アウシュビッツの"死の天使"に愛された生存者の証言を元にした映画「メンゲレと私」
「ホロコースト証言シリーズ」の第3弾の映画「メンゲレと私」が2023年12月3日より東京都写真美術館ホールほか全国で公開される。予告編が公開された。
第1弾「ゲッベルスと私」、第2弾「ユダヤ人の私」に続く3部作で構成。1本につき1名の証言者が異なる立場から戦争の記憶を語る。「メンゲレと私」の語り部はリトアニア出身のユダヤ人、ダニエル・ハノッホ。12歳でアウシュヴィッツ絶滅収容所に連行された彼は、金髪の美少年だったことから“死の天使”と呼ばれる医師ヨーゼフ・メンゲレの寵愛を受け、特異な収容所生活を送る。予告編にはハノッホが見た真の“地獄”、その一片が収められている。
▼「メンゲレと私」
ホロコーストの記憶のデジタル化としての「メンゲレと私」
ホロコーストを題材にした映画やドラマはほぼ毎年制作されている。今でも欧米では多くの人に観られているテーマで、多くの賞にノミネートもされている。日本では馴染みのないテーマなので収益にならないことや、残虐なシーンも多いことから配信されない映画やドラマも多い。たしかに見ていて気持ちよいものではない。
ホロコースト映画は史実を元にしたドキュメンタリーやノンフィクションなども多い。実在の人物でユダヤ人を工場で雇って結果としてユダヤ人を救ったシンドラー氏の話を元に1994年に公開された『シンドラーのリスト』やユダヤ系ポーランド人のピアニスト、ウワディスワフ・シュピルマン氏の体験を元にして制作され2002年に公開された『戦場のピアニスト』などが有名だ。史実を元にした映画は欧米やイスラエルではホロコースト教育の授業で視聴されることも多い。
「ホロコースト証言シリーズ」の第1弾「ゲッベルスと私」、第2弾「ユダヤ人の私」、第3弾「メンゲレと私」は実際にホロコーストを経験した生存者らの証言を元にしたドキュメンタリーでノンフィクションである。
一方で、フィクションで明らかに「作り話」といったホロコーストを題材にしたドラマや映画も多い。1997年に公開された『ライフ・イズ・ビューティフル』や2008年に公開された『縞模様のパジャマの少年』などはホロコースト時代の収容所が舞台になっているが、明らかにフィクションであることがわかり、実話ではない。
戦後約80年が経ち、ホロコースト生存者らの高齢化が進み、記憶も体力も衰退しており、当時の様子や真実を伝えられる人は近い将来にゼロになる。ホロコースト生存者は現在、世界で約24万人いる。彼らは高齢にもかかわらず、ホロコーストの悲惨な歴史を伝えようと博物館や学校などで語り部として講演を行っている。当時の記憶や経験を後世に伝えようとしてホロコースト生存者らの証言を動画や3Dなどで記録して保存している、いわゆる記憶のデジタル化は積極的に進められている。
「メンゲレと私」では91歳になるダニエル・ハノッホ氏が当時の記憶と経験を語っているが、「ホロコースト証言シリーズ」のドキュメンタリー映画はホロコーストの記憶のデジタル化の重要で貴重な1つの動画である。
デジタル化された証言や動画は欧米やイスラエルではホロコースト教育の教材としても活用されている。ホロコースト映画をクラスで視聴して議論やディベートなどを行ったり、レポートを書いている。そのためホロコースト映画の視聴には慣れている人も多く、成人になってからもホロコースト映画を観に行くという人も多い。またホロコースト時代の差別や迫害から懸命に生きようとするユダヤ人から生きる勇気をもらえるという理由でホロコースト映画をよく観るという大人も多い。
世界中の多くの人にとってホロコーストは本や映画、ドラマの世界の出来事であり、当時の様子を再現してイメージ形成をしているのは映画やドラマである。その映画やドラマがノンフィクションかフィクションかに関係なく、人々は映像とストーリーの中からホロコーストの記憶を印象付けることになる。