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JAK阻害薬とは?アトピー性皮膚炎治療の新たな選択肢

大塚篤司近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授
(提供:イメージマート)

アトピー性皮膚炎は、世界中で多くの人々を悩ませている慢性の炎症性皮膚疾患です。かゆみを伴う湿疹が繰り返し出現し、患者さんのQOLを大きく低下させてしまいます。特に、小児期に発症することが多く、成人になっても継続する場合があります。日本においても、小児の15~20%、成人の約10%がアトピー性皮膚炎を抱えていると言われています。

従来の治療法では、ステロイド外用薬やタクロリムス軟膏などが中心でした。しかし、これらの治療法では十分な効果が得られない場合や、長期使用による副作用が懸念される場合もあり、新たな治療選択肢が求められていました。

そんな中、注目を集めているのがJAK阻害薬です。JAKは「ヤヌスキナーゼ」の略で、炎症に関わるシグナル伝達を担う重要な酵素です。JAK阻害薬は、このJAKの働きを阻害することで、炎症を引き起こす様々なサイトカインの作用を抑制します。アトピー性皮膚炎の病態形成には、IL-4やIL-13、IL-31などの炎症性サイトカインが深く関与していることが知られています。JAK阻害薬は、これらのサイトカインが働くための信号伝達を遮断することで、炎症を抑えるのです。

今回、16の研究をまとめたアンブレラレビューの結果から、JAK阻害薬のアトピー性皮膚炎に対する有効性と安全性が明らかになりました。プラセボや既存の治療薬と比較して、JAK阻害薬はより優れた効果を示したのです。

【JAK阻害薬の優れた効果】

JAK阻害薬は、アトピー性皮膚炎の重症度評価尺度であるIGAスコアやEASIスコアの改善に優れた効果を示しました。IGAスコアは医師が皮膚の状態を総合的に評価する指標、EASIスコアは皮疹の範囲と重症度を数値化したものです。JAK阻害薬を使用することで、これらのスコアが有意に改善したことが複数の研究で確認されています。

また、痒みの指標であるPP-NRSスコアの改善も認められています。アトピー性皮膚炎の患者さんにとって、痒みは最も辛い症状の一つです。JAK阻害薬は、痒みを引き起こすIL-31の作用を抑えることで、痒みを和らげる効果が期待できます。

JAK阻害薬の中でも、特にウパダシチニブ、アブロシチニブ、バリシチニブの有効性が高いことが示されました。アブロシチニブでは200mgの用量で顕著な効果が見られ、IGAスコアやEASIスコアの改善率がプラセボと比べて有意に高くなっています。一方、バリシチニブでは2mgと4mgの用量で優れた結果が得られました。

ただし、用量が高いほど有効性は高まる一方で、副作用のリスクも高くなる傾向があります。治療に際しては、患者さんの状態を見極めながら、適切な薬剤と用量を選択していく必要があるでしょう。

【JAK阻害薬の安全性】

JAK阻害薬は全体的に重篤な副作用のリスクは低いものの、いくつかの注意点があります。アブロシチニブでは用量依存的に消化器症状や頭痛、ニキビ、帯状疱疹などが増加する可能性が指摘されています。特に200mgの高用量では、これらの副作用に注意が必要です。

また、バリシチニブではCPK(クレアチンホスホキナーゼ)の上昇が報告されています。CPKは筋肉や心臓、脳に多く含まれる酵素で、その上昇は心筋梗塞や筋疾患などを示唆する場合があります。バリシチニブ使用中は定期的なCPK値のモニタリングが求められるでしょう。

ウパダシチニブについては、鼻咽頭炎や皮膚のニキビ、CPKの上昇などが報告されています。ウパダシチニブは比較的新しい薬剤であるため、長期的な安全性についてはまだ十分なデータがありません。今後も注意深く経過を見守る必要があります。

JAK阻害薬は、アトピー性皮膚炎治療の新たな選択肢として大いに期待できます。中等症から重症の患者さんを中心に、従来の治療で効果不十分な場合のオプションとして考慮される可能性があります。ただし、患者さん個々の状態を考慮し、適切な薬剤と用量を選択することが重要だと考えます。

【今後の展望と課題】

アトピー性皮膚炎は、皮膚のバリア機能の異常とともに、免疫系の過剰な反応が関与する複雑な疾患です。JAK阻害薬は、炎症性サイトカインのシグナル伝達を遮断することで、免疫系の異常を是正する画期的な治療法と言えます。しかし、その作用機序ゆえに、感染症などのリスクも懸念されます。JAK阻害薬の適正使用に向けて、患者さんの緊密なコミュニケーションが欠かせません。

アトピー性皮膚炎は、単なる皮膚の問題ではありません。痒みによる不眠や日常生活の制限は、患者さんの心理面にも大きな影響を及ぼします。JAK阻害薬による症状の改善は、患者さんのQOL向上につながることが期待されます。しかし同時に、アトピー性皮膚炎の根本的な治療には、スキンケアや生活指導など、総合的なアプローチが欠かせません。JAK阻害薬を上手に組み合わせながら、患者さん一人ひとりに寄り添った医療を提供していくことが重要だと考えます。

<参考文献>

1. He Q, et al. Janus kinase inhibitors in atopic dermatitis: an umbrella review of meta-analyses. Front Immunol. 2024;15:1342810. doi: 10.3389/fimmu.2024.1342810

近畿大学医学部皮膚科学教室 主任教授

千葉県出身、1976年生まれ。2003年、信州大学医学部卒業。皮膚科専門医、がん治療認定医、アレルギー専門医。チューリッヒ大学病院皮膚科客員研究員、京都大学医学部特定准教授を経て2021年4月より現職。専門はアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患と皮膚悪性腫瘍(主にがん免疫療法)。コラムニストとして日本経済新聞などに寄稿。著書に『心にしみる皮膚の話』(朝日新聞出版社)、『最新医学で一番正しい アトピーの治し方』(ダイヤモンド社)、『本当に良い医者と病院の見抜き方、教えます。』(大和出版)がある。熱狂的なB'zファン。

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