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サモア代表戦。前日にジョーンズHCとは…ワールドカップ取材日記4【ラグビー雑記帳】

向風見也ラグビーライター
サモア代表戦時のジョーンズヘッドコーチ(写真:アフロ)

ラグビーワールドカップのイングランド大会が9月18日~10月31日まであり、ニュージーランド代表が2大会連続3回目の優勝を果たした。日本代表は予選プール敗退も、国内史上初の1大会複数勝となる3勝を挙げ、話題をさらった。

以下、日本テレビのラグビーワールドカップ2015特設サイトでの取材日記を抜粋(4)。

【10月1日】

日本代表はこの日、2日後のサモア代表戦のメンバーを発表。ラグビーのルール上、メンバー発表は48時間以上前と決まっています。ジャパンのエディー・ジョーンズヘッドコーチはきっかり、48時間前にアナウンスします。

「ワールドカップで最も大切な試合です。パワフルなサモア代表と対戦します。最も強いチームを構成できました。過去最高の経験値を誇ります。怪我の選手もいます。今週、十分な練習を出来なかった選手もいます。でも、それはワールドカップを考えたら当たり前のことです。3戦目です。他のチームには怪我で帰国する選手もいます。ただ、ジャパンは31人全員で土曜にしっかりと戦えます。大きな目標があります。最初の60分しっかり戦って、最後の20分、いい形で帰って来れます。選手たちはこのチャレンジを楽しみにしています。緊張感もあります。以上です」

ボスは、いつものように整理されたメッセージを発します。

チームは生き物です。スコットランド代表戦からサモア代表戦に至るまで、多少、集中力のアップダウンが見受けられたようです。9月28日の午前中。フランカーのリーチ マイケル主将ら数名は「エディーから、朝(のミーテにもィングで)、集中しよう、と言われた」と話しています。加えてフルバックの五郎丸歩副将は、こうです。

「歩きながら動きを確認する練習で、バックス陣だけ『クオリティーが低い』と…。ここはぐっとこらえて…」

夜は、ミルトンキーンズ・スタジアムmkでのフランス代表対カナダ代表(予選プールD)を観戦。初めて、ウォリックのスポーツバーで。41-18。カナダ代表の激しい衝突を真に受けながらも、フランス代表はスペースを見定める余裕を保っていたような。

【10月2日】

午後。電車に揺られ、ミルトンキーンズ・mkスタジアムへ行きます。ブリットレイルパスという「国外出身者に限り、1か月国鉄乗り放題」チケットが効果を発揮します(こちらも出国から約数週間前の購入がおススメ)。道中、某通信社ラグビー担当記者の方と出会います。話題は、この日、海外通信社が発表した「フランス、8強一番乗り」というニュースについてです。そのニュースが誤報だったからです。ワールドカップ予選プールの勝ち点争い、私のような算数の苦手な記者にとっては難儀なものです。

その勝ち点争い。ジャパンも渦中にありますね。以前の日記にも記しましたが、「残りの2試合を全勝しても決勝トーナメントに行けない可能性あり」「上位争いをするチームが取っているボーナスポイント(4トライ以上獲得、7点差以内の敗北でそれぞれ1ポイントずつ)を、ジャパンが取っていないから」という論旨です。私も、その関連事案に関する原稿依頼を受諾しました。

もっとも当事者はこうです。

「勝たないことには始まらないので。我々はチャレンジャーですから、そういうことを言える立場にない」

いまやすっかり時の人、五郎丸歩副将の弁です。そうです。参加する予選プールBに参加する各チームを客観的に観て、2日時点での勝ち点順に並べると、こうなります。

・スコットランド代表=欧州6強の一角。今大会では事前準備が奏功し、スクラムハーフのグレイグ・レイドロー主将を軸に立体的な攻撃が機能。挑戦者チームから順当に白星得る。

・南アフリカ代表=過去2回王座に就いた、力強き優勝候補。が、初戦で予想外の黒星。センターのジャン・デヴィリアス主将は途中離脱。

・日本代表=24年間ワールドカップ未勝利のアジアの島国。ところが、初戦で優勝候補を倒す大活劇を演じた。

・サモア代表=大会前は絶対王者ニュージーランド代表とも好試合を演じた、環太平洋の雄。欧州や南半球から職業選手を集め、抜群の破壊力としなやかさを兼備。大会前は「予選プールBで南アフリカ代表の次に力がある」と識者評。

・アメリカ代表=お国柄もあって、国際大会で無類の結束力を示してきたフィジカルチーム。国内リーグが急ピッチで整備されるなど、競技の普及度合いも右肩上がり。

8強入りに向けて星勘定云々を考えてきた歴史もなければ、勝敗以外のことを考慮に入れてワールドカップのゲームを勝った経験もありません。そういうチームにとっては、「勝ち点を考えない」ことが勝ち点を得る最大の方策であることは想像がつきます。

到着。前日練習を取材。その後の会見にはエディー・ジョーンズヘッドコーチとプロップ畠山健介選手、さらにはセンターのマレ・サウ選手が登壇します。

挙手。マイクを受け取ります。

――9月28日の午前中、選手に喝を入れたようですが。

「…何のことを言っているのか、わかりません」

まずい空気が流れます。

指揮官と通訳の佐藤秀典さん、続けます。

「私はいつも選手と話をしていますが」

改めて申し上げますが、ここは公式会見の場です。他の同業者が横並びで座っているなか、汚い言葉で表せば「タイマン」ですごまれる…。なかなかの圧力を受けます。小学校の教室で担任教諭に怒鳴られることなど、屁でもありません。こういう時は、周りの座席を見回さないこと。そこで嘲笑する人間の顔などを見てしまえば、それこそ心が乱れます。もう、怒っている(かもしれない)登壇者の顔を見るしかないわけです。

こちらも後には引けません。せめて相手が話を切り上げるまで、粘るしかないわけです。

――喝を入れた、と、そういった証言があるのですが…。

「ビデオテープでも、あるのでしょうか?」

はい。ありません。

「選手がそう言われたというなら、選手に聞いてみたらどうですか」

お。これは助け舟か。隣には2人の選手がいます。ちらりとそちらを見やります…。

…。

…。

下を向かれておいででした。

【10月3日】

ミルトンキーンズ・スタジアムmk。日本代表は、サモア代表との予選プールBの第3戦を制しました。

しかし、ボーナスポイントは、取れませんでした。分水量は終盤の一連の動きにありました。

ジャパンが2トライを奪って26-0で迎えた、後半20分。敵陣中盤でのサモア代表のペナルティーを受け、リーチキャプテンはラインアウトを選択します。トライを奪うためです。敵陣ゴール前で球を繋ぎます。

しかし、攻め込んだ先で球を失います。ジャパンがしっかりボールを保護したはずの接点へ、サモア代表が猛プレッシャー。遠いところから稲垣啓太選手が援護に入ろうとしますが、「間に合わなかったですね…」。ターンオーバー。リーチキャプテンのタックルもかわされます。24分、26-5。点差は21点。トライと直後のコンバージョンを3つ決めれば、サモア代表が追いつく点差です。

ここで、リーチの脳裏にはあるイメージがよぎります。

「サモア代表は、一発でポン、ポンとトライを取れる」

下手に攻め込んで、もし、球を失えば、さらに点差は詰められるだろう。周りのフォワード陣を見渡せば、スクラムとモールと接点でかなり消耗しているではないか…。

スクラムハーフの田中史朗選手は「トライを」と考えましたが、リーチ主将は現実路線を取りました。

「ショット」

結局、追加点はなく、26―5のスコアでノーサイドの瞬間を迎えました。

「前だったらその決断に誰かが文句を…という部分もあったかもしれないけど、今回はしっかりとリーチについていくと決めていた」

とは、田中選手の弁です。

「(ペナルティーゴールが外れた時のために)しっかりとチェイス(弾道を追う動き)をしよう、と言い合えた。ここはジャパンの成長した部分かなと思います。彼が、キャプテンなので。今回はワールドカップだし、いまは彼を中心にコミュニケーションが取れているので。最初、何人かは『この時間帯ならトライを狙いたいな』と言っていたのですが、逆に、リーチは『ショット』と」

ここ4年間は「日本ラグビーのために」と自分の思いを発信し続けましたが、大勝負が近づくにつれ、意識を変えていました。

自分の意見より、チームの意見で動く。

実際にどう思っているかはともかく、チームの意見を自分の意見だと言い切る。

言い切ろうとする。

負けてファンを悲しませたくないから、何より自分も負けたくないから、時には自分の意見を封印する。

「ショット」と語った人も、「ショット」を聞き入れた人も、覚悟を持っていました。

ラグビーライター

1982年、富山県生まれ。成城大学文芸学部芸術学科卒。2006年に独立し、おもにラグビーのリポートやコラムを「ラグビーマガジン」「ラグビーリパブリック」「FRIDAY DIGITAL」などに寄稿。ラグビー技術本の構成やトークイベントの企画・司会もおこなう。著書に『ジャパンのために 日本ラグビー9人の肖像』(論創社)『サンウルブズの挑戦 スーパーラグビー――闘う狼たちの記録』(双葉社)。共著に『ラグビー・エクスプレス イングランド経由日本行き』(双葉社)など。

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