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震災から3年 被災地の今は?

大西連認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい 理事長

震災から3年 被災地の今は?

4月23日(水)、院内集会『震災から3年 被災地の生活困窮者支援を考える』がおこなわれました。

報道等もされましたが、集会の内容について、以下に簡単にご紹介します。

もやいHPにもアップしています

●毎日新聞 東日本大震災:被災地の貧困「女性が深刻化」研究者が報告

●NHKニュース 被災地で進む貧困 支援考える集会

■基調講演:丹波史紀氏(福島大学准教授)

丹波さんは福島大学准教授でもあり、うつくしまふくしま未来支援センターの地域復興支援担当マネージャーも務めていらっしゃいます。

丹波さんからは、福島の事例などを中心に、震災から3年を経て、いま人々の暮らしの再建が進んだのかどうか、さまざまな統計を参照しながら解説していただきました。

特に例えば、

・福島市の今年度の一般会計が全体で1800億円であるもののうち、除染費用が870億円で、自主避難の機関による公営住宅の整備費が4億円(20戸)であるなど、ハード優先の支援がおこなわれていること

・震災後、統計的にも家族が離散したり、ばらばらになっている傾向が強まっていること

・また有効求人倍率は回復しているものの、パート労働などは減少し、男性と女性では特に女性の失業者が増えていること

など、被災者支援がハードによっていること、また、より弱い状況にある人が、より困窮している状況について話されました。

また、「震災によって引き起こされた課題」と、東北地方や日本全体が抱えていた高齢化や医療介護体制の脆弱さなどの「震災以前からの課題」が絡み合って、生活困窮の問題が複雑化・進化していること、そして、4年目以降には「復興格差」と「医」「職」「住」の支援と個人の尊厳を大切にした支援が課題であると 報告されました。

■各団体からの報告

第2部では各団体からの活動紹介や、現地でのニーズ、見えてきた課題等についての報告をおこないました。

★仙台POSSE 渡辺寛人氏

仙台POSSEは、仙台市の仮設住宅への生活支援、就労・就学支援をおこなっている団体です。先日、東北学院大学の佐藤滋ゼミと共同で行った仮設住宅にお住まいの方への聞き取り調査の結果についてお話しいただきました。

仮設住宅にお住まいの方への調査では、

・震災後、単身世帯が急激に増加していること

・世帯収入が179万円とかなり低く、最低生活費を下回る世帯が約3割にものぼったこと

・一方で、最低生活費を下回った世帯で生活保護を利用しているのは約25%でしかないこと

・仮設入居後に健康状態が悪化している方が全体の68%に及ぶこと

などの報告がありました。

このように、仮設住宅に住んでいる方の生活状況は、より厳しくなってきているものの、生活保護制度への抵抗感が強く、結果的に必要な人が支援につながれていない現状について、お話いただきました。

★ビーンズふくしま 中鉢博之氏

ビーンズふくしまは、仮設住宅等で生活する子どもたちへの学習支援や遊びのプログラムを展開し、大人も巻き込みながら地域コミュニティの再生を目指して活動しています。また、福島県や自治体と協働し、子どもの心のケアにも力を入れている団体です。

福島からの避難生活を余儀なくされている母親の声として、

・依然として高い放射線量のなか、この生活がいつまで続くのかという不安の声

・長期化する避難生活の中で避難したことが本当に正しかったのかなど、自分の判断に自信が持てないという声

など、実際に支援をおこなうなかで、さまざまな声が寄せられていると紹介がありました。

また、福島の仮設住宅で生活する子どもたちを取り巻く課題として、

・再開した学校、再開できない学校など区域外就学の課題

・集団活動や部活動実施の困難さやスクールバスでの長距離通学の負荷

・避難生活のストレス、家族の分断、親の失業など、親そのものが抱えている課題

などが見られ、それを解決するために室内遊び場や県内外での保養プログラムなどの、さまざまな活動や、子どもたちの居場所作りの必要性について提起がありました。

★Save the Children Japan(SCJ) 津田知子氏

SCJの津田さんからは被災地で展開している各事業について報告がありました。

SCJは、震災後すぐに緊急支援として子どもたちの給食支援や学校備品の提供などの活動をおこなったほか、その後は、学童保育のサポートなどのハード面での支援をおこないました。

また、2011年5月~6月に岩手・宮城両県5地域の小学4年生から高校生約1万1千人を対象に実施した「Hear Our Voice 1~子ども参加に関する意識調査」では、被災地域の子どもたちの約9割が「自分のまちのために、何かしたい」という回答したことをうけ、地域の一員である子どもたち自身が声を上げ、参加することで良いまちを作ることをめざし、子どもたち同士で自分たちのまちについて考えるワークショップや場の提供など、さまざまな活動を展開しています。

そして、民間団体の活動として特筆するべきは、農林水産高校に通う子どもに給付の奨学金を提供する活動をおこなっていることがあげられます。

被災地で、地域の一員でありながら、声をなかなかあげられない、聞く耳を持って貰いづらい子どもたちを主役にして、地域のまちづくり・コミュニティ作りを考える活動など、先駆的な活動とその効果が紹介されました。

★よりそいホットライン 山屋理恵氏

よりそいホットラインは2012年3月11日にスタートした電話相談事業です。

24時間365日の無料電話相談として、生活の相談だけでなく、DVや性暴力など女性の相談、セクシャルマイノリティ、自殺予防、外国語での相談など、どんな相談でも受け付けています。

現在、一日に約5万件近くにものぼる相談が寄せられているとのことで、多くは、病気や障害に悩んでいたり、家族との関係性でトラブルを抱えていたり、生活困窮されているなどの課題を、複数かかえてダイヤルして来られる方が多いということです。

山屋さんからは、特に被災地でのダイヤルについて報告がありました。

被災地では特に「死にたい」という相談が多いということで、他の地域の倍以上、自殺対策のダイヤルに相談が寄せられていると言います。

電話相談は匿名であるということもあり、被災地で生活する方の孤立や、生活苦の問題が、結果的によりダイレクトに寄せられている実態があること、そういった人々を、よりそいながら支えていく仕組みが何よりも大切であることが報告されました。

★世界の医療団 小綿一平氏

世界の医療団は被災地では、こころのケアに力点を置いた支援をおこなっています。精神科医の小綿さんから報告がありました。

参照:支援者たちの「証言」(世界の医療団の3年間の被災地支援レポートより)

震災後、南相馬市では原発事故による影響で一時的に精神科病院が閉鎖を余儀なくされ、ボランティア医師などを中心に、外来と避難所の往診をリレー方式で対応していた時期がありました。

こうした経過を経て、現在は福島県立医科大学精神科教室が中心となりNPO法人を立ち上げました。精神科の外来診療をおこなう「メンタルクリニックなご み」と、各種サロンやアウトリーチ活動をおこなう「こころのケアセンターなごみ」。ふたつを県の支援をうけながら運営し、活動しています。

寄せられる相談のなかからは、震災後に転居や転職をよぎなくされ、新しい住居や職場環境にうまくなじめずに適応障害を来してしまった方や、パニック障害のような症状に悩まされてしまう方など、環境変化や失業や家族離散、震災で大切な人を失ったショックなどにより、精神的に追いつめられてしまった方が多数みられると言います。

こうした現状から、経済的な支援と同時に、精神的なケアを長期にわたって粘り強くおこなっていくことが、いま必要なことなのではないか、という提起がありました。

■報告&パネルディスカッション

第三部では、パネルディスカッションがおこなわれました。

★パーソナルサポートセンター(PSC) 菅野拓氏

パーソナルサポートセンター(PSC)は、仙台の仮設住宅を中心に、よりそい型・伴走型の生活支援や見守りをおこなっている団体です。

2012年に仙台市の仮設住宅にお住まいの方におこなった調査によれば、

・障害手帳所持の家族がいる世帯が約18%にのぼること

・要介護認定・要支援認定を受けている家族のいる世帯が約16%にのぼること

・世帯所得が150万円未満の世帯がプレハブ等で2011年度で38.4%、借上げ民間住宅で27.8%もいること

・世帯員の就業形態がプレハブ等では正社員が27.4%、借上げ民間では37.7%にとどまること

であると言います。

ここからわかるのは被災地ではより困難な状況の方が仮設住宅に残らざるをえなくなっていることです。さらにこの調査自体は2012年のものなので、現在はその傾向がより加速している恐れがあります。

PSCでは、昨年成立した生活困窮者自立支援法のモデル事業を活用し、被災地での就労支援等をおこなって、支援の輪を広げるべく活動を展開しています。

★しんぐるまざぁず・ふぉーらむ 赤石千衣子氏

赤石さんからは、被災したシングルマザーへの調査の報告と、被災地でのシングルマザーの置かれている状況について、お話がありました、

参照:復興政策や福祉政策からこぼれ落ちる被災地のシングルマザーたち 悪化する「貧困」と「孤独」

もともと、シングルマザーのおかれている生活環境は厳しく、東北では特にギリギリの暮らしの方たちが多く、そこに震災が重なり、失業の問題や保育環境の問題など、これまで以上に苦しい生活を送っている方がみられるとのことです。

また、シングルマザーに限らず、女性の視点での支援はなかなか展開されず、例えば、震災後に夫のDVなどの新たな困難を抱えてしまう方など、女性が置かれている状況が、より厳しくなってきています。

そういったシングルマザーや情勢たちを支援していくためにも、当事者団体などを育成し、地域の課題を自分たちで提起、解決できるようにしていくことが必要だったり、その人その人のレジリエンス(元に戻る力)を支えていくことが必要である、と提起されました。

★福島の子どもたちを守る法律家ネットワーク(SAFLAN) 河崎健一郎氏

SAFLANの河崎さんからは、被災された方のこれからを考えるキーワードについてお話しいただきました。

参照:【SYNODOS】「被曝を避ける権利」を求めて/河崎健一郎×荻上チキ

災害救助法に基づく借上げ住宅の支援が今後切れてしまう可能性がある中で、いかに、支援を継続させていく枠組みを作るか、また、制度を整備していく必要があるかと言うことについてお話がありました。

また、同じく「原発事故子ども・被災者支援法」が成立したが、実際には

・対象となる地域がせますぎること

・被災者向けの支援施策が皆無に近いこと

・国の責任での健診・医療の検討が全く進んでいないこと

などの問題があることや、定め方にも

・パブリックコメントの内容が反映されていないこと

・自治体や地方議会の声についても反映されていないこと

・被害当事者が政策決定に参加できていないこと

などの問題があるとの指摘がありました。

今後も、まず住宅問題として災害救助法の延長などの対策を行うことや、予算を定めて具体的な事業を実施していくこと、当事者の声を届けていく仕組みづくりが必要であるとのお話がありました。

★自立生活サポートセンター・もやい 稲葉剛

もやいからは理事長の稲葉が登壇しました。

稲葉からは、被災地での、生活保護の相談に訪れた人のうち、実際に申請した人の割合、及び、実際に生活保護が決定した人の割合が、全国の平均と比べて低いという指摘がありました。

その理由として、持ち家や土地、車など、被災地では所有が必須の資産があることによって、本来、生活保護を利用できる状況にあっても、利用をためらってしまったり、誤解や行政の窓口での違法な対応等により、制度利用に至る方が少ないのではないか、という分析がありました。

また、昨年成立した生活困窮者自立支援法によって、就労支援等の施策は全国的に整備されるものの、実際に一人ひとりを支える現金給付の制度がなかったり、 就労が難しい状況の方への支援が手薄になっていることなど、問題が多くなっていること。

さらに住宅支援の政策である住宅手当・住宅支援給付を見ても、就職実績はあがっているが、新規申込者が減っている現状から、広い意味での生活困窮者支援施策のはずが、結果的に実績を上げるために対象者を選別し、区切っている傾向があること。

そしてそれらは、本来の意味での生活困窮者支援としては不十分なものである、との指摘がなされました。

※もやいとしては、正しく生活保護制度を知ってもらったり、必要な人が利用できるように、『困ったときに使える 最後のセーフティネット活用ガイド』を作成し、被災地でも配布する予定です。

■まとめ

震災から3年がたち、社会的な関心も公的な資金や民間団体等の取り組みも減っていくなかで、いま被災地に起きていることは何なのか。また、必要なものは何なのか。約3時間の長丁場となりましたが、考える場にできたかなと思います。

各団体の報告からは、より社会的なリスクが高い方(高齢・傷病障害・母子等)が結果的に被災地で孤立し、生活困窮に陥っている実態がみてとれます。

本来、彼ら・彼女らを支えるべく既存の制度では何が使えて、何が足りないのか、何が必要か、より精査する必要があるでしょう。

また、忘れてはいけないのは「震災によって引き起こされた課題」と「震災以前からあった課題」のどちらに対しても支援や対策が必要であるという視点です。

たとえば、SCJの被災3県の農林水産高校に通う子どもたちに給付の奨学金を提供する取り組みなど、制度化して全国でおこなわれたら素晴らしいものだと思います。

しかし、かといって、そういった全ての取り組みが全国一律に整えられればそれでいいのかというと、必ずしもそうではないかもしれません。そこには地域の事情があり、被災地・被災者特有の問題が存在し、必ずしも画一的な解決方法が見いだせない可能性もあります。

ですから、必要な「インフラ」としてのセーフティネットと、メニューを増やす「オプション」としての支援との、双方が求められています。そして、普遍的な制度としての生活保障はそういった「オプション」とは別に確かなものとして整えられていくことが必要です。

ですから、いかに「震災以前からあった課題=日常」に対応するセーフティネットを恒常的にはりめぐらせるのか。その上で「震災によって引き起こされた課 題=緊急・個別事態」に対応する、地域や状況に応じた多種多様な支援施策を柔軟に整備することができるのか。

どちらか一方によることなく、その上でそこで生きる人々の声が反映されていなければ意味がないものになってしまうと考えます。

最終的には、これらの課題は行政とNGO・NPO等が連携し、どういった施策や取組を展開できるか、(各団体の報告にもありましたが)地域のなかで当事者主体の議論のなかで、どうコミュニティを作っていけるのか、というところに収斂されていくのではないかと思います。

被災地の「いま」からは、高齢社会、過疎化、医療・介護不足等の、全国の自治体で起きている、もしくは今後引き起こされるあらゆる社会問題を垣間見ることができます。

彼ら・彼女らの「日常」をどう支えていくことができるのか、また同時に、それぞれの地域やコミュニティが抱える個別の事情や問題について、いかにコミットしていくことができるのか。

震災から4年目をむかえ、いま私たちが取り組むべき課題があらためて見えた3時間となりました。

(大西連)

認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい 理事長

1987年東京生まれ。認定NPO法人自立生活サポートセンター・もやい理事長。新宿での炊き出し・夜回りなどのホームレス支援活動から始まり、主に生活困窮された方への相談支援に携わっています。また、生活保護や社会保障削減などの問題について、現場からの声を発信したり、政策提言しています。主著に『すぐそばにある貧困」』(2015年ポプラ社)。

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