「南極の大規模火山群」は地球環境への新たな脅威か
東日本は「やませ」が吹く1993年以来の記録的な冷夏だ。1993年の冷夏は、1991年にフィリピンのピナトゥボ火山が噴火したことが原因の一つとされている。
南極に大規模な火山群
火山と言えば、最近、火山学者たちの間で話題になっているのは、新たに南極から100近くの火山が発見されたことだ。英国エジンバラ大学の研究者が発表した論文(※1)によれば、南極大陸の北西に突き出た南極半島(Antarctic Peninsula)の基部に138もの火山があり、そのうちの91は今回、新たに発見されたものだと言う。
発見された南極の火山群。ロス湾に面して突き出た「West Antractic Rift System」というエリアにある。下は北東アフリカの「東部地溝帯」の火山群。
これまで厳しい気候環境や分厚い氷床におおわれ、南極の地質学的な調査は難しかったが、この研究では「BEDMAP2」という岩盤マッピングデータベースを使った。これは氷の下の地形を音波測定して得た情報だ。
南極半島は、地質的に南米のアンデス山脈につながっている。今回発見された火山群は、いわゆる「大地溝帯」の北東部であるエチオピア、スーダン、ケニア、タンザニアにまたがる東部地溝帯(グレゴリーリフトバレー)の火山群に匹敵する規模を持つ。
地球の気候変動に与える影響は
南極の火山群の中で、低いものは100メートルほど、高いものは3850メートルあるが、これらの火山で近い将来の噴火が予期されるものがどれくらいあるのか、現段階ではわかっていない。研究者は、噴火などの火山活動が起きれば、大量の氷が溶けるというように南極の環境に大きな影響を与え、ひいては地球全体の気候へも少なくない作用を及ぼす可能性がある、と言う。
今回の論文は「BEDMAP2」という岩盤マッピング技術を使っているが、火山群の横断面をみると、上に厚い氷床が乗っかっていることがわかる。
また、南極大陸をおおっている氷は岩盤を上から物理的に押さえつけているが、氷が少なくなればマントルなどの活動も変化するはずだ。すでに地球温暖化の影響によると思われる氷の融解が始まっているので、それによりドミノ倒しのような火山活動の連鎖が起きるかもしれない。
ところで、南極と言えば今回の調査のような南極観測をイメージする。南極観測と言えば、やはり南極観測船だろう。
初代の南極観測船「宗谷」(1957〜1962年)は、東京・お台場の船の科学館で博物館保存され、二代目の「ふじ」(1965〜1983年)は名古屋港水族館に保存されている。また、千葉県の船橋港には、25年間、南極観測船として活躍した初代の「しらせ」(1983〜2008年)が係留され、この8月19日、20日には現役の南極観測船「しらせ(二代目)」(2009年〜)と邂逅するイベントも開かれる。夏休みの自由研究に役立てることができそうだ。
二代目の南極観測船「しらせ」:画像提供:海上自衛隊
※1:Maximillian van Wyk de Vries, Robert G. Bingham, Andrew S. Hein, "A new volcanic province: an inventory of subglacial volcanoes in West Antarctica." Geological Society, London, Special Publications, 461, 29, May, 2017
※:2017/09/06:0:57:科学雑誌『PNAS』に「南極の火山活動がオゾン層に影響を与え、1万8000年前の氷河期の終わりを加速させた」という論文が出た。
※:2017/09/09:0:13:『Polar Biology』に「Evidence of plant and animal communities at exposed and subglacial (cave) geothermal sites in Antarctica.」という論文が出た。著者はオーストラリア国立大学のCeridwen I. Fraser。