Yahoo!ニュース

ウクライナ領土防衛隊の義足の兵士、ロシア製の対空機関砲「ZU-23-2」で攻撃&偵察ドローンを迎撃

佐藤仁学術研究員・著述家
対空機関砲「ZU-23-2」(写真:ロイター/アフロ)

「主な標的はシャハドとOrlan-10です」

2022年2月にロシア軍がウクライナに侵攻。ロシア軍によるウクライナへの攻撃やウクライナ軍によるロシア軍侵攻阻止のために、攻撃用の軍事ドローンが多く活用されている。また民生用ドローンも監視・偵察のために両軍によって多く使用されている。

ロシア軍はロシア製の監視・偵察用ドローン「Orlan-10」や民生品ドローンで監視を行っている。2022年10月に入ってからロシア軍はミサイルとイラン政府が提供した標的に向かって突っ込んでいき爆発する、いわゆる神風ドローンの「シャハド136(Shahed136)」、「シャハド131(Shahed131)」で首都キーウをはじめ、ウクライナ各地に攻撃している。上空からのロシア軍の監視・偵察、および攻撃ドローンからの防空がウクライナ軍にとっては国家の安全保障に直結する重要な任務になっている。ウクライナ軍では多くの部隊が地対空ミサイルや防空ミサイルで上空からのロシアのドローンを迎撃して破壊している。

そんななか、ウクライナのメディアUnited24では、2015年からウクライナ領土防衛隊に参加している義足の兵士のアレキサンダー氏を紹介。アレキサンダー氏は以前から対空機関砲を扱う部隊にいたがロシア軍の汎用装軌装甲車両MTLBに攻撃されて片足を失った。戦争で足を失ってしまい義足だが、現在でもウクライナの要衝の南部地域で対空機関砲「ZU-23-2」でロシア軍のドローンを迎撃している。

アレキサンダー氏は「私の任務は、この対空機関砲で低空飛行してくるドローンを迎撃して破壊することです。主な標的はシャハドとOrlan-10です。ドローンが近づいてくるとコリメーターを調整してドローンを迎撃して破壊しています」と語っていた。

▼義足の兵士アレキサンダー氏を紹介するウクライナのメディアUnited24

命がけの任務の攻撃ドローンの迎撃

上空のドローンを迎撃するのは、電波を妨害(ジャミング)してドローンの機能を停止させるいわゆる"ソフトキル(soft kill)"と、対空機関砲のように上空のドローンを爆破させる、いわゆる"ハードキル(hard kill)"がある。対空機関砲「ZU-23-2」でのドローンの撃破は明らかにハードキルである。

偵察ドローン「Orlan-10」や小型の民生品ドローンは、ジャミングでも機能停止できるが、最近の偵察ドローンには手榴弾などの武器や弾薬が搭載されている可能性があるので、機能停止するだけでは上空からドローンが落下して地上で爆発する危険もある。そのため上空で撃破しておいた方が良い。また敵軍の監視・偵察ドローンに自軍の居場所を察知されると、その場所をめがけてミサイルが大量に発射されるので偵察ドローンを検知したらすぐに破壊したり機能停止したりする必要がある。

地対空ミサイルシステムや防空ミサイルのような大型システムで監視ドローンを攻撃して爆破させるのはコストもかかるし、大げさかと思うかもしれない。しかし監視ドローンこそ検知したらすぐに破壊しておく必要がある。監視ドローンは小型でも大型でも「上空の目」として戦場では敵の動向をさぐるのに最適である。監視ドローンで敵を検知したらすぐに敵陣をめがけてミサイルを大量に撃ち込んでくる。監視ドローンとミサイルはセットで、上空の監視ドローンは敵からの襲撃の兆候である。また部品を回収されて再利用されないためにも徹底的に破壊することができる"ハードキル"の方が効果がある。

現在のロシア軍は破壊された監視ドローンを回収して部品の再利用をして、監視ドローンを作っているようだ。そのため、監視ドローンといえども、中途半端な機能停止や撃墜によって落下させるのではなく、他の戦車やミサイルと同じように上空で徹底的に破壊しておきたい。そうすれば部品を回収されて監視ドローン製造に再利用されないので効果的である。

ロシア軍は、ここ数か月で大量のイラン製軍事ドローン「シャハド」でウクライナ各地を攻撃している。多い時には1回の奇襲で10~30機で攻撃をしかけてきている。「シャハド」は標的をめがけて攻撃を行い爆発するタイプの攻撃ドローンであり、大量にあらゆる方面から集中的に奇襲してくることもある。また最近では小型民生品ドローンに爆弾を搭載して突っ込んできて爆発するタイプの攻撃ドローンも多く用いられており、ウクライナ軍もこのタイプの攻撃ドローンでロシア兵を攻撃している。

つまり前方から飛来してくる大量の攻撃ドローンを迎撃しようとしていたら、同時に後方からも大量に飛来してきて攻撃をしようとしてくることもありうる。そうなると人間の兵士が地対空ミサイルや対空機関砲で迎撃して破壊するのも容易ではなく、命がけの任務である。攻撃ドローンは攻撃側が圧倒的に優位である。それでも迎撃して破壊しないと、ウクライナ軍の軍事施設だけでなく民間施設やインフラまでが標的にされて爆破されてしまう。

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

佐藤仁の最近の記事