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災害時に弱いキャッシュレス社会、現金が最強となるのには理由がある

久保田博幸金融アナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

 キャッシュレスの弱点のひとつとして災害時に使えなくなるということがある。たとえば、東日本大震災の際、私の住んでいる茨城県も被災し、停電が発生した。食糧調達に営業をしていてくれたコンビニではレジが使えず、計算機を使って現金のみの利用となっていた。

 以前に紹介したことがあったが、昨年9月の北海道で大きな地震が発生した際、道内のほとんどの地区で停電が発生し、食料品店なども休業をせざるを得ない状況が続いている中、コンビニのセイコーマートの多くが営業していた。

 しかも普通のガソリン車のシガーソケットから給電するなどして、停電中も温かい食事を提供していた。会社側が普段から非常電源キットを各店舗に配布し、今回はそれを使い従業員の車などから電源を取ったとも報じられ、災害時の対応を準備していたようである。

 このようなセイコーマートの営業努力にもかかわらず、電子マネーの利用については道内だけでなく関東地方の支店でもできなかった。ただし、セイコーマートのレジについてはオフラインでも使用可能で、災害時にも現金利用では使えるものであったようである。

 いずれにしてもキャッシュレスは災害時の、特に停電に弱いことは確かである。それに対して現金の利用は問題なくできる。このため、災害時に現金が最強なのは確かだが、実はこれには見えないところで、日銀による対応が行われているのである。

 日銀には本石町にある本店以外に国内に32の支店を持っている。民間の銀行の支店は顧客との取引に必要となるが、個人は口座が持てない日銀は何故、支店を持っているのか。もちろんその地域の金融機関との取引などのために設けられているのだが、災害時の対応のために存在しているともいえるのである。

 たとえば日銀の大阪支店は、首都圏に大規模な災害が発生し、本店が被災した場合などに大阪支店において、緊急性の高い業務を本店に代替して行うことを想定している。

 大規模な災害が発生した際には、日銀は支店を通じて円滑な現金供給体制を講じるなどしている。緊急時におけるお金の配備や、災害によって損傷したお金の引き換え事務等に対応している。

 日銀には寄託券ルールというものが存在し、災害時でも日本全国どこでも日銀券が使えるようにしなければいけないようである。

 お金のやり取りをする金融は大きなライフラインといえるものであり、それを管理維持しているのが日銀である。このため、このような災害時の対応はある意味当然とはいえる。しかし、過去の災害時の経験なども活かしての日銀のこのようなシステムがあるからこそ、災害時でも現金が利用できるし、金融機関の口座から通帳を紛失していても現金を引き出せるのである。

 災害時に現金が最強なのは、そのための備えがしっかりしているからともいえる。残念ながらキャッシュレスについては、そこまでの備えはできない。特に地震など自然災害の多い日本では、災害時対応のリスク管理上も、ある程度の現金を持つ必要があり、またその現金が利用できる体制が日本全国で維持されなければいけない。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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