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本当に覚悟してる? プライベートキャンプ場のための森林購入

田中淳夫森林ジャーナリスト
自分だけのキャンプ場を持つのは憧れでもあるが…(写真:アフロ)

 今、「森林購入」がブームだそうだ。それもプライベートキャンプ場をつくるのが目的だという。

 テレビ番組や新聞などがこうした話題を相次いで取り上げている。私のところにも何かとコメントを求める申し込みがやって来る。

 ただ私が「素人が森林を買う」ことの問題点やデメリットを説明しても、ほとんど採用されない。あくまで明るい話題として「森林購入」を取り上げたいのだろう。

 たしかに今年になって森林を買いたいという人が増えたのは事実らしい。どうやら芸能人のヒロシが、自分で山を買ってプライベートキャンプ場づくりをしていることをユーチューブで配信したことがきっかけだとか。そして、思いがけず森林が安いことを知る。何千坪の土地がせいぜい数十万円なのだ。これなら自分の小遣いでも手が出るぞ、と気づいたのだろう。

意外と頻繁に行われた森林売買

 せっかくだから、森林売買に関する事情の推移を紹介しておこう。

 まず、これまでも山(もしくは森)の売買は、結構頻繁だった。先祖代々引き継いできた山…といった言い方をする人もいるが、かなりの頻度で所有者が変わっているのが普通だ。おそらく2、3代以上前から持っている森林は多くないだろう。

 戦後は、木材価格が高騰したため森林の購入が多くなった。購入者は、当然山にある木を伐って売る、あるいは木を植えて林業を行うことを目的に購入するのだ。

 だが林業が斜陽になり、木材価格も安くなると、森林売買も沈静化する。

 そんな林業斜陽時代の森林売買というと、その山に道路や鉄道を敷く、工業団地やゴルフ場を建設するといった目的が多くなる。最近では、メガソーラーを建設するケースもある。バイオマス発電の燃料として生えている木をすべて伐採して、その後は放置されることも起きる。いずれも森を森でなくしてしまう使い道だ。そのため森林売買によいイメージがなくなってきた。

 むしろ所有者が森を捨てる(相続や経営を放棄する)ことの方が話題に上がりやすくなってきた。

外資が森を奪う?原野商法も

 2010年前後から、今度は「外資が日本の森を奪う」という声が突如出てきた。ようするに外国人・外国籍の会社が日本の土地を奪う(もちろん正規の手続きで購入する)ことに危機感が現れたのである。なかには「日本移住のため」「日本の水資源を狙っている」という推測(妄想?)が幅を利かせ始める。

 実際に取材してみると、つまらないガセネタだった。山を買って水を取るというのも、非科学的である。もちろん森を購入する外国人も多少はいるだろうが、たいてい別荘地とかその周辺の土地だ。むしろ「外資が森を奪おうとしているから日本人に買ってほしい」というネタで山林ブローカーが暗躍したというのが本当のところだろう。これは原野商法に近い。

 そして今年になっていきなり「キャンプ場にするため」の森が買われ始めたというのである。これまでと違って、牧歌的な理由だけに、マスコミも楽しいネタとして扱えると飛びついたか。だから楽しくない私のコメントは、カットされるのかもしれない(笑)。

甘くない草刈りや伐採

 私は、何も一般人が森林を購入してそこでキャンプすることを否定したいのではない。キャンプを通して自然と親しむ機会が増えるのはよいことだ。また下手なキャンプ場では、シーズンだとすし詰め状態で、見知らぬ他人の目を気にしたり、騒音などマナー違反も発生する。それに木を伐ったり、たき火したりするにも制約があって難しい。その点、自分の土地で自由にキャンプ、というのは憧れだろう。

 実は私も親戚から引き継いだわずかな山林を持っており、よく似たことをやっている。だから魅力は知っているつもりだ。

 だが、森林を所有して利用しようとすると、甘くない事項がいろいろある。

 ここで細かな山林に関する法律や税金の話は控えるが、たとえば建築物を建てるのは慎重にしなくてはならないなどの問題はある。

 もっと身近な例で言うと、草刈りが大変。日本の山は、放置するとたいてい草ぼうぼう、低木がびっしり生えてブッシュになる。それではキャンプもできない。だからせっせと刈らねばならないが、1か月もすればまた草ぼうぼうになる。もし月1のスパンのキャンプを行うつもりだったら、行くたびに草刈りに時間を費やさないといけないだろう。

 また木の伐採も慎重にやらないと、死傷事故につながる。チェンソーの事故は多いし、倒れる木を制御できずに人を傷つけることは非常に多いのだ。

野生動物や虫の大群の出現

 そして野生動物の恐怖にも備えないといけない。とくにイノシシは増えている。もし、食べ物を外に置いておいたり、食べ残しを捨てたりすると、臭いで寄ってくる。埋めても掘り返す。少々の網や柵はあっと言う間に壊される。

 最近はクマもよく出るようになった。食べ物を不用意に出すと、野生動物を誘引してしまうから注意が必要だ。

 たき火をして、煙が上がると、近隣の人が山火事と間違えて通報したり、怒鳴り込んでくることも少なくない。事前に「ここで今晩キャンプします。たき火もします」と伝えるような手間も必要となってくる。(伝えても、たき火は絶対許さないと拒否する人もいる。)

 水の確保も大変だ。沢があるからと勝手に引いたら地元の水利権に抵触する場合がある。逆に平坦な場所は雨が降ると、すぐに水浸しになる土地もある。そのうえヒルが群生しているケースだってある。それでなくても、虫が多すぎてうんざりすることは多い。

大雨で崩壊すると賠償問題?

 より恐ろしいのは、近年頻発する台風・大雨で崩壊することだ。もし自分の森林が崩れて他人の土地(宅地や田畑)を傷つけたら大変だ。あるいは倒木が道を塞ぐような事故も起きる。その倒木が電線や電話線を切断したら大騒動となる。もしかしたら賠償責任を問われる可能性だってあるだろう。緩やかな斜面でも、雨が一カ所に流れ続けたら、地面が抉れて気がついたら深い谷(深さ2~3メートルぐらいは珍しくない)になってしまう。

 だが、そうしたこと以上に私が心配しているのは、「本当にキャンプ場として生涯(少なくても数十年)利用するの?」という点だ。おそらく飽きてくることもあれば、事情で通えないことも起きるだろう。年をとれば体力的にきつくもなる。

 利用しなくなれば、山は荒れる。ブッシュになって近寄りがたくなる。すると、いよいよ行きたくなくなる。結果、放棄林となるだろう。もともと不在地主だろうが、忘れられた土地になる。本当は使わなくなった時点で処分すればよいのだが…。

キャンプに飽きたら忘れられる森

 キャンプ場に向いた森林として売り出されるのは、たいてい小さく分筆しているが、そうした狭い土地(森林業界?では1ヘクタール程度の広さでは、狭くて価値がないとされる)が所有者不明になれば、手を付けられなくなる。仮に所有者が亡くなった場合、ちゃんと相続登記されないと、さらに複雑に分散してしまう。

 こうなると誰も手を付けられず、将来的に地元の人が道を入れようとしても無理となるし、利用不可能になる。外国人が所有する以上に厄介な存在になるだろう。

 だから、森林を所有することには覚悟を持ってもらいたい。安いからとりあえず買っておくかと安易に購入すると、後々自分が後悔するだけでなく、地域にも迷惑をかけかねないのだ。だから私のちょっと否定的なコメントもカットせず注意を払ってほしい(笑)。

 改めて付け加えるが、自分の森林を持ってプライベートキャンプを行うのは、楽しい行為だ。より深く森と触れ合うきっかけになるだろう。だが、どんな形であれ森林の所有には、長期的なヴィジョンを持ってほしい。その覚悟がないと、結局森嫌いになるだけかもしれない。

森林ジャーナリスト

日本唯一にして日本一の森林ジャーナリスト。自然の象徴の「森林」から人間社会を眺めたら新たな視点を得られるのではないか、という思いで活動中。森林、林業、そして山村をメインフィールドにしつつ、農業・水産業など一次産業、自然科学(主に生物系)研究の現場を扱う。自然と人間の交わるところに真の社会が見えてくる。著書に『鹿と日本人 野生との共生1000年の知恵』(築地書館)『絶望の林業』『虚構の森』(新泉社)『獣害列島』(イースト新書)など。Yahoo!ブックストアに『ゴルフ場に自然はあるか? つくられた「里山」の真実』。最新刊は明治の社会を揺り動かした林業界の巨人土倉庄三郎を描いた『山林王』(新泉社)。

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