東京・立川の新名所「ガレーラ立川」の“わくわく感”はこうして創られた
昨年12月末、東京・立川のJR立川駅北口側に「GALERA Food Market TACHIKAWA」(以下、ガレーラ立川)がオープンした。外観は小さな倉庫で中はいわゆる“横丁”である。店舗規模は約70坪・200席。坪数でみると普通のファミレスだが、ここは稀に見る賑(にぎ)わいぶりだ。週末祝日ともなると11時の営業開始から終了となる23時まで途切れることなく人で賑わっている。この周辺は、キャバクラやラブホテルなどが集まる一帯。一見アンバランスな光景であるが、ここをプロデュースした人物によると“人の力”が集まることによって奇跡に似た強さが生まれるという。
特長を磨き込んだ店が集まる
「ガレーラ立川」をプロデュースしたのは保村良豪(やすむら・よしたけ)氏。飲食企業MOTHERSの代表である。同社は2001年に創業、西東京エリアを本拠としてイタリアン系のカジュアルレストランを約20店舗展開している。立川は西東京の大商業地であるが、ここを飲食で魅力的な街にしたのは2001年に創業した同社がきっかけとなっている。だから保村氏は地元飲食の若手経営者たちから人望が厚い。
ここは以前昭和レトロの雰囲気でまとめた「立川屋台村パラダイス」が営業していて、昨年4月に閉鎖。それを本社立川で食肉卸・加工販売を手掛けるミートコンパニオン(代表/阿部昌史)が取得して、「立川を活性化したい」という思いで構想を練った。そこで保村氏が施設全体のプロデュースを依頼された次第である。
保村氏はこう語る。
「オーナーからいただいたテーマは『賑わいの創出』。ここは立川の中でも最もアンダーグラウンドな土地ですが、その空気感を大切にした。アレンジの仕方によっては艶っぽさが生まれる。そこで、あまりつくり込みをしないように考えた」
ここに出店している10店舗の概要を以下にまとめた。左から右へ順に、店名、カッコ内が会社名、本社所在地。業種、そして店舗の特長となっている。
・あて鮨 喜重朗(あてまき喜重朗/東京都立川市)すし&日本酒:“元祖あてまきの店”。「あてまき」とは巻物の中に塩辛やこのわたなど日本酒のあてになる具材を入れたすし。
・立川ちゃんぽん エビサワ(MOTHERS/東京都武蔵野市)ちゃんぽん:立川市内で店を構え、2018年に閉店した「ホットナンバン」のちゃんぽんを記憶を頼りに再現した。
・鶏だしおでん ねりもん(TG BASE/東京都立川市)鶏だしおでん:「おでんを水炊きのように提供してみたい」という思いから、一つのおでん鍋に鶏ガラ60羽分を使用してスープを取っている。
・春巻のニューヨーク(たるたるジャパン/東京都福生市)春巻:徒歩1分の場所で「餃子のニューヨーク」を構える会社の店。春巻は餃子と共に中身が見えないことから「感性を刺激する」という発想。
・向日葵屋(ひまりや)(エイト/東京都武蔵野市)和食のおつまみ&日本酒:酒との相性の良い小鉢料理を多数ラインアップ。料理もドリンクもすべて1品500円(日本酒は約90mℓ)。
・GALERA PRESS COFFEE(エンジョイライフ/東京都立川市)コーヒー&パン販売:コーヒー豆は、ブラジル・サマンバイヤ農園やコロンビア・ブエナビスタ農園などから取り寄せ。
・OAK(OAK/東京都日野市)ワインバル:イタリア、フランス、スペインの自然派ワインやスパークリングワイン、オレンジワインなど約250本を常備。グラスワインは少し抑えた価格。
・TACO WASA TOKYO TACOS(NATTY/東京都立川市)タコス:タコスの生地としておからと小麦を原料とするもちもちとしたオリジナル商品を開発。コーンのものと選べるようにした。
・Tamaya craftbeer(ちゃんばら/東京都立川市)焼き鳥&クラフトビール:2021年12月市内にオープンした立飛麦酒醸造所のクラフトビールを提供。フードは鶏肉、三元豚を炭火焼で提供。
・VIGO OYSTERBAR(w・a・y/東京都杉並区)牡蠣&自然派ワイン:自然派ワインと牡蠣、タパスの店。牡蠣は滅菌海水に入れて浄化させる時間を一般的なものより長く設定している。
「わっ!」という空気感に圧倒される
「ガレーラ立川」に出店している店の本社が立川市、武蔵野市、日野市となっているのは、保村氏と交流のある地元のメンバーに、保村氏が声を掛けて集めたから。保村氏によると「出店をお願いしたところはみな、しっかりとおいしい料理を出して、しっかりとおもてなしができるところ。業態の調整については私が行なった。とは言ってもメンバーが一堂に会して5分くらいで話がまとまった」という。
最初に各オーナーに確認したことは、周りの商圏とかぶる商売はしないこと。それ以外の業態や価格構成、客単価について話し合うことは特にしなかったという。そこで、それぞれが得意とする商売の特長を打ち出した。だから、業種がとても尖っている。
施設内には店舗の仕切りがない。中に入ると「わっ!」という感じの空気感に圧倒される。同時に“わくわく感”が高まってくる。右手側はポップな雰囲気があり、一方左手側はしっぽりとした感じが漂う。客層は20代から40代がメインで、外国人がたむろしている様子が目立つ。“遊び場”という言葉が自然と連想された。ここに入ったら、一つの店にとどまらずホッピング(食べ飲み歩き)が楽しい。
しかし、店に入ったとたんに圧倒される空気感はなぜ生まれるのだろうか。保村氏は「ここの空間に『体感』が存在しているから。それは『うわっ』という感動が、一つの空間の中に全部がつながっている状態。これを個店でつくり上げることはできない」と語る。
「『体感』をつくるために大切なことは『ゾーニング』。ラブホテルの横は裏路地で、その近くにあるガレーラのゾーンにはバーやしっぽりと日本酒を飲む店を集めた。一方で、元気があってポップな動きができる店は入口近くの表側に集めた」
「これはみんなで話し合いながら、なんとなく収まった。これによって、施設全体のパワーが最大化する空間が出来上がった」(保村氏)という。
ここのゾーニングが成功している要因は、何よりも保村氏と交流のあるメンバー相互に取り組んだことであろう。「ものを言い合える関係性」が一体化することによって、施設の中に「体感」を創出している。これが全く畑違いで、お金だけを目的に集まってきている人たちと取り組むと、このような形にはならないはずだ。「ガレーラ立川」の月商は計画当初5000万円とされていたが、この繁盛ぶりから拝察すると優に達しているように伺われる。
保村氏の説明から、これまでのテナントリーシングの考え方、つまり「箱をつくって出店希望者を集める」という考え方のままでは、「ガレーラ立川」に存在する「わっ!」というような圧倒的な空気感はつくれない、という理屈がよく分かる。飲食空間づくりにかかわる人々の信頼関係が掛け合わさることによって、それこそ奇跡とも言える“わくわくする空間”が出来上がるということだ。