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北朝鮮で抑留中の米国人大学生の突如釈放の裏に米特使が!

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
裁判に掛けられ、15年の懲役を宣告された米国人大学生

昨年1月に観光目的で入国した北朝鮮で「反共和国敵対行為容疑」で身柄を拘束され、15年の懲役刑(労働教化刑)が科されていた米国人大学生オットー・ワームビア氏(22)が昨日(13日)1年5か月ぶりに釈放され、米国に帰還したが、米国の対北政策特別代表でもあるジョセフ・ユン6か国首席代表が前日の12日に平壌を電撃訪問していたことがわかった。

今回の米国人大学生の釈放には一部では昨日、平壌入りした元米NBAスター、デニス・ロッドマン氏との関係が取り沙汰されているが、米国務省が直接関与し、釈放させたことが明らかとなった。

ワシントンポストなど外国メディアの報道によれば、ユン代表は二人の医師と共にチャーター便で入国し、昏睡状態に置かれているとされる大学生に面会した後、北朝鮮側に人道的な観点からの釈放を要請し、北朝鮮がこれを受け入れた。

米国務省はユン代表の訪朝をめぐって米朝両国がオスロとニューヨークで非公式接触を行った事実を認めている。米国側はユン代表、北朝鮮側はオセロでは崔善姫外務省対米局長、ニューヨークでは国連駐在の慈成男大使が交渉にあたったようだ。

米国人抑留者が釈放された過去のケースをみると、その多くの場合、米要人が訪朝したことで、実現に至っている。その主なケースをみると;

金正日政権下の2009年3月に米人女性ジャーナリスト2人(米カレントテレビ所属のローラ・リングとユナ・リー)が不法入国容疑で拘束。その後「敵対行為の嫌疑」で12年の労働教化刑を宣告されたが、この年の8月にクリントン元大統領が訪朝したことで釈放。

また、2010年1月にも米国人宣教師(アイジャロン・ゴメス)が同じく不法入国で拘束され、8年の労働教化刑と罰金50万円の刑が宣告されたが、8月にカーター元大統領が訪朝したことで釈放。

同年11月には韓国系米国人宣教師(チョン・ヨンス)が不法活動を理由に拘束される。翌年の2011年4月に国務省のキング人権担当大使が訪朝し、米政府を代表して事件発生に遺憾を表明し、再発防止に最善を尽くすと約束。3日後に釈放が決定。逮捕から6か月後に釈放。

さらに、2012年11月に韓国系米国人観光業者(ペ・ジュンホ)が「共和国に敵対する行為を働いた」容疑で逮捕される。翌2013年4月最高裁判所で「反国家敵対犯罪行為」の罪で労働教化刑15年が宣告され、特別教化所に収容されたが、2014年11月にクラッパー国家情報長官が極秘訪朝したことで2014年4月に観光目的で入国した直後、入国管理局で観光ビザを破棄しため身柄を拘束されていた米国人(マシュー・トッド・ミラー)と共に解放された。ペ氏は釈放されるまで2年かかった。

ペ・ジュンホ氏と共に釈放されたミラー氏(26歳)は「問題を起こして、収監されれば、収容所の実態を暴ける」というのが入国目的だったことがわかり、2014年9月の裁判で「敵対行為」の罪で労働教化刑6年が言い渡されていた。

釈放を働きかけたのは米要人ではないが、2014年4月に観光で訪朝し、咸鏡南道の清津旅行中に滞在していたホテルの部屋に聖書を置いていったとして出国直前に逮捕され、拘束されていた米国人(ジェフリー・ファウル)が半年後の10月に釈放されたが、ロシア人の夫人がプーチン大統領に嘆願していたことが功を奏したと言われている。

北朝鮮はペ氏については母親と面会させたり、デニス・ロッドマン氏を媒介にしたり、労働新聞を通じて秋波を送ったりしていたが、それでもオバマ政権が動かないことに苛立ったのか、2014年1月には異例にも「反国家敵対犯罪行為」の罪状で労働教化刑15年を宣告されていた「囚人」に記者会見をさせていた。

ペ氏は記者会見で「政府もマスコミも私の問題にもっと関心を払ってもらいたい。米政府は私の釈放のために北朝鮮と密接に協議してもらいたい」と、北朝鮮との対話に乗り出さないオバマ政権に不満を吐露していた。明らかに北朝鮮の意向を代弁させていた。2014年9月にも平壌のホテルでCNNにペ氏とファウル氏、ミラー氏の3人にインタビューさせ、それぞれの置かれた状況を説明して米政府に助けを求めるようにさせていた。

北朝鮮は今回、オットー・ワームビア氏の釈放に踏み切ったのは、病状悪化が原因のようだ。北朝鮮で亡くなるようなことになった場合の米政府、世論の反発を恐れ、米国側に引き取るよう求めたのではないかと推測される。

北朝鮮は2013年にも朝鮮戦争(1950―53年)に従軍していた時の行為を問題にし、北朝鮮観光中の米国人旅行者メリル・ニューマン氏(85歳)を出国直前の10月26日に身柄を拘束したことがあったが、やはり高齢と健康上の理由で拘束から42目に釈放していた。

過去のケースでは、どれも米朝関係改善に繋がることはなかった。今回の米国人大学生の釈放も核・ミサイルで対立を深める米朝の関係改善の布石となる可能性は低い。しかし、金正恩委員長ともトランプ大統領とも親密な関係にあるデニス・ロッドマン氏の訪朝と共に注目されることだけは確かなようだ。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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