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浦和が女子ACL3連勝。見据える優勝の“その先”と、欧州に見るアジア発展の必要性

松原渓スポーツジャーナリスト
女子ACL優勝を目指す浦和レッズレディース(写真提供:WEリーグ)

【3連勝でノックアウトステージへ】

 アジア女子クラブの頂点を決める第1回女子AFC 女子チャンピオンズリーグ。そのグループステージが、10月6日にベトナムで開幕した。AFC(アジアサッカー連盟)からは、今大会に21カ国が参戦。日本からはWEリーグ昨季王者の浦和が出場し、予選ステージを経て、計12チームでグループステージを戦った。

 浦和は、10月7日の初戦でオディシャFC(インド)を17-0で粉砕。前半5分の遠藤優の先生弾を皮切りに、流れの中から15得点、セットプレーからも2得点。相手に守備の的を絞らせず、幾度となくエリア内に進入。塩越柚歩がハットトリック、伊藤美紀は4ゴールを決めるなど、完膚なきまでの差を見せつけた。

伊藤美紀(写真提供:WEリーグ)
伊藤美紀(写真提供:WEリーグ)

 中2日で臨んだ9日の第2戦は、チャイニーズ・タイペイ国内で5度の優勝を誇る台中ブルーホエールWFCに2-0で快勝した。先発メンバー7人を入れ替えた浦和は、相手の堅守をこじ開けるのに苦労したものの、55分に後藤若葉が得たPKを塩越が決めて先制。さらに、70分には丹野凜々香のゴールで2-0。ピッチ状態が悪い中でも、粘り強い試合運びで貫禄を示した。

 2連勝でノックアウトステージ進出を決め、12日の第3戦は、同じく地元の強豪・ホーチミン・シティ(ベトナム)と首位通過をかけて対戦。浦和は先発メンバーを6人入れ替え、アウェーの雰囲気の中で押される場面もあったが、切り替えの速さで圧倒。25分に島田芽依、50分には角田楓佳が詰めて2-0。首位通過を決め、3月の準々決勝(シングルマッチ)をホームで戦えるアドバンテージを得た。

 他グループでは、グループAの韓国(仁川現代)、アブダビ(UAE)、武漢(中国)、グループBのメルボルン・シティ(オーストラリア)やバム・カトゥーンFC(イラン)などがノックアウトステージを決めている。

 浦和は昨年の女子ACLプレ大会でも優勝しており、ある程度予想できた結果ではあるものの、実り多き予選となった。多彩な形から21得点を奪い、全試合クリーンシートを達成。さらに、ユースから昇格したばかりの若手選手も含めた積極的な先発起用や交代策などで、チームの底上げを成功させた。

 一方、楠瀬直木監督は2戦目の後、慎重に言葉を並べ、現実を謙虚に受け止めた。

「Aグループの仁川、アブダビなどはレベルが高いです。補強しているアフリカの選手も相当いいので、(自分たちも)重装備にならないと戦えないと思います」

来年3月のノックアウトステージに臨む(写真提供:WEリーグ)
来年3月のノックアウトステージに臨む(写真提供:WEリーグ)

【女子ACLの意義。浦和の目標は優勝の”その先”】

 欧州ではUEFA女子チャンピオンズリーグ(欧州CL)が今年で24年目を迎えた。近年は、ワールドカップやオリンピックなどの国際大会に匹敵する盛り上がりを見せ、数万人の観客を集める試合もある。アジアで、同大会に相当する女子ACLがようやくスタートしたのは大きな前進だが、欧州と比較すれば興行面、競技レベルともに発展のスピードを早めていく必要がある。

 

 男子のACLで優勝したクラブには、1000万USドル(約15億円)、グループステージで敗れても1億円以上の賞金が分配される。これはカタール航空など、多国籍の大企業がスポンサーについていることも大きいだろう。また、大会王者にはFIFAクラブワールドカップ、FIFAインターコンチネンタルカップへの出場権が与えられる。

 今回の女子ACLの優勝チームの賞金総額は2億円超と言われているが、FIFA主催のクラブワールドカップについては、まだ不明瞭な部分も多い(2026年に開催されることがFIFAによって公表されているが、詳細は未発表)。

 楠瀬監督は、男子に続くアジア王者の座を狙うことはもちろん、さらに「その先」に目を向ける。

「女子ACLで優勝できたとしても、クラブワールドカップができた時に、マンチェスター・シティやバルセロナといったチームと肩を並べたい。なでしこジャパンがベスト8を突破してベスト4や世界チャンピオンになるためにも、選手がそういう意識を持ってくれないと、到達しないと思います」

楠瀬直木監督
楠瀬直木監督写真:YUTAKA/アフロスポーツ

 浦和が今大会に男女日本代表の躍進を支えてきた西芳照シェフの帯同を依頼したことは、ACLで3度の優勝経験を持つ男子のマネジメントが生かされたという。それは、レディース選手たちの意識を高めるプラス要素となったのではないだろうか。

 試合後には冷やしトマトパスタやタイカレー、すき焼きや揚げ春巻きなど、多彩なメニューが提供された。チーム広報によると、円卓でいつも以上に会話が盛り上がり、「見えないところでチームをバックアップしていただいた」という。

 多くの得点に関わった丹野は、「遠征や大会中に体重が減ってしまうこともあるが、今回は西シェフが来てくださっているので、気にせずに食べられた」と表情を綻ばせた。

【欧州の女子サッカーに見るアジア&国内リーグ発展の必要性】

 ヨーロッパは、2023年から欧州のナショナルチームによるネーションズリーグが隔年で行われており、育成年代でも各年代ごとに欧州国同士の切磋琢磨の場がある。なでしこジャパンが欧州の強豪国とのマッチメイクを組みづらくなった背景には、このように大陸内での育成・強化システムの発展がある。

 欧州とのもう一つの違いは試合数だ。欧州CL2連覇中のバルセロナ(女子)は、昨季、国内リーグやカップ戦、欧州CLを含めて51試合をこなした。女子スーパーリーグ(イングランド)王者のチェルシーは40試合。代表選手は、その合間に代表活動に参加している。欧州のビッグクラブは、強度の高い試合を数多くこなし、個を強化しているのだ。

 一方、浦和は昨季、女子ACLのプレ大会を合わせて35試合だった。女子ACL(12チーム)は、欧州CL(72チーム)とは出ているチーム数も異なるため、試合数も必然的に少なくなる。世界大会でアジア勢がなかなか上位に進出できなくなっている現状を考えても、AFCの施策強化が求められる。

 中でも、WEリーグはアジアでもトップレベルのプロリーグだ。選手の強化やリーグの発展を考える上でも、試合数と観客数のバランスは見つめ直す必要がありそうだ。

「(試合数は)もっと増えていいんじゃないかと思います。平均入場者数を考えれば、それぐらいはやらないとペイ(支出に対する収入を得る)することができないし、いろいろな人に見てもらうことも考えると、もっと試合をやらないと。選手のコンディションも考える必要がありますが、優先順位はWEリーグを活性化すること。昇降格がない状態は早く脱していかないと、魅力がなくなってしまうと思います」

 楠瀬監督が指摘するように、選手のコンディションも考える必要がある。昨季は女子ACL決勝の日程との兼ね合いで、新潟が2週間でアウェー3試合を含む5試合という過酷な日程を強いられ、ケガ人も出てしまった。

 欧州に匹敵するような試合数や強度を担保するためには、リーグ全体で予算(スポンサー料、放映権料)を増やし、各クラブの選手のバックアップ体制(人を増やすなど)を強化していく必要性も感じる。

女子ACLグループステージでは選手層の底上げを図った(写真提供:WEリーグ)
女子ACLグループステージでは選手層の底上げを図った(写真提供:WEリーグ)

【選手の海外流出にどう対応する?】

 WEリーグでは代表レベルの選手や、各チームの主力が次々に海外挑戦を表明。一方、「世界一のリーグになる」ことを掲げるWEリーグには、トップレベルの外国人選手がほとんど入ってこない現状がある。代表の育成年代を率いた経験も持つ楠瀬監督は、こんな案も口にした。

「(海外挑戦したい)選手の気持ちはわかりますが、短期留学とか選手やコーチの交換ができれば、片道切符にはならず、(選手もクラブも)安心して(海外挑戦や送り出す立場を)経験できると思います。そのためにも、アジアや海外のマーケットも踏まえてやっていかないといけない。たとえばアメリカ2カ国、ヨーロッパ2カ国、アジア4カ国ぐらいでスーパーカップみたいなものができたら、マーケットが開けたり、人の交流もできると思います」

 ワールドカップやオリンピックで結果を残すためには、海外組中心のチームづくりや、代表の活動期間を長くすることも一つの策ではある。とはいえ、現在の世界の女子サッカー界発展の流れを見れば、本質的な強化策としてはまず国内リーグを活性化させ、より魅力のあるリーグにしていくことが優先されるべきだろう。

 WEリーグは9月から新体制になった。宮本恒靖JFA(日本サッカー協会)会長は、女子サッカーの拡大や2031年のFIFA女子ワールドカップの招致を目標に掲げ、リーグ発展の必要性にも言及している。9月にスタートしたWEリーグは、カップ戦も含めて第4節までを消化。今後の推移を、期待とともに見守りたい。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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