”ミサイル披露”の直後に…金正恩氏の党創建記念日スピーチ全容。国民への謝罪、韓国には「愛する同胞」と
”ミサイル披露”の直後の演説には、国民への”謝罪”があり、感謝があり、軍事力については「誰かを標的にはしない」と明言――。
9日の深夜に平壌で行われた朝鮮労働党創建記念日の記念式典。今年は75周年記念ということもあり、各国メディアの注目が集まった。ICBMが披露された後に行われたスピーチで金正恩氏は何を語ったのか。大きく分けると10のパートに分かれた。日本語に訳すと約5900字。少々長い。全訳を行った筆者のパート分けを入れつつ紹介する。
「冒頭の挨拶」
「水害の復旧に取り組む軍人、平壌の朝鮮労働党員、労働者への労い」
「この日を迎えた意義」
「新型コロナウィルス」
「党に忠誠を尽くす人民への感謝」
「最高指導者たる自らに対する忠誠へ感謝」
「軍事力の存在意義とその成長」
「軍事力行使の指針」
「来年1月に予定される党大会への抱負」
「党中央委員長としての今後への決意」
※読みやすさを考え、少々意訳も交えました。
冒頭の挨拶
異例の深夜開催、そしてスーツ姿で現れた金正恩氏は、時折涙交じりで演説を行った。
党創建75周年を祝う代表たちと平壌市民の皆さん、栄光の10月の祝日の閲兵式に参加した閲兵部隊指揮官の戦闘員同志、親愛なる同志たち。
栄光の党にとっての創建日を迎えました。偉大な栄光の夜を迎えました。そのためか、(あるいは)これまでになく剛健なこの年に迎える党創立日は、この栄光の夜がついにきたという事実だけでも、あまりにも感動的なものです。
偉大な党創建75周年を迎え、私は朝鮮労働党中央委員会を代表して、今日の10月の祝日を光栄と誇りによって輝かせ、すべての方にお祝いの挨拶を申し上げます。
今夏の水害復旧に取り組む軍人、平壌の朝鮮労働党員、労働者への労い
- 咸鏡道での復旧活動を伝える韓国「YTN」
全朝鮮人民に熱い感謝と、お祝いの挨拶を謹んで申し上げます。同志の偉大な祝日である今夜、首都の通りとここ栄光の広場は、このように歓喜深く、喜びと誇りに胸が高鳴ります。
今日の栄光の瞬間が、いま、全国各地の数多くの党員同志と、労働者階級の我々の革命軍将兵たちの目に見えない献身によって守られていることを忘れてはなりません。
今日のこの栄光の瞬間を守るために、今年に入ってどれほど多くの方々が過酷な環境に耐え、奮闘してきたでしょうか。我々がどのように多くの課題を乗り越えここまで来たでしょうか。
特に今年突然迎えた防疫戦線と自然災害復旧の面で、我々の人民将兵たちが発揮した愛国的英雄的な献身は、誰一人として感謝の涙なしではいられないものです。
祖国防衛、人民保衛、革命保衛は、人民軍の適切な本来の任務とするところではありますが、(今年は)我々の将兵たちの苦労があまりにも大きかったです。
あまりにも多くのことを引き受け、抱えることで苦労の多かった我々の将兵たちです。だからあまりにも申し訳ありませんし、この栄光の夜に、すべてと(この場に)一緒にいられなかったことに心が痛みます。
今この時刻にも、数多くの我々の部隊の将兵たちが、栄光のこの金日成広場に来られず、国の安全と人民の安寧を守り、防疫前哨線と災害復旧の前線で勇敢に戦っています。
我々の軍隊は、このように積弊勢力(外国の勢力)の軍事的脅威だけでなく、防疫と自然との闘いのような突発的な脅威にも、国の防衛の主体としての自身の任務を立派に遂行しています。我々の国と人民のために(働く)、彼らの熱烈な忠孝心に最大の敬意をささげ、全国のすべての将兵たちに熱い感謝をお贈りします。
また、自分たちが(水害による)被害回復の建設任務を果たしても、愛する家がある平壌行きを選ばずに、自ら別の被害回復が必要な地域に足を向けた愛国者たち。当然この場にいるべき、我々にとって核心的でかつ私が最も信頼できる首都の党員師団戦闘員にも、戦闘的な鼓舞と感謝の挨拶を贈ります。
そして、全国のすべての労働者に挨拶と感謝を贈ります。自然の災害を振り払い、新しい村の新しい家に居を構えた、新しい世代の全国家庭に幸せだけが込められるの本望です。我々の子どもたちにいつも青い夢が広がることを願います。
この場を借りて、今、この時刻にも悪性ウィルスによる病魔と戦っている世界中のすべての人々に、温かい慰めを贈り、心の奥深くからすべての人々の健康がどうか守られ、幸せと笑顔が守られることを切に願います。愛する南の同胞にも温かい心で過ごし、一日も早くこの保健危機が克服され、堅固に再びこの両手を合わせ取る日が来ることを期待します。
今回の韓国メディアの大きな注目は「軍事」であり、ICBMというミサイルが披露されるかどうかだった。この詳細は別に譲るとして、太字で記した韓国への言及は保守系「中央日報」、革新系「ハンギョレ新聞」が速報記事の見出しに入れるなど注目を集めた。
また文中に「忠孝心」という日本語では聞き慣れない言葉も出てきた。儒教に由来する言葉で、「孝」は自分の親など親族に対する忠誠で、「忠」は血縁のない他者への忠誠を意味する。ごく平たく言うと「社会のために尽くす」といったニュアンスだ。
- 録画中継された現場の様子を伝える「YTN」
この日を迎えた意義
同志たち! 我々は皆が心を一つにし、貴重な成果と努力の結果、10月のこの祝いの広場に集まりました。
我々がここに来るまで、本当に容易くはありませんでした。多くの難局を勝ち抜かなければなりませんでした。これまでの党にとっての75年もそうでしたが、特に今年は年始から一日一日、一歩一歩が、予期しない膨大な苦戦や障害により本当に苦しかったです。
我々はそのすべてを勇敢に乗り越え、誇らしい堂々とした思いで、意義深いこの場に立ちました。我々を苦しめ、(行く道を)塞ぐ災難が制圧され、我々が打ち出した正義の闘争目標が光り輝く達成を成し遂げたことを示しています。
親愛なる同志たち! 今日、我々は党の75歳の誕生日を盛大に迎えています。世の中には、我々のように自分の党の誕生日を全人民が喜びの祝日とし、大慶事の日として盛大に祝う国はありません。全国からの心が熱く押し寄せ、溢れてくるこの場所に立ってみるに、全人民に何をまず申し上げればよいのかも分かりません。
党が歩んできた栄光あふれた75年史をひとつひとつ振り返るこの時間、この場所に立つにあたり、何を言うことから始めればよいのかと考えたのですが、本当に人民に打ち明けたい心のなかの告白、心のなかは本当に「ありがとうございます」という一言だけです。
ここで聴衆から拍手が巻き起こった。
- 演説の様子を伝える「YTN」
「一人も感染者がいない」新型コロナウィルスへの言及
何よりもまず、今日このように我々の人民はすべてが無病息災でいることに本当に感謝します。この言葉は、必ずお伝えしたかったです。一人の悪性ウィルスの被害者もなく、誰もが健康でいてくださることに、本当に感謝します。
世界を恐怖に晒しているひどい伝染病からこの国のすべての方々をついに守ったというこの事実は、我々の党が当然行うべきことであった当然の成果とするべきです。
しかし、外勢から守ったという感激に目の前がぼやける思いでもあります。ありがとうございます、と言うより他に言葉を見つけることができません。今日のこの勝利は人民自身が成し遂げた偉大な勝利です。
わが党にとって人民一人一人の命は何よりも大事です。全人民が健在で、健康であってこそ、党があり国もありこの地のすべてがあります。ところが、この世界には、貴重な朝鮮人民の生活を脅かして害する不安定な要素があまりにも多いのです。
それゆえ、実際に年初から世界的な保健の危機が到来し、周囲の状況も良くないことに対する悩みも大きく、恐れも大きかったです。
しかし、我々人民は根強く立ち上がり、党と国家が取る措置を絶対的に支持して応じてくれ、自分たちの運命を頑なに守り通しただけではなく、活気あふれる姿で無惨な苦しみと試練を乗り越えました。
お互いに心配をしてくれ、慰め、庇ってくれる美しい人民。そんな人民が高い愛国心と高度の自覚により互いに協力しました。(仮に)愛する社会主義ではなかった場合、恐ろしい災害を防ぐことはできなかったでしょう。
朝鮮人民はすべてが進んで防疫の主体となり、国と自分自身を守って、我々の子どもたちを守るための闘争にこぞって出たため、国の不足し、遅れている防疫部分が他の人々(周囲の国々)であれば想像もできない防疫安全を維持することができました。
(我々は)まだ豊かに暮らせずとも、和合の過程を経て、たった一人の悪性ウィルスの被害者もなく、すべてが健康であるので、これがどのようありがたくどのように大きな力になるのか分かりません。
国が受ける困難な状況を深く理解してくれ、自分のことのように背負い込むありがたい人民も、この世の中で、我々人民しかありません。
今、この惑星で、常に厳しく続く制裁のために、すべてのものが不足しているなかでも、緊急防疫や自然被害復旧の大きな課題と挑戦に直面している国は我々だけです。これらすべての試練は、言うまでもなく、我々それぞれの家庭、(ひいては)国民に重い荷物として痛みとなっています。
- 北朝鮮でのコロナ対策の様子を伝える韓国「KBS」
党に忠誠を尽くす人民への感謝
しかし、むしろ国事を前にし、国が直面する苦難を十でも百でもともに背負い、誠実な汗と努力でこの国を強固に仕えるありがたい愛国者たちが、まさに我々人民です。したがって我々の党は国の均衡を遮るものがあればいつでも立ち上がり、人民を信じ、すべての国難を打開していくでしょう。
つねに我々の人民はわが党に感謝してきてくれましたが、感謝の挨拶を受けるべき主人公は偉大な人民です。朝鮮人民はひたむきにわが党を奉じ、神聖な革命偉業を自らの血と汗をためらいなく捧げ、守ってくれました。
わが党が、この血のにじむ旅程をつねに勝利と栄光にできる根本的な秘訣は、他でもない朝鮮人民が党を心から信じてくださり、党の偉業を守ってくれたからです。
いつも賢明な師となり、知恵を与え、党の構想と路線を輝く現実としてくださった偉大な我々人民を離れ、どうしてわが党の栄光あふれる75年史を考えることができるでしょうか。
私は忠孝心と屈することを知らない闘志、誠実な努力により、この世の波風をすべて経験し、偉大な10月の祝日に浮かんだ人民の姿により、今後75年ではなく750年、7500年であっても党に従い、守ってくれる天のような力を全身で受け止めなくてはなりません。
団結を再び訴えた。これは北朝鮮社会にとっては大いなるよりどころだ。中朝国境地帯で脱北者を取材していると、度々「北朝鮮は皆が助け合う社会。その点は本当に本当にいいところ。中国は人と人との関係がギスギスしていて、そこに馴染めない」という話が出てくる。
最高指導者たる自らに対する忠誠へ感謝、そして”お詫び”
同志たち! 天のようであり、海のような朝鮮人民のあまりにも大きな信頼を受けてきていながら、しっかりとした報いが一度も伴わず、本当に申し訳ありません。
私は全人民の信頼のなかで偉大な首領と偉大な将軍様の偉業を奉じ、この国を率いる重責を持っているが力が足りず、人民が生活苦から抜け出せずにいます。それでも我々人民はいつも私を信じて、絶対的に信頼し、私の選択を、そのすべてを支持して受け入れてくれています。
たとえそれがより大きな苦労を覚悟することだとしても、我々の党に対する人民の信頼はいつも無条件で不動のものになっています。こうも強く、真正なる信頼は、私にとっていかなる名誉にも代えがたい、数万の軍でも触れることのできない、最も大切な宝であり、無限大の力です。
我々人民の天のような信仰を守る道には、たとえ体が引き裂かれ、壊れたとしても、その信念だけは命まで捧げても無条件で守るところであり、その信仰に最後まで忠実であることも今一度この場でお答えします。
再び人民への謝罪が飛び出した。「偉大な首領と偉大な将軍様」とは先代のこと。
- 演説中の様子を報じる聯合ニュース。「謝罪と結束」を見出しに入れた。
軍事力の存在意義とその成長
我々党は、すでに朝鮮人民(それ自体)が尊厳であり、命である社会主義をしっかりと守り、朝鮮人民が永遠に戦争を知らないこの地で子々孫々繁栄することができ、(そして)平和守護のための最強の軍事力を確保しておきました。
威風堂々と整列した今日の閲兵隊伍は、労働党が自らの革命軍隊をどのように育てたのか、その軍隊の威力がどれだけ強いか、直線的に知られるようにするものです。わずか5年前、まさにこの場所で行われた党創建パレードと比較してみると、誰しもがよく分かるでしょう。
我々の軍事力は大きく変化し、その発展の速度を誰でも簡単に計ることができるでしょう。我々は、自らの党が革命思想で武装し、自らの革命の利益に全的に賛同し、充実した強力な国防科学技術の大軍を持っています。
我々の軍事力は、誰も超えたり、触れることのできないほど発展し、変化しました。我々が直面している、または接しているどんな軍事的脅威も十分制御管理することができる抑止力を備えています。
我々の軍事力は、我々式の、我々の要求どおりに、我々の時刻表どおりに、その発展速度と質と量が変わっています。
わが党は、国家と人民の自主権と生存権に触れたり脅威を与えうる勢力に対しては先制的に制圧できる軍事能力を、確実にかつ強固に国の防衛力として規定し、その実践を軍事力の保持すべてを尽くしてきた今、この瞬間も不断の更新目標を有しています。
- この日披露されたICBMについて報じる韓国メディア。
軍事力行使の指針
我々は、敵対勢力によって継続的に加重された核の脅威を包括するすべての危険な試みと、脅迫行動を抑制し、制御管理するために、自衛的自己防衛手段としての戦争抑止力を引き続き強化していきます。
国の自主権と生存権を守り、地域の平和を守ることへの貢献は、決して我々の戦争抑止力の悪用や先制攻撃には繋がりませんが、もし、なんらかの勢力が、我々の国の安全を閉ざすのであれば、(あるいは)我々を狙って軍事力を使用しようとするのなら、我々の最も強力な攻撃的な力を先制的に総動員して報復するでしょう。
私は、我々の軍事力が誰かを狙うことを絶対に望んでいません。我々は誰かに狙いを定め、戦争抑止力を育まないことを明らかにします。
我々自身を守ろうとして育てるのです。力がないのなら、両方の拳を駆使してでも流れる涙と血を拭くばかりにならなくてはなりません。
わが党は、強力な軍事力で国の主権と我々の領土の信頼できる安全性を確保し、国家と人民の永遠の安寧と平和と未来を守っていきます。
- 韓国のYTNは「戦争抑止力を強化」というくだりを強調し、この演説を報じた
来年1月に予定される党大会への抱負
同志たち! 朝鮮労働党の革命思想で武装し、祖国と人民に無限の忠孝があり、我々人民の力と精神が込められた強力な最新兵器で装備した革命武力があります。
そのため、あらゆる侵略勢力も絶対に神聖なる我々の国を見下すことができません。人民のこれから進む道を阻止することもできません。
今、残されたことは、我々の人民がより苦労を知らず、豊かで文明的な生活を存分に享受することです。
わが党は、人民の福利を増進させ、より多くの利益をもたらしてくれる優れた政策と施策を変わらず行い、絶えず成長していくものであり、人民が夢の中でも描く復興繁栄の理想社会を最大限早く実現させるでしょう。
今までわが党は、過酷な苦難の中で人民と生死運命を共にしながら、そして我々人民の団結した力を体得する過程を通じ、今後、我々が何をすべきかについても知ることとなりました。
朝鮮労働党第8回大会は、その実現のための方略と具体的な目標を提示することになり、人民の幸福を整えていく我々の党の闘争は、新しい段階に移行することになるでしょう。
来年1月にも開催が予定される、国家の一番大きな会議に言及。新たな時代に向かう、とした。
- 2016年開催時の様子
「党中央委員長」としての今後への決意
我々が立ち上がるほどに、あらゆる反動勢力がより猛威を振るい、予期しなかった難関も襲いかかりえますが、これまで我々が経験した試練に比べれば何でもなく、我々には、そのすべてを撃破する力があり、自尊心があります。
闘争路線で踏み鳴らされた党と人民大衆の一致団結があり、我々の社会主義が育て上げ、準備した人材能力と自立の土台は、明らかに我々の前進を推進し、加速する強力な力として作用するでしょう。
他者(他国)が経験したことのない無数の苦難と試練の峠を越えてきて、他者が想像もできないことをすべてやり遂げた、わが党と人民は、より大きな勇気と信念と大いなる熱意と覚悟をもって、新たな発展と繁栄への進軍を開始します。
我々の人民のために、人民に良い明日を抱かせるために、無尽の苦労をしながら働いていくべく、なおさら厳しい要求性を提起し、闘争するようにします。朝鮮人民の理想は偉大であり、その理想が実現する日は必ず来ます。
偉大なその理想が実現することに総力を尽くしていくことで、社会主義建設のより高い目標を占領していく道において、誰もが体感できる革新と発展、実質的な変化を遂げてまいります。
同志たち! 我々は強くなり、(そして)試練の中で、さらに強くなっています。時間は我々の側にあります。すべての社会主義の輝く未来に向かって新たな勝利を勝ち取るため、力強く戦っていきましょう。
最後に、もう一度、全人民が無病息災でいてくださることに対する感謝の挨拶を謹んでいたします。そして変わらずわが党を信じてくださる気持ちに、心から感謝申し上げます。
偉大なる人民 万歳!
- 「聯合ニュース」より。聴衆に手を振る金正恩氏。演説を終えた直後か。
(了)