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債券自警団の事例

久保田博幸金融アナリスト
(写真:イメージマート)

 政策当局による財政・金融運営の規律が緩みインフレ懸念が出てきた時、国債を売却して警告を発する債券投資家を「債券自警団」と呼ぶことがある。米エコノミストのエドワード・ヤルデニ氏が1983年に初めて用いたとか(11日付日本経済新聞)。

 今回の米大統領選では共和党のトランプ前大統領の当選が確実となったた。同氏が主張する関税引き上げや減税などの景気刺激策が物価押し上げ要因になるとの見方から、米10年債利回りは6日、一時4.4%台と7月上旬以来およそ4か月ぶりの水準まで上昇した。

 米連邦議会の上下両院をいずれも共和党が押さえる「トリプルレッド」となれば、トランプ氏の公約の実現可能性が高まる。トランプ氏の公約は財政懸念を強めてインフレにつながると警戒されている。米国債の増発も予想されることで、米債が売り込まれ米10年債利回りが5%台を超えてくるとしておかしくはない。

 「債券自警団」の活躍の事例としては、2022年9月に英国でトラスショックも挙げられよう。

 ジョンソンの党首辞任を受けて行われた保守党党首選挙で勝利し、2022年9月6日に首相に任命されたのがメアリー・エリザベス・トラス氏であった。

 イングランド銀行は9月22日に0.5%の利上げ決定を発表し、保有する英国債の市場での売却を始めると発表した。これを受けて英国債は22日に10年債利回りは大きく上昇していたが、トラス政権の1972年以来の大型減税と国債増発を受けて、火に油が注がれた格好となった。

 23日に英2年債利回りは4%を上回り、2008年10月以来約14年ぶりの水準となった。政府債務増への懸念とともに、減税策がインフレをさらに加速させかねないとの懸念が強まった。

 日本でも「債券自警団」が出てきた事例がある。2022年12月での日銀とヘッジファンドの日本国債を巡っての攻防戦である。

 世界的な物価上昇やそれに対する欧米の中央銀行の利上げに伴う長期金利の上昇などから、日本の長期金利にも上昇圧力が加わった。

 ヘッジファンドなどを中心に日本国債への売り圧力が強まり、長期金利が上昇してきたのに対し、長期金利コントロールを掲げていた日銀は、毎営業日連続無制限指し値オペによって対抗した。その結果、10年債カレントの369回、368回、367回。そして債券先物3月限のチーペスト、10年債の358回の4銘柄で発行額に対する日銀の保有残高が帳簿上の計算で100%を上回った。

 物価に応じた金利形成をしようとしたところ、強引に日銀に抑えられ、その結果、債券市場の機能が大きく低下した。

 これも長期金利は本来、市場にて形成させるべきという「債券自警団」の圧力によるものとの見方もできるのではなかろうか。

金融アナリスト

フリーの金融アナリスト。1996年に債券市場のホームページの草分けとなった「債券ディーリングルーム」を開設。幸田真音さんのベストセラー小説『日本国債』の登場人物のモデルともなった。日本国債や日銀の金融政策の動向分析などが専門。主な著書として「日本国債先物入門」パンローリング 、「債券の基本とカラクリがよーくわかる本」秀和システム、「債券と国債のしくみがわかる本」技術評論社など多数。

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