記者の取材活動を通報した当局者を表彰する中国とは?
中国の地方の当局者が、中国のマイナス面を報道する海外メディアの活動を通報し、国から表彰されたという。今年のノーベル平和賞が2人のジャーナリストに贈られ、世界が賞賛した事実に背を向け、中国は「報道の自由」を一層締め付けようとしているようだ。
取材活動を通報した者が表彰される国って?
表彰されたのは貴州省にある畢節市の当局者だという。
中国メディアが報じた発表内容によれば、同市の幹部は、「海外の反中メディアが市内に潜入して違法の取材をし、脱貧困の取り組みに関するマイナス面を報道し、海外で騒ぎ立てた」ことを通報した。国家の安全への危険を取り除いたなどとして、国家安全部と貴州省の国家安全庁から表彰されたという。
脱貧困とは、中国が共産党の創建100年となる今年までに達成を目指していた政治目標。2月には習近平国家主席が、「脱貧困の取り組みに全面的に勝利した」と演説し、中国から貧困が消滅したことを宣言していた。
中国のメディアは、反中として通報された海外のメディアが、アメリカの公共ラジオ局NPRと見ている。
報道内容が政府主張と違うから通報?
NPRのホームページには、確かに今年4月、畢節市発のクレジットで「中国は貧困が終わったと言うが、本当か?」という、北京特派員エミリー・フォン氏による記事が掲載されている。
フォン氏は、数人の住民を取材している。もともと住んでいた畑のある家を離れ、政府に当てがわれた新しい家に移り住んだという住民は、約束された仕事などが与えられず、「騙された」と話す。中国メディアは、フォン氏が、住民の声の一部を曲解し、脱貧困の達成に疑問を投げかけている、などと断じている。
この「表彰」という妙なニュースを、中国で活動する海外メディアはもとより、民主主義国家は軽視すべきではない。
民間企業が報道事業へ携わるのを禁止
中国でメディアは党の「喉と舌」と呼ばれる役割を担う。すなわち宣伝機関だ。政府や党が、「貧困を克服しました」と言えば、それを喧伝するのが中国の官製メディアだが、日本を含めた西側のメディアなら、当然ながら「それは本当か」と検証を試みる。だが、今後、中国でそれをやれば「違法な取材」で「国家の安全に危害を与える」と解釈される危険がある、と読み取れる。
中国では、先週8日、国家発展改革委員会が、民間企業の新聞社やネットニュースなどの報道事業への参入を禁じる規制案を発表し、各界からの意見を募集している。目的は、報道の管理強化だろう。
中国メディアは、権力に対峙してノーベル平和賞を獲得した2人のジャーナリストの詳細を報じていない。今、中国が更に報道の統制を強めようとしている不穏な空気が漂う。