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今、中古マンションが予想外の売れ行き。値引きしなくても成約続出する複雑な事情とは

櫻井幸雄住宅評論家
首都圏の中古マンションは、不動産業界も驚くほどの売れ行きを示している。筆者撮影

 9月以降、首都圏の不動産仲介会社各社から、「中古マンションが売れている」という声が聞こえてきた。新築マンションは順調に売れ行き回復を果たしているが、中古マンションも売れているのか。

 そう思って調べてみると、事情は少々複雑だった。

今は、完全な売り手市場

 複数の不動産仲介会社(中古物件や賃貸物件を扱う不動産会社)に聞き取り取材すると、状況は同じだった。

 まず、「中古マンションを買いたい」という問い合わせが多く、売り物が出れば短期間に成約する。その事実だけをみると、「中古が売れている」ということになる。

 が、一方で、「売り物が極端に少ない」とすべての不動産仲介会社が口をそろえる。

 「買いたい」という人が多いのに、売る人が少なく、希に売り物が出れば短期間に成約するという状況が生まれているわけだ。それは、成約価格にも影響している。

 中古住宅の場合、「売り出し価格」と「成約価格」がある。

 売り手が「わが家を、この値段で買って欲しい」とつけるのが「売り出し価格」。それに対して、買い手は「もう少し安くならないか」と申し出る。その結果、最終的に1割程度引いた価格で折り合うことが多く、折り合った価格が「成約価格」だ。

 しかし、今は、「売り出し価格」がそのまま「成約価格」になることがある。つまり値引きをまったくしないケースもあるというから、完全な売り手市場だ。

売り出しが減った背景に「買いたたかれるのでは」の不安

 じつは、緊急事態宣言が出た4月、投資家の間では「中古マンションを安く買うチャンス到来」という声が上がっていた。

 その当時、住宅市況は冷え込んでいた。4月と5月、新築分譲マンションの販売センターが閉鎖されたので、それは当然だろう。

 しかし、不動産仲介の店舗は営業を継続していた。

 それは、こんな時期でも客が来る、と考えられたからだ。ステイホームの期間も、賃貸を借りたいという人はいる。マイホームを中古として売りたいという人もいる。そして、「安い売り物が出たら、教えて」という買い手……これが多かった。

 というのも、その時期に家を売りたいと考える人には、コロナ禍で資金難に陥った会社経営者や個人事業主がいるはず。そういう人は相場より安くなっても、売るだろう……つまり、「安く買いたたくチャンス」と考える人たちがいたわけだ。

 その動きを察知し、売り手は「今、売りに出すと、買いたたかれる」と考えた。それで、中古で家を売りに出す人が極端に減ってしまった、というのが、実際の中古住宅市況だ。

 東京カンテイの調査でも、東京23区内の中古マンション新規流通戸数は大幅に減少。コロナ禍まで毎月2000戸を大きく超える戸数が新規に売り出されていたのに、今年5月は1616戸にまで減っていた。

 緊急事態宣言とともに、持続化給付金や無利子無担保融資、雇用助成金などの救済措置が次々に打ち出されたことで、「仕方なく家を売る」事態を免れた人もいたはずだ。

 結果的に、4月と5月、「中古マンションを安く買いたたく」というもくろみは外れた。

6月以降、新築とともに中古市場も回復

 6月になると、新築マンションの販売センターが営業を再開。まず、郊外の新築マンションが人気を高め、7月からは準都心部の通勤便利な新築マンションにも購入検討者が増えた。

 新築マンション市場に活気が戻れば、「新築よりも安く購入できる中古」にも検討者が増える。現在のマンション購入者は新築と中古を比較検討するので、当然の現象だ。

 一方で、中古マンションの売り出しは、少しは増えたものの大幅には増えなかった。

 相変わらず「買いたたかれるのはごめんだ」と“売り控え”を維持する人が多かったのである。

 その結果、「中古マンションを買いたい」という人が増えたのに、「売り物が少ない」という売り手市場が生まれたわけだ。

 結論として、今、中古マンションを売り出しても買いたたかれることはない。むしろ、売却のチャンスともいえそうだ。

 わが家を中古で売ってもよい、と考えている人は、試しに不動産仲介の店舗を訪ねてみるとよい。「話をするだけ」でも、大歓迎されるはずである。

住宅評論家

年間200物件以上の物件取材を行い、全国の住宅事情に精通。正確な市況分析、わかりやすい解説で定評のある、住宅評論の第一人者。毎日新聞に連載コラムを持ち、テレビ出演も多い。著書多数。

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