の一員として活躍していただきたいと思います。

皆様方のご乗車をお待ちいたしております。

※本文中に使用した写真などはすべて筆者が撮影、制作したものです。

大井川鐵道代表取締役社長。前えちごトキめき鉄道社長

1960年生まれ東京都出身。元ブリティッシュエアウエイズ旅客運航部長。2009年に公募で千葉県のいすみ鉄道代表取締役社長に就任。ムーミン列車、昭和の国鉄形ディーゼルカー、訓練費用自己負担による自社養成乗務員運転士の募集、レストラン列車などをプロデュースし、いすみ鉄道を一躍全国区にし、地方創生に貢献。2019年9月、新潟県の第3セクターえちごトキめき鉄道社長、2024年6月、大井川鐵道社長。NPO法人「おいしいローカル線をつくる会」顧問。地元の鉄道を上手に使って観光客を呼び込むなど、地域の皆様方とともに地域全体が浮上する取り組みを進めています。

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