浜ちゃんのブラックフェイスは黒人差別なのか 知らなかったでは済まされない
黒塗り顔、縮れ毛はなぜいけない?
[ロンドン発]大晦日に放送された日本テレビの番組「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで!大晦日年越しスペシャル!」でお笑い芸人、浜田雅功さんが米俳優エディー・マーフィー主演の映画「ビバリーヒルズ・コップ」 をまね、黒塗り顔、縮れ毛で登場したことが論争を巻き起こしています。
「絶対に笑ってはいけない アメリカンポリス24時」と題して新人アメリカンポリスに扮した5人が大物俳優扮する署長との対面や訓練をはじめ、研修を積んでいくストーリー。視聴率は「紅白歌合戦」の裏番組だったにもかかわらず、17.3%を記録しました。
英BBC放送が顔を黒く塗って歌ったり芸を演じたりするブラックフェイスは、黒人差別の歴史を思い起こさせるという日本在住の黒人作家らの声を紹介しています。
エディー・マーフィーを演じるために黒人に扮した浜ちゃんには差別する意図は全くなかったでしょう。放送した日本テレビも問題になるとは考えていなかったようです。しかし黒人の人たちから見れば、ブラックフェイスは黒人に対する偏見を植え付ける黒人差別表現以外の何物でもないのです。
1988年の黒いマネキン騒動
日本で黒人差別が大きな問題になったのは1988年7月。米紙ワシントン・ポストのマーガレット・シャピロ極東共同総局長が「黒人の古いステレオタイプが日本でよみがえる」と報じました。
有楽町そごう百貨店に展示された黒人マネキンや黒人キャラクターのサンボ&ハンナ、ビビンバが取り上げられ、「会社側は人種差別の意図なしと主張」と手厳しく批判されました。
当時、日本は「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と称賛され、日米経済摩擦が起きていました。86年に中曽根康弘首相(当時)が「平均点から見たら、アメリカには黒人とかプエルトリコとかメキシカンとか、そういうのが相当おって、平均的にみたら非常にまだ低い」と発言。
ワシントン・ポスト紙報道の直後、自民党の渡辺美智雄政調会長が「日本人は破産すると夜逃げとか一家心中とか重大に考えるが、向こうの連中は黒人だとかいっぱいいて『うちは破産だ。明日から払わなくていい』とアッケラカンのカーだ」と言い放ちました。
当時の日本の政治家は、お笑い芸人の浜ちゃんと違って明らかに黒人を見下していました。このため在米日本大使館に抗議が殺到、黒人マネキンは即刻、撤去され、黒人人形は回収される騒ぎになりました。経済的な損失は15億円に達したと言われています。
「黒人差別をなくす会」
この騒動がきっかけとなり、88年に「黒人差別をなくす会」を妻と小学4年生だった9歳の長男の3人で立ち上げた大阪・堺市の有田利二さん(70)に電話でお話をうかがいました。
有田さんは「当時の日本人はほとんど黒人差別になるとは気づかずに暮らしてきました。身の回りを調べると、文房具、衣類と、分厚い唇を赤く塗って、白目を大きくした黒人のキャラクター商品がたくさん売られていました。黒人を差別する表現のサンボ、黒んぼと書いてあるのもありました」と振り返りました。
有田さんの「黒人差別をなくす会」は「ちびくろ・さんぼ」の絶版を要求する運動を開始。絶版する出版社が相次ぎ、社会的に大きな注目を集めました。黒塗り顔、縮れ毛は歴史的に作られてきたステレオタイプとしての「サンボ表現」に当たると有田さんは指摘します。
消えるブラックフェイス
顔を黒く塗ったブラックフェイスの白人が芸を演じるミンストレル・ショーは黒人に対する偏見を撒き散らすとしてアメリカや欧州ではすでに姿を消しています。黒人差別と闘ったアメリカ公民権運動の影響が大きかったのです。
BBCも偉そうに日本のことを批判的に報じていますが、58年から20年間も「ブラック・アンド・ホワイト・ミンストレル・ショー」を放送し、大人気を博しました。60年代には2100万人が視聴しました。しかし黒人差別を助長するという批判を受けて打ち切られました。
ブラックフェイスやミンストレル・ショーは白人の目から見た黒人のステレオタイプでしかなかったのです。黒人から見れば、浜ちゃんが演じたエディ・マーフィーや、かつて一世を風靡したラッツ&スターは、白人の目から見た黒人ステレオタイプの焼き写しにしか見えなかったでしょう。
89年夏に黒人企業家連盟の招きで18日間、ワシントン、ニューヨーク、ボルチモア、アトランタ、オーランド、ロサンゼルスを家族3人で旅した有田さんはこう痛感したと言います。
「黒人の人たちが嫌だから止めてほしいと言っているのに、差別ではない、差別する気はない、悪気はないからと言って続けていても良いのでしょうか。そういう人たちはもっと世界の歴史、人類の歴史を学ぶ必要があります。黒人だけではなく、黄色人種にも差別された暗い歴史があるのです」
隠された白人優越主義の遺産
有田さんは黒人差別表現が日本に見られるようになったのはアメリカの黒船が来航して船上で開いた歓迎会でミンストレル・ショーを披露したのが最初だと言います。黒人差別表現は白人優越主義と植民地主義の遺産であり、明治維新で脱亜入欧を掲げた日本にも知らず知らずのうちにこうした差別意識が植え付けられてしまったのかもしれません。
そして「ジャパン・アズ・ナンバーワン」を謳歌した80年以降、日本は無意識のうちに植え付けられた差別意識をアメリカや欧州から繰り返し叩かれてきたわけです。アメリカ出身の黒人作家で日本在住13年のバイエ ・マクニールさんは浜ちゃんのブラックフェイスについてこうツイートしました。
「ブラックフェイスで出演する日本の人へ。黒人であるというのは、オチや小道具じゃないんだよ。(略)でもお願いだから日本でブラックフェイスは止めて。カッコ悪いから」
問題は浜ちゃん個人より、浜ちゃんのブラックフェイスを演出した放送局、日本テレビにあります。ブラックフェイスで視聴率が稼げたとしても、公共の電波を使って黒人差別の歴史が刻まれたブラックフェイスを撒き散らすことに何の意味があるのでしょう。
知らなかった、悪気はなかったでは済みません。2020年東京五輪・オリンピックを前に日本の国際感覚が厳しく問われているのです。
(おわり)