『バンドリ!』声出し解禁 コールとクラップが融合したコロナ後の新たなライブの形
我々の生活様式を一変させてしまった「コロナ禍」と呼ばれる時代も、5月8日から指定感染症の「5類」へと引き下げられることで、いよいよ出口が見えようとしています。
この動きを象徴する一つとして、政府は1月27日(金)、「5類」移行の発表に併せてイベントでの観客の声出し緩和方針を打ち出しました。
急速に進んだ「声出し解禁」
これにあわせ、特に急な対応に追われたのが音楽ライブ業界です。一般的に大規模な音楽ライブは土日に開催されることが多く、「声出し解禁」の発表が1月27日の金曜夕方だったことから、早いところでは翌28日(土)から声出し可能になる公演が現れました。
その翌週の2月4日(土)、5日(日)には多くのアーティストの公演で声出し解禁が進みました。アニメ・ゲーム系でもブシロードの次世代ガールズバンドプロジェクト『BanG Dream! (バンドリ!)』や、スクールアイドルを描いた『ラブライブ!』シリーズ3作目の『ラブライブ!虹ヶ咲学園スクールアイドル同好会(虹ヶ咲)』のライブなどが声出し解禁で公演されました。
会場に湧いた3年ぶりの歓声
筆者も上述の2作の公演を観てきました。両作とも声出し可能なライブとしては2022年11月に行われた「ブシロード15周年記念ライブ in ベルーナドーム」で公演されましたが、これは複数作品のアーティストが集うフェス形式のものでした。そのため、『バンドリ!』も『虹ヶ咲』も単独の公演としてはこの日が初の声出しライブとなり、大勢のファンが演者に歓声を届けようと集まりました。
さらに、東京都江東区の有明アリーナで開かれた「BanG Dream! 11th☆LIVE」では1万人以上のファンが集まりました。
前回、22年9月に4日間にわたって行われた「BanG Dream! 10th☆LIVE」では、作中に登場しリアルバンドとしても活動するPoppin'Party(ポッピンパーティ)、Roselia(ロゼリア)、Morfonica(モルフォニカ)、RAISE A SUILEN(レイズアスイレン)の4バンドが1日ずつ単独ライブを行うスタイルでした。
今回の「BanG Dream! 11th☆LIVE」では、1日目はPoppin'PartyとRAISE A SUILEN、2日目はRoseliaとMorfonicaといった組み合わせで合同ライブを行うスタイルとなっており、バンド間のコラボレーションも披露されました。
1日目はまずRAISE A SUILENが登壇。ベース兼ボーカル・レイヤ役を務めるRaychell(レイチェル)が「みんな声出せるよね!」と言うと、会場が一気に湧きました。声出しを待ち望んでいたのはバンドメンバーも同様で、MCでは観客との掛け合いを楽しむ場面もありました。Poppin'Partyを代表するかけ声である「ポピパ! ピポパ! ポピパ! パ! ピポパ!」を、ギター兼ボーカル・戸山香澄役の愛美が発すると、会場は「パ!」の大歓声に包まれました。
初の歓声を聞くバンドも
2日目はMorfonicaの曲からスタートしました。Morfonicaはコロナ禍が始まった2020年3月に活動開始したバンドで、初めて観客の歓声を聞いたのは昨年11月の「ブシロード15周年記念ライブ in ベルーナドーム」になります。『バンドリ!』単独の公演では今回が初で、「バンドリーマー」と呼ばれる『バンドリ!』ファンの歓声に限れば、この時が初めて聞いた瞬間でした。
Morfonicaはロックバンドでありながらバイオリンが入っているのが特徴で、この強みを活かしてライブ始めからRoseliaと合同で演奏する場面が目立ちました。一方のRoseliaはゴシック系の楽曲と空気感が魅力的なバンドです。このRoselia特有の世界観にMorfonicaの幻想的なバイオリンの音色が加わり、「BanG Dream! 11th☆LIVE」にしかない神秘的な空間が醸成されました。
コロナ禍で多様化した楽しみ方
声出しの解禁は、演者にとっても観客にとっても待望のことでした。一方、コロナ禍で観客は、声を出す代わりに「クラップ」と呼ばれる手拍子やペンライトで演者とコミュニケーションを取るようになりました。このクラップの定着により、コロナ禍以降は楽曲の作り手側も、歓声(コール)での盛り上りを意識した楽曲から、クラップでの盛り上がりを意識した楽曲を制作するように変化しました。
「BanG Dream! 11th☆LIVE」では、コロナ禍前からある定番曲と、コロナ禍以降に作られた両方の曲が多く披露されました。コロナ禍前の曲に対しては、3年前と変わらない統率の取れたコールがおこなわれていましたが、コロナ禍以降の曲では会場で声を出すのは当然ながら初めてで、どのように声が出すといいのかを模索している印象でした。曲によっては作り手側が意図したコールがステージ上のディスプレイに文字で表示されるため、それを頼りに観客がコールする場面もありました。
一方で、コロナ禍で隆盛した「クラップ」は、声出しが復活してもほぼそのままの形で残っていました。従来のコール中心の楽曲も、演奏自体はコロナ禍でも何度もおこなわれており、もともとクラップを入れなかったところにクラップを入れるよう変化した曲もあります。特に「落ちサビ」と呼ばれる曲が静かになる場面でもクラップを入れるようになったのは象徴的と言えます。「BanG Dream! 11th☆LIVE」ではコールとクラップの両方の楽しみ方が融合するような形になり、観客は思い思いの楽しみ方を堪能していました。
また、アンコール前の場面で、演者が「次が最後の曲です」と言った時に、コロナ禍前には観客は「ええーっ」という歓声をあげるだけでした。それがコロナ禍以降は2本のペンライトを「×」にしてその意思を伝えるようになりました。声出しが解禁された「BanG Dream! 11th☆LIVE」では、この2つが組み合わるスタイルが生まれました。
ライブの楽しみ方に決まった形はなく、例えばステージ上からの観客に問いかけがあった場合、歓声を送る、ペンライトを振る、拍手を送る……どれも正解になります。もちろん他の観客の迷惑にならない範囲でではありますが、これと同様に、コールでもクラップでも楽しめるようになったのは大きな変化だと感じています。
ライブの楽しみ方からしても、コロナ禍前は現地か映画館などで行われるライブビューイングに行って「みんなで観る」形しかありませんでした。ところが、コロナ禍で有観客ライブができなくなり、インターネットでのライブ配信が進んだことで、現地に行かずとも自宅などで楽しむスタイルも定着しつつあります。
コロナ禍で失われてしまったものは少なくありませんが、代わりに生まれたものもあります。「声出し」に限らず、今後もコロナ禍で失われてしまったことの多くは復活していくでしょう。一方でテレワークやWeb会議など、コロナ禍で広まった新しいスタイルは今後も受け継がれる部分が多いと考えます。
この両者が今後どのように融合していくのか、ライブの声出し解禁から少し垣間見えたような気がしました。
6月に新たな公演も
なお、『バンドリ!』シリーズは6月4日(日)に東京都中野区の中野サンプラザで謎に包まれたライブが予定されています。会場で配布されたチラシでもURLがQRコードで記載されており、そのリンク先を辿ると、「Ave Mujica」という名前と6月の公演の概要、4月10日(月)までのカウントダウンが表示されています。
『バンドリ!』では同作のスマホアプリゲーム『バンドリ! ガールズバンドパーティ!』の大型アップデートが3月16日(木)に予定されており、現在様々なキャンペーンがゲーム内で実施されています。その後ゲーム内のストーリーでは、年度が進み一部のメンバーが大学に進学したあとの物語が展開される予定です。
『バンドリ!』シリーズは2018年にRAISE A SUILEN、20年にMorfonicaと、数年おきに新バンドをこれまで登場させてきています。それだけに新たな展開にも期待を寄せるファンも多く、今後が楽しみです。
[ライブ公演に関する写真や画像はブシロードミュージック提供。Photo ハタサトシ、福岡諒祠(GEKKO)、池上夢貢(GEKKO)]
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※ゲームとの関連性について一部文章を修正いたしました。