THAAD-ERの開発予算を要求
アメリカ国防総省は2月10日、2021会計年度(2020年10月~2021年9月)の国防予算案を発表しました。その中に弾道ミサイル防衛システムのTHAAD迎撃ミサイルについてアメリカ本土防衛用に使える新型の開発予算が要求されていました。具体的な名称が記載されていない新型ですが、これは一段式のTHAADを二段式にした射程延伸型「THAAD-ER」を指すのはほぼ間違いありません。
DOD Releases Fiscal Year 2021 Budget Proposal (FEB. 10, 2020)
アメリカ本土防衛用に新型のTHAAD迎撃ミサイルの試作を開始し、2023年度に飛行試験を実施すると記載されています。以前からコンセプトが提案されていたTHAAD-ERの開発を本格始動するために予算を付けようとしています。この2021国防予算案からはICBM(大陸間弾道ミサイル)迎撃用のGBI迎撃ミサイルを補完するために、SM-3ブロック2A迎撃ミサイルとTHAAD-ER迎撃ミサイルを本土防衛に配備する方針が読み取れますが、意外なことにTHAAD-ERに関して極超音速兵器の迎撃には直接的な言及がありません。
【関連】極超音速兵器とは何か ※THAAD-ERに付いても言及
THAADの迎撃体(キルビークル)は空気抵抗に考慮した砲弾型の形状をしており、大気圏外迎撃用の体当たり弾頭でありながら希薄大気が残る比較的低い高度(ただし赤外線センサーの空力加熱による作動制限のため高度40km以上)でも機動することが可能です。このため、弾道ミサイルよりも低い高度を飛んで来る極超音速滑空兵器(極超音速グライダー)が相手でも交戦が可能と考えられていました。しかしこの予算案からはそういった用途に使うことが抜け落ちています。
- ロシアの極超音速滑空ミサイル「アヴァンガルト」の迎撃を企図しない政治的意思表示
そこで考えられる理由はこれになります。アメリカのミサイル防衛は大国間の核抑止力のバランスを崩さないように、ロシアからの戦略核攻撃は防ぎ切れない能力と数量にわざと抑える方針を取っています。ミサイル防衛の迎撃目標はあくまで「ならずもの国家」である北朝鮮とイランの弾道ミサイルに限定しなければ、大国間の核軍拡競争を引き起こしてしまうからです。
そのためTHAAD-ERはアヴァンガルトと交戦できる潜在能力を有していながら政治的に言及せず、数量的には北朝鮮が用意できる少数のICBMを迎撃できる最低限の配備数に抑えて、ロシアの全力の戦略核攻撃には対処できない数に止めるのではないでしょうか。
しかし本土防衛ではなく戦域防衛用にTHAAD-ERがアジア方面に配備される場合には極超音速滑空兵器を迎撃できることを喧伝する可能性があります。中国の極超音速滑空ミサイル「DF-17」は北京での軍事パレードでお披露目した際に通常弾頭であると紹介されていたので、DF-17を迎撃しても核抑止力と無関係であることを中国自身が認めているのと、そもそもDF-17は射程が戦域ミサイルの範疇であり米本土までは届かず、例え核弾頭を積んでも戦略的な意味での核抑止力とはなり得ないからです。
- MDAA(ミサイル防衛推進連盟)よりTHAAD-ER解説動画
- THAAD(基本型)・・・ロケット推進部分(直径13.5インチ)+迎撃弾頭
- THAAD-ER・・・第一段ロケット(直径21インチ)+第二段ロケット(14.5インチ)+迎撃弾頭
THAAD-ERは基本型よりも射程が数倍に伸びて数百kmとされるが詳細は不明。