ジャパンCに出走する外国勢との個人的な縁から綴るサイドストーリー的エピソード
あくまでも個人的なサイドストーリー
今週末、東京競馬場でジャパンC(GⅠ)が行われる。
今年、来日した4頭の外国勢とは個人的にそれぞれ縁があったので、サイドストーリーとしてのエピソードを紹介しよう。予想に役立つかは?なので、その点は承知の上でお読みいただきたい。
ラストランに懸ける調教師
グランドグローリーのG・ビエトリーニ調教師はネオリアリズムが勝ったQEⅡ(香港、GⅠ)にディクトンを送り込んでいた。その際、取材させていただいたのを機に懇意になり、その後、連絡を取り続けている。
昨年もグランドグローリーでジャパンCに挑戦。それを最後に引退の予定だったが、その後の現役馬セリでオーナーが新しくなり、今年も現役を続行する事になった。
今回はレース後に日本で繁殖入りする事が決定したため「物見遊山では?」との声を囁く人もいたが、繁殖入りが決まったのは来日後なので、この意見には頷けない。
他の2頭のフランス馬とは離れ、常に1頭で調教をしている点について、ビエトリーニは言う。
「他の馬がいるとむしろナーバスになるタイプ。1頭の方が集中する馬なので、あえてそうしています」
ちなみにメゾンラフィットで開業する厩舎には70の馬房に約50頭が入厩。20人のスタッフのうち半分は女性で「馬との信頼関係を築くのはむしろ女性の方が上手」と私見を述べる。メゾンラフィットは私がよく訪れるシャンティイからは車で1時間程度。しかし、新型コロナ騒動に加え、メゾンラフィット競馬場が閉場となってしまった事もあり、近年は足が遠ざかっている。それでも、ビエトリーニとは欧州の方々の競馬場で顔を合わせた。そして、その度に「昨年のリベンジをしに行くよ」と語っていた。ここまでは予定通り。ラストランでのリベンジがあるのか、注目したい。
タッグを組んだ調教師と元調教師
オネストのF・シャペ調教師は1990年代から知った仲。その年代の後半に、横山典弘騎手が毎年のようにフランスへ行っていたのだが、その際、騎乗馬を用意してくれたのが彼であり、私も言葉をかわすようになった。
今年は凱旋門賞(GⅠ)前にシャンティイの厩舎へ押しかけてオネストを見させてもらった。その頃から「この馬は硬い馬場が合うので凱旋門賞後はジャパンCに走らせたい」と語っていた。パリ大賞(GⅠ)を勝っているが、同レースはジャパンCの褒賞金の対象レースでもある。勝てば賞金とは別に300万米ドルの褒賞金を手に出来るだけに、陣営の本気度はかなりのものだ。
ちなみにそのパリ大賞は、2着馬がシムカミル(後述)で3着馬はその後のコックスプレート(豪GⅠ)でも3着に好走、4着馬は英セントレジャー(GⅠ)優勝と、好メンバー揃い。それを証明するように前々走の愛チャンピオンS(GⅠ)では仏ダービー(GⅠ)勝ち馬でその後の凱旋門賞を2着するヴァデニやミシュリフらに先着の2着。実力は来日した外国馬の中でもかなり上位と考えて良いだろう。
不安があるとすればスタートがそれほど速くないので、内枠(2番)というのが必ずしも好材料ではないと思える点だが、それをふると、次のように答えた。
「確かにその点は否定出来ません。でも、逆に言えば不安点はそれくらい。状態は良いし、期待出来ますよ」
また、同馬のオーナーはフランスでも有数の馬主といえるG・オーギュスタン・ノルマンだが、同オーナーのマネージャーを務めているのが以前は調教師をしていたジョン・ハモンド氏。調教師時代はスワーヴダンサーとモンジューで2度の凱旋門賞制覇をした伯楽だ。
実は1週間ほど前に連絡をいただき「日本へ行くからユタカも誘ってご飯へ行こう」と誘っていただいたのだが、2001、02年と武豊がフランスをベースに騎乗したのは、このハモンド氏から招かれたから。この事からも日本の競馬に精通しているのがお分かりいただけると思うが、実際、ジャパンCにも先出のモンジュー(99年4着)の他、エルナンド(95年3着)やサラリンクス(2011年12着)など、幾度も挑戦してきた。
「初めて日本に来たのは92年(ディアドクターでジャパンC3着)だからもう30年も前ですね。今は調教師ではないけど、また日本に来られて嬉しく思っています。オネストは3歳でこれからまだ良くなる馬だけど、現時点でも充分に通用すると思いますよ」
立場を変えてリベンジなるか。注目しよう。
父娘で臨む
シムカミルはニエル賞(GⅡ)でドウデュースに勝利。しかし、S・ワッテル調教師は「あれはドウデュースが本来の力を出せなかっただけでしょう」と語る。そんな彼とは、挨拶する程度の関係だが、実は彼のご息女とは古い仲。名をアナスタシア・ワッテルといい、彼女も調教師だ。私が彼女と知り合ったのは開業する何年も前。当時から「ゆくゆくは調教師免許を取って、父のようになりたい」と語っていた。現在、父は80頭の預託馬がいるが、彼女はまだ25頭。今回の経験を活かし、次は自らの管理馬を送り込んで来る事を期待したい。
ちなみにアナスタシアが「調教師試験を受ける」と言っていた時期に「合格したら主戦騎手はユタカタケだろう?」と笑いながら言っていたのがグレゴリー・ブノワ騎手。ニエル賞に続いてこのジャパンCでもシムカミルの手綱を取る彼は、以前、藤沢和雄元調教師の下、短期免許で騎乗。日本の競馬を良く知る鞍上に導かれ、シムカミルは異国で初GⅠ制覇を飾れるだろうか?
ドイツ馬に寄り添う日本人
ドイツからの遠征馬はテュネス。今回は他のフランス馬3頭とは別便での到着となった事から、24日に検疫が終わるまでは接触がないように、1頭だけ時間をズラして調整された。その際、同馬が寂しがらないように、という感じで添っていた日本人がいる。
現在、ドイツで騎乗している寺地秀一騎手だ。
彼については大分前に記したように、現在はP・シールゲン調教師の下で、見習いをしている。
「テュネスには1度だけ、跨った事があります。間違いなく良い馬だと感じました」
「ただし、首を曲げて走るなど、少し癖があった」と言い、更に続ける。
「でもムルザバエフ騎手との相性がバッチリで、彼が乗っていると力をフルに発揮してくれます」
寺地はテュネスが帰国した後もこのまま年末まで日本に残るという。故郷に錦を飾って気分良く滞在出来るか。応援しよう。
(文中一部敬称略、写真撮影=平松さとし)