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今週末、どこ行く? 【ひとり温泉】だから、ひたすら「おいしい!」を求めて旅をする

山崎まゆみ観光ジャーナリスト/跡見学園女子大学兼任講師(観光温泉学)

「ひたすら、おいしい!」を求めたい

旅先の“おいしい!”には、バリエーションがありすぎるほどある。

宿の名物料理、土地の食材、ソウルフードと次から次へと思い浮かぶ。

まず宿泊先の名物料理を愉しむ場合は、題1章に記した食事環境さえ整っていたら、十分に満喫できるだろう。

次に土地の食材と言えば、旬の魚介類を思い出す。

ただこれまで綴ってきたように、ひとり温泉において繁忙期は大敵。

例えば日本海沿いの温泉地においては、冬は蟹がハイシーズンとなるため、そうしたいわゆる一般的に知られた旬の食材は避けることになる。よって、あまり知られていない旬の食材を探す楽しみが出てくる。

具体的に言うと、兵庫県城崎温泉は蟹のシーズンが最も込み合う時期だから、ひとり温泉お断りの宿もある。私は城崎温泉で食した、通年食べられる但馬牛の熟成肉が忘れられない。旬を狙わずとも、おいしいものはたくさんある。

一方、オフシーズンの旬の食材を狙う手もある。

富山湾を目の前に眺める氷見温泉郷では、やはり寒ブリを思い起こすが、実は通年、いつも旬の魚がある。氷見の人に「春はイワシ、サヨリ、クロダイがおいしいよ!」と聞いており、次回は氷見の春を満喫するつもりだ。

旬の味わいを楽しめるが、でも宿もさほど混みあわない時期の食材もある。それは山菜だ。口いっぱいに広がる、あのほろ苦さを一度味わうと、また忘れられない苦みを求めて旅に出たくなる。

山菜は、やはり採れたてがいいに決まってるが、例えば新潟県貝掛温泉にはオーナーとお客さんとで山菜を採り、それを夕食に出してくれるサービスがある。

山菜のように、持ち帰れる食材というのもいい。

私は宿泊先の宿で出された気になる食材を、翌日、道の駅などで購入することがままある。

きっかけは、栃木県塩原温泉「彩つむぎ」に宿泊した時だ。女将の君島理恵さんにすすめられて、初めて塩原高原大根を食した。スティック状にして生で頂くと、「さくっ、さくっ」。それはそれは瑞々しい音が軽快に鳴り、この音だけで涼やかな気持ちになった。噛み締めると「じゅっ」と水分が弾ける。大根特有の辛味はさほどなく、ほのかな甘みを感じた。まるで“梨”ではないか。翌日、さっそく現地で大根を購入したのだ。

福島県奥会津地方の湯倉温泉「鶴亀荘」に泊まったのは初夏だった。夕食に出された地元の柳津産アスパラの青々しく強い風味が口に残った。

アスパラって、こんなに味が強いのか――。 

翌日、地元のスーパーに立ち寄ると、入口すぐの中央に、どどんとアスパラタワーがあった。地元では知られた存在なのね。

柳津産の太いアスパラは5本入りで1パッケージ。私は5パッケージ購入。たまたま帰京した日の午後は、都内で打ち合わせがあったので仕事相手にアスパラを配った。

お土産と言えば温泉まんじゅう、あるいは洒落た洋菓子を想像されるだろうが、私は旬の野菜一択。もちろん相手が料理する方の場合だが、たいがいは喜ばれるし、その土地の話題に花が咲く。渡した相手の驚く顔が見られるのも、また嬉しい。

その土地でしか口にできる機会がない調味料に出会えば、買い込むこともある。土地特有の調味料は最強のソウルフードだと思う。

ちなみにその土地の調味料といって思い浮かぶのは辛味調味料「かんずり」だ。唐辛子を雪にさらして辛味を奥深い味にする「かんずり」は、鍋や湯豆腐にぴったり。また食材の味を引き出すため、肉なら脂身の甘みをさらに芳醇にさせ、蕎麦につければ味は締まり、サラダのドレッシングに入れると食べ続けても飽きない。料理の味変、ちょっとしたアクセントにはなくてはならない品だ。

「おいしい!」を求めるひとり温泉はまだまだ続く。

※この記事は2024年9月6日に発売された自著『ひとり温泉 おいしいごはん』(河出文庫)から抜粋し転載しています。

観光ジャーナリスト/跡見学園女子大学兼任講師(観光温泉学)

新潟県長岡市生まれ。世界33か国の温泉を訪ね、日本の温泉文化の魅力を国内外に伝えている。NHKラジオ深夜便(毎月第4水曜)に出演中。国や地方自治体の観光政策会議に多数参画。VISIT JAPAN大使(観光庁任命)としてインバウンドを推進。「高齢者や身体の不自由な人にこそ温泉」を提唱しバリアフリー温泉を積極的に取材・紹介。『行ってみようよ!親孝行温泉』(昭文社)『女将は見た 温泉旅館の表と裏』(文春文庫)『宿帳が語る昭和100年 温泉で素顔を見せたあの人』(潮出版社)温泉にまつわる「食」エッセイ『温泉ごはん 旅はおいしい!』の続刊『ひとり温泉 おいしいごはん』(河出文庫)が2024年9月に発売

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